党首討論に対する朝日・読売社説
昨日、福田首相と民主党小沢代表の党首討論が行われました(こちらを参照)。本日(2008年1月10日)付の、読売新聞社説、朝日新聞社説が党首討論を採り上げているので、私も考えてみることにします。なお、当ブログの新聞記事の著作権に対する考え方については、こちらを参照。朝日社説は、「党首討論―座布団を飛ばしたい」と題して、特に、民主党小沢代表の姿勢を酷評し、読売社説も、「福田VS小沢 『党首討論』はこれでいいのか」と題して、内容が低調だったと言いたいようです。朝日社説の裏にある考え方は私も共感できるので、酷評したいのはわからなくはないですが、党首討論は「朝まで生テレビ」ではないので、国民は党首同士の「激突」を期待してはいないと私は思います。読売社説も「裏切る結果に終わった」と書いていますが、冷静な議論があれば良いので、「白熱した論戦」がないからと言って、期待を裏切ることにはならないと思います。むしろ、元旦の「朝まで生テレビ」の方が、時々長妻昭議員が突っ込みを入れて盛り上がる場面もありましたが、白熱した激論という点では物足りなかったのに、朝日新聞が、党首討論が「激突」でないから「座布団」というのはちょっと違うのではないかと思いますね。朝日社説は、その最後で、 そのぎりぎりのタイミングで、頓挫したとはいえ2カ月前には大連立で合意した両党首がどう切り結ぶのか。国民の視線が集まるクライマックスだった。それが形ばかりの論戦で、まともにぶつかろうとしないまま終わってしまった。興ざめもいいところだ。(中略) この大詰めの時期に、民主党はどうにも迷走気味である。こうした事情が給油問題に対する小沢氏の弁舌を鈍らせたとすれば、民主党の政権担当能力を疑わせる深刻な事態だというほかない。と書いています。「興さめ」になってしまったのは、衆議院で政権与党が3分の2の議席を持っていることによる民主党の無力感から来るのであって、その責任は、2005年夏の衆議院選挙で「刺客報道」に明け暮れて有権者の判断を誤らせてしまった朝日新聞・読売新聞の責任だと私は言いたい。いったい、「小泉郵政民営化」によって郵便局は便利になったのか、地方の簡易郵便局が閉鎖されてしまったり、窓口で食ってかかる利用客が存在していることに対して、朝日新聞・読売新聞は責任を負うべきです。記者会見においても、小沢代表は、衆議院の解散をする権限は首相にあるのであって、我々が解散させるわけではない、と、言っています。民主党が解散に追い込めない、という理由で、朝日・読売が民主党を非難するのは筋違いです。確かに、党首討論が怒鳴り合い状況にでもなれば、面白い記事が書けて新聞が売れると思いますが、日本の政治は新聞の販売部数のために行われているのではありません。朝日社説は、 45分間の討論の最初の3分の2を費やして、小沢氏がとりあげたのは「宙に浮いた年金記録」の問題だった。 この問題が、国民の暮らしと安心に直接かかわる重要テーマであることはいうまでもない。小沢氏にすれば、今月中旬からの通常国会で政権を解散・総選挙に追い込むための最大の攻め口と意気込む思いもあるのだろう。 だが、再延長された国会も最終盤のいま、小沢氏には何をおいても首相にただすべき別のテーマがあったはずだ。インド洋での海上自衛隊の給油活動を再開するかどうかの問題である。と書きます。朝日社説ライターの言いたいことは実は私も同感なのですが、今、国民の関心は海上自衛隊の給油活動にあるのでしょうか?そんなことはどうでも良い、と、言う人が多いと思いますけどね(私は、朝日社説同じく重要だと思っていますが)。「生活第一」を民主党のスローガンに掲げる小沢代表が、国民の関心事である「年金」を重点的に採り上げるのは、国民の声を背景に党首討論の場に立つ野党党首として、私は、当然のことだと思います。朝日社説が、 民主党は政府の給油新法になぜ反対なのか。アフガニスタンへの民生支援に重点を置く対案のどこが、なぜ優れているのか。民主党が考える日本の貢献のあり方を主張し、政府案との違いを訴えるべきだった。それでこそ、政権を目指す責任政党といえるのではないのか。と、朝日社説ライターが力むことは、まさに、私もそう思いますが、小沢代表は、だからこそ、私見を雑誌「世界」で公表したのであって、国会の党首討論の場では、自分は民主党総体の意見を代表しているのだから、個人的見解を持ち出すわけにはいかない、ということだと思います。民主党は、「政策マグナ・カルタ」の中で、国連憲章第41条(経済的制裁)、第42条(武力制裁)の活動に積極的に参加する(「我が国の主体的判断と民主的統制の下に」という条件が付いていますが)と、書いているのですが、私は、時間がかかっても、何とか、「第42条」の方を削除させることができないものか、と、考えています。しかしながら、現時点の党首討論の場で、話を急展開させるということがあるはずがありません。