6510058 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

PR

プロフィール

パパぱふぅ

パパぱふぅ

キーワードサーチ

▼キーワード検索

フリーページ

カテゴリ

バックナンバー

2024.03.06
XML
カテゴリ:書籍
神秘のセラピスト

神秘のセラピスト

 羽村佐智「確率なんてどうでもいいんです。治るか治らないか、2つに1つなの。これまで医者の勧めどおりに治療を受けてきた。そうすれば、完治する可能性が高いって言われて。でも、あの子はいまも治っていない」
著者・編者知念実希人=著
出版情報実業之日本社
出版年月2024年2月発行

■雑踏の腐敗
天医会総合病院 (てんいかいそうごうびょういん) の統括診断部外来診察室を訪れた宮城椿 (みやぎ つばき) は、弟の辰馬 (たつま) が外に出ると体が腐ってしまうと怯えていると訴えた。担当の小鳥遊優 (たかなし ゆう) は、紹介元の総合病院の検査データに目をとおるが、とくに異常は見当たらない。辰馬は、自宅に戻れば腐りはじめていた部分も元に戻ると言い、精神科の受診は拒否しているという。
「面白い!」と、統括診断部長の天久鷹央 (あめく たかお) が診察に割り込んでくる。
週末に鷹央は優をともない、辰馬を往診する。辰馬が渋谷駅に行ったときだけ体が腐るというので、4人で渋谷駅へ向かった。鷹央は途中で脱落してしまうが、3人がスクランブル交差点を半分ほど渡ったところで、優は、辰馬が指先から耳まで変色していくのを目にした。
人混みが苦手な鷹央はハチ公像の近くでうずくまっていたが、すでに辰馬の異変を解明する仮説を立てていた。ただ、確定診断をくだすために、ちょっとした検査が必要だという。寒空の下、鷹央は優に辰馬の採血をするように指示する。すると‥‥。なぜスクランブル交差点を渡るときに限って症状が出たのか、鷹央が説明する。

■永遠に美しく
統括診断部外来診察室を訪れた島崎美奈子 (しまざき みなこ) は、「母に恋人ができたんです」と小鳥遊優 (たかなし ゆう) に訴えた。その恋人というのが、「気」を使った若返り治療をやっている鍼灸師だという。72歳の南原松子 (なんばら まつこ) の写真を見ると、1年前の写真とは別人だった。顔のしわは目立たず、皮膚には張りと光沢が見られる。美奈子と姉妹に見えるほどだ。
「おお、これはすごいな」、と統括診断部長の天久鷹央 (あめく たかお) が診察に割り込んでくる。美奈子によれば、母はその鍼灸院を何人かに紹介し、「特別な治療」を受けた3人は一見して分かるぐらい若返っているという。
鷹央と優は週末に南原松子を訪ねた。鍼灸師は神尾秋源 (かみお しゅうげん) といい、1回の治療で3万円。最初の1ヶ月は30~40万円で、そのあとは月に6万円という価格設定。
鷹央と優は神尾秋源の治療を見学することになった。松子は優の心の中を見透かしたかのように、「胡散臭いでしょ、この人」と言う。
鷹央は神尾秋源の治療を受けたいと申し出るが、彼は「だってお嬢ちゃん、中学生だろ? まだ十分若いから、若返る必要なんてないよ」と応じたものだから、鷹央は殺気すらはらんだ目で抗議しようとしたところ、優は彼女を小脇にに抱えて退散する。
2週間後、鷹央は優に車を出せと命じる。神尾秋源の犯罪を暴きに行くと言い出した。神尾鍼灸院に着くと、家宅捜索令状を持った田無署の刑事、成瀬隆哉 (なるせ りゅうや) と数人の男が待っていた。
「素人のくせに俺の治療にけちをつけようって言うのか」と反論する神尾秋源に対し、鷹央は「私は素人じゃないぞ。医者だからな」と薄い胸を張る。
逮捕された神尾秋源は自らの罪を認めたが、南原松子のケースだけは違っていた。果たして事実は‥‥。

