日銀総裁適任者は他にいないのか
「日銀総裁の空席回避が日本の責務」と題して、本日(2008年3月13日)付日経新聞社説が、日銀総裁人事の問題を採り上げています。まず、日経社説は、 世界の金融が不安の連鎖の瀬戸際にあるのに、日本の参議院は政府の提示した武藤敏郎日銀総裁案を否決した。米欧の主要中央銀行が緊急の資金供給策を発表したとはいえ、米国発の国際金融危機は深刻だ。日銀総裁の後任人事を早急に決めることは、日本の国際的な責務である。と書きます。世界が「日本の国際的な責務」と言ってきてくれるのなら、私は、日本人は自信が回復できるだろうと思います。しかしながら、私は、「米国発の国際金融危機が深刻」であることと、「日銀総裁人事を早急に決める」こととの間に脈絡を感じないのです。一つ前の日記でも、二つ前の日記でも書きましたが、日本の一人当たりのGDPは、もはや先進国中の18位にまで落ち込んでいます。現状で世界第2位の経済規模と言っても、中国の追い上げは凄まじく、他にも新興国の台頭が見られる中で、相対的な日本の地盤沈下は必至の状況です。そして、もっと憂うべきことは、成長する新興国と競争できるだけの新規ビジネス・モデルを日本がまだ見つけることができていない、ということです。電気自動車への転換の橋渡しとして期待されるハイブリッド自動車も、欧州勢の改良型ディーゼル車の前に苦戦が予想されるそうです。IT関連については、日本人のIT嫌い、迷惑メールの横行、紙媒体にしがみつく大手新聞などにより、米国だけでなく、中国・インドの人海戦術にも水を空けられつつあります。道路建設を中止して環境ビジネスに移行しようというかけ声も、宮崎県知事の「道路を造れ」という大声の前にかき消されてしまいそうです。そして、この日本の地盤沈下の原因は、日本の円安政策にある、と、当ブログでは繰り返し主張してきました。見かけ上は円ベースで輸出産業が利益を上げているように見えました。新興国の鉄鋼や建設機械、自動車需要なども大きく、それに助けられた面もあったと思います。しかしながら、日本人が汗水垂らして働いても、円安のままでは、輸入できる原油の量も小麦やトウモロコシの量も抑えられてしまうのです。今、円高基調となり、1ドル=101円近辺まで来ました。これは、1万円で買うことのできる、石油や食料品の量が増えた、ということを意味するのであって、むしろ日本の国力が増大したと歓迎すべきことです。さて、その円安の原因は何だったのでしょうか?それは、円キャリー・トレードなどに見られる、日本から海外への資金流出です。円を売って、海外通貨を買う動きが強いために、円の価値が下がっていたのです。では、何で、円を売ってしまうのか?もちろん、日本国内に魅力的な産業が育ってこない、有望な投資先がない、ということもあるだろうと思いますが、最大の理由は、日本と諸外国の金利差です。日本の低金利は諸外国から歓迎されていた、と言う声もあると思いますが、そりゃあ歓迎されるに決まっています。欧米や新興国が、日本で低金利でお金を借りて、自国や中国・インドに投資すれば金儲けができたのですから。日本銀行が低利で資金供給して、日本の国内産業が成長するのではなく、海外の競争相手を成長させてきたのです。日本人は、海外から喜ばれているのだからいいじゃないか、という、お人好しはやめて、いい加減に自分の将来の心配をするべきです。日銀発の過剰流動性によって、余剰資金の投資先が原油や農産物や金属の現物に向かい、原材料価格が高騰している、というニュースを見て、たまには諸外国を怒らせてみたらどうか、日本人は目覚めるべきであり、イランや北朝鮮の我が儘路線にも学ぶべきです。そして、日経社説もまた、 米欧の対応の中でも注目されるのは、米連邦準備理事会(FRB)が金融機関の保有する連邦機関債などを一定期間引き取り、国債と交換する策だ。