それができてしまうのであれば、民主党の政策決定プロセスには民主主義がないことになってしまいます。朝日社説が、民主党が「迷走気味」と書くのは、日本中が戦争一色に染まってあの惨めな敗戦を喫したことへの反省がない、としか言いようがありません。民主党内に、また、日本国内にいろいろな意見があるのが当然であり、迷走するから「民主主義」なのであり、政権担当能力が「ある」のです。読売社説は、党首討論で小沢代表が年金問題を持ち出したことについて、 だが、この問題は、小沢代表が指摘したように「福田首相一人の責めに帰す話ではない」。厚生労働省と社会保険庁の積年の不始末がもたらしたものだ。 無論、年金記録漏れ問題はゆるがせには出来ない。着々と照合作業を進めていくべきだ。だが、党首討論で有権者が聞きたかったのは、安心できる年金制度をどう構築していくか、という設計図にかかわる議論だったろう。と、書いています。全く国民の立場に立とうとしない読売社説には、もう何も期待しませんが、冗談じゃありませんね。「内閣」が行政機能を制御できていないことが、年金に限らず、地方経済の疲弊、度重なる官僚の不祥事、巨額の財政赤字の原因です。まるで評論家のように、首相が「行政が何十年にわたってずさんなことをしてきたことが原因だ」などと解説してくれても困ります。なぜ、官僚機構が本来の仕事を誠実に行うように、内閣が官僚機構を統制できなかったのか、歴代自民党内閣の問題であって、厚労省や社会保険庁の役人に責任をなすりつけて終わる問題ではありません。また、年金の管理が「日本年金機構」などという民間組織に移行してしまえば、日本の年金システムは崩壊してしまうだろうと私は思います。「検証 戦争責任」という本を出版しながら、戦争をやりたくて仕方がないのか、読売社説は、 党首討論では、自衛隊の海外派遣に関する恒久法の制定を念頭に議論を交わすこともできたのではないか。 民主党の対案は、恒久法整備の方向性を示している。首相と小沢代表による昨年11月の党首会談でも主要テーマになった。恒久法の必要性について、両党は基本的には一致している。新テロ法成立後、政策協議を進める必要がある。と書いています。自衛隊の海外派遣をするための「恒久法」などあり得ません。「国際貢献恒久法」は、自衛隊を海外派遣せず、経済的支援に限定することを明記すべきです。上記に書いたように、自民党も民主党も自衛隊を海外に派遣するという点では同じであって、私のように、自衛隊は日本の国土・国民を防衛するための組織であり、(表敬訪問のようなものを除いて)全ての海外派遣に反対する、と、考える人間には、2大政党制の下では選択肢がないのです。ですが、2大政党による選挙において数の上に出てこなくても、日本人の4分の1は、自衛隊の海外派遣に反対していると私は思っています。イラクに派遣された陸上自衛隊は幸いにも銃撃戦などには遭遇しませんでしたが、自衛隊を海外派遣する内にはいずれ、ゲリラなどに襲われて、銃撃戦となる事態が発生すると思います。重火器が使えずに、自衛隊に被害者が出れば、自衛隊員の基本的人権が侵害されたことになります。重火器を使って戦闘状態に陥れば、明確に憲法9条違反であり、また、中国・朝鮮半島・ロシアは、日本は戦争する国に戻ったと判断し、日本海、東シナ海、オホーツク海には緊張が走ることになるだろうと思います。ミサイルが日本に向けられ、日本は、MD網整備のために、何兆円、何十兆円、何百兆円のカネを使っても安心を得ることはできなくなるでしょう。こんなことが日本の国益になるはずがありません。かつて、ソマリアの不幸も、最初は、人道的食糧支援のボランティアがソマリアを助けて欲しいと言い出したことから始まったように記憶します。ソマリアを助けるために向かったはずの米軍が、食料を奪いに来る犯罪者集団とやり合ううちに、民間人にまで被害が及ぶようになり、結局、ソマリア人から敵視されるようになってしまったのです。救出のヘリに乗り込むことができずに虐殺されてしまった米兵に、何の責任があったと言うのでしょうか?欧米流の武力による紛争解決は、結局は「国際平和活動支援」にはなり得ないのです。武力支援がなければ食糧支援ができない、というのなら、食糧支援は中止すべきです。国際貢献は、あくまで、現地人の手による治安回復が前提条件であって、国連憲章第41条に記される、治安要員の訓練、治安用装備提供や経済的支援に限定されるべきです。そもそも、国連憲章第42条は、"it may take such action by air, sea, or land forces......"という書き方であって、"it may"なのであり、「武力を用いても許す」とは言っていても、義務規定ではないのです。--------------理工系受験生向け大学入試問題研究サイトはこちら大学入試問題検討ブログはこちら---------------応援、激励、賛同のコメントはこちらへお願いします。