■正邪の刻印
小児科部長の熊川 (くまかわ) は、「患児は羽村里奈 (はむら りな) ちゃん、9歳、3年前に息切れでうちの救急部を受診、重度の貧血を認めたので入院して検査したところ、急性リンパ性白血病と診断された」と言う。治療法は骨髄移植しかない。幸い、ドナーが見つかった。ところが、医療不信に陥っている母親の羽村佐智 (はむら さち) は、「神様のお告げ」があったとして移植を拒否する。
「神様のお告げ」をした預言者の奇蹟を検証すべく、天久鷹央 (あめく たかお) 小鳥遊優 (たかなし ゆう) 、そしてコールドリーディングを得意とする詐欺師の杠阿麻音 (ゆずりは あまね) 田無保谷 (たなしほうや) カトリック教会へ向かった。預言者の名前は天草炎命 (あまくさ えんめい) といった。だが、炎命を観察する優にはホームレスにしか見えなかった。
セーラー服を着て変装した28歳の鷹央は「たしかキリスト教では、赦しを与えられるのは神と、その独り子であるイエス・キリストだけだったはずだ。どんな権限で、その男は罪を赦しているんだ?」と森下則夫 (もりした のりお) 神父に詰め寄る。だが、集まった信者の怒りが鷹央に向けられ、優は鷹央を連れて逃げ出した。
2人は天医会総合病院 (てんいかいそうごうびょういん) の屋上にある“家”に帰るが、炎命に浸水する元暴力団員の田山に襲われる。なんとか田山を撃退するが、鷹央は数ヶ月前に白血病で命を落とした三木 (みき) 健太のことを思い出し弱気になっていた。
優に病室へ連れて行かれた鷹央は、里奈と話をした。そして、張りのある声で「あの詐欺師の化けの皮を?いで、里奈の命を助けるぞ!」と言った。
鷹央は、彼女に憧れる研修医の鴻ノ池舞 (こうのいけ まい) と杠阿麻音を呼び寄せ、何かを準備していた。そして、バチカンからの奇蹟調査官コスタ神父と通訳のルッソが到着し、鷹央は「それじゃあ、いっちょ“神狩り”としゃれこむか」と言って不敵な笑みを浮かべた――炎命の正体とは、そして里奈は助かるのか。鷹央は言う。「私は科学者だから、どんなものでも疑ってかかる。その上で検証を重ね、最後まで残ったものが真実だ」。

■詐欺師と小鳥遊優
外来を終えた小鳥遊優 (たかなし ゆう) は、商社マンの諏訪野良太 (すわの りょうた) が主催する合コンに参加した。優は湊川瑠璃子 (みなとがわ るりこ) に一目惚れ。ところが、女性陣の中にコールドリーディングを得意とする詐欺師の杠阿麻音 (ゆずりは あまね) が混ざっていた。阿麻音は優に、鷹央への伝言を託す。「縁があったらまた会いましょ。できれば次は敵として」。

(感想)
■雑踏の腐敗
トリックのネタは、聞いたことがないけれど実在する病名――医師でもある作者の知念さんのネタ帳は、ドラえもんの四次元ポケットか?
本編の初版は2017年3月――コロナ禍前のことで、2013年6月のDJポリス出動よろしく、舞台となる渋谷のスクランブル交差点は大勢の人が集まっていた。私は東京生まれ東京育ちで、一時期は道玄坂に勤務していたのだが、ハロウィンの夜のスクランブル交差点の混雑は常軌を逸していた。沖縄出身の知念さんはどう見たのだろう。
最後に、鷹央は椿が間もなく結婚することにも気付いており、傷心の優に向かって鷹央は「そう、腐るなって」と声を掛け、リフレインのように締めくくられる。

■永遠に美しく
神尾秋源という名前からして胡散臭い。犯罪者であることは最初から分かっているのだが、その謎解きをしてみせるのが「天久鷹央」シリーズの醍醐味。
さて、最後に鷹央の姉であり、病院事務長の天久真鶴 (あめく まづる) が登場し、「いや、姉ちゃん。違うんだ。あの……、ちょっと……。おい小鳥、助け……」と恐怖で引きつった鷹央の白衣の袖を掴んで引きずっていく。『スレイヤーズ』の「郷里の姉ちゃん」を思い出し、そうか、鷹央はリナ・インバースだったのか?

■正邪の刻印
熊川や鷹央は医師として、骨髄移植のリスクとベネフィットを何度も佐智に説明したようだ。そして、未成年の移植手術には親の同意が必要だ。しかし彼女は「確率なんてどうでもいいんです。治るか治らないか、2つに1つなの」と言って移植を拒否する。
こういったシーンは、現実の医療現場でも頻繁に起きているのではないだろうか。リスクは統計的確率で語るもの。しかし、患者(の家族)が求めているのは「治るか/治らないか」の二択――両者の間の溝は深い。
優が統計を持ちだして鷹央を励ますシーンがある。鷹央は「統計的にか。なんか科学的に聞こえるが、実際はなんの根拠もない話だな。お前らしいよ」と茶化すが、この言葉に励まされたことは確かだ。
知念さんは、この両者の溝を埋めるのが「会話すること」と言いたいように感じた。科学は正しい、そして信仰もまた正しい。両者の結論が相反するときのために、われわれに人間には会話をする能力が与えられているのではないだろうか。






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2024.03.06 12:55:33
コメント(0) | コメントを書く



© Rakuten Group, Inc.