その国債を担保に金融機関が資金を調達できるようにする。(中略) もはや何らかの公的な関与が不可欠な段階ではないか。例えば、FRBが政府系金融機関の発行した証券化商品を買い切るべきだとの提案がある。あるいは、銀行が住宅ローンの元金の一部を免除したうえで、米連邦住宅局(FHA)が残りのローンを買い上げてはどうか、という提案もある。ブッシュ政権は公的関与に消極的だが、米国発の金融不安の拡大を抑えるには、病根を除去するような対応が必要であろう。と、全文引用になってしまうので、途中を割愛しましたが、必死に米国経済の心配をするのです。日本経済新聞は、「日本」経済新聞なのではないのか、と言いたくなります。イラク戦争を始めて自滅した米国経済の心配をする前に、日本の経済を心配してくれ、日本経済の将来を支える日銀総裁人事の社説を書いてくれ、と言いたくなります。当ブログでは、イランの問題も書いてきました(昨年12月5日の日記「日章丸を思い出そう」を参照)。米国国内の石油資源は、向こう20年くらいで枯渇すると言われています。石油のほぼ全量を輸入に頼っている日本人がボーっとしている間に、米国は血眼になって、イラク・イランの石油利権を狙っているのです。イランは日本の原油輸入第3位の相手国です。日本の国益を第一とするのなら、イランへの経済制裁を強めろという欧米の動きに日本は軽々しく乗ってはならないのです。イランからの原油輸入を日本が続けて、欧米から非難を浴びるようになってもなお、有力地下資源を持たない日本は、米国の植民地を続けるつもりなのでしょうか?日経社説は、最後に、 日本はサブプライム問題の直接の影響は小さいとはいえ、ねじれ国会の下で福井俊彦日銀総裁の後任人事が暗礁に乗り上げている。危機の歯止め役になるどころか、余計な不安材料を加えるようなありさまだ。政治は金融危機の実態を見据え、国際的な責任を果たすよう動くべきだ。と書きます。まるで、日本が米国経済を救済するために、日銀総裁を早く決めろと言わんばかりです。日経社説ライターには、社説を書く前に、大きな声で「君が代」を斉唱し、日の丸に最敬礼してから、社説を書き始めろと言いたい。日本についてはサブプライム問題の直接の影響が小さいのであれば、欧米の何兆ドルにも達するかも知れないと言われているサブプライム問題は対岸の火事なのであって、国民一人当たりのGDPが先進国中最下位を争うところまで落ち込んでいる日本は、原油価格高騰にどう対処するのか、小麦やトウモロコシを輸出しなくなってきた農業国の動きに対してどう対処するのか、鉄鉱石価格が65%も値上がりしている現状にどう対処するのか、それを第一に心配するべきです。であれば、日銀総裁として、どういう人物が適当なのか、結論は自ずと見えてくるはずです。私は、現日銀総裁は、村上ファンドのスキャンダルがなければ、もっと機動的な金利政策をとり、ここまでの株価下落を起こさないようにしていただろうと思います。次期日銀総裁候補の方は、人が良さそうで、副総裁として総裁を精神的に支えるというのであれば力量はあるかも知れませんが、日本の金融界をグイグイと牽引する腕力があるとはとても思えません。単に、財務省事務次官だったという人を日銀総裁に持ってきて、財務省の制御が日銀に及び、日銀がお札をどんどん発行して国債を買い続け、自動車が走りもしない高速道路をガンガン造り続けることになれば、「危機の歯止め」どころか、それこそこの国は終わりです。日銀総裁ポストを高級官僚の天下り先にするな!人事権を持つ自民党は、もっとほかに、日本金融界のトップとしてリーダーシップをとれそうな人材を求めるべきです。日経社説が、あまりに、米国の心配をするので、米国がどう思っているのか、調べてみましたが、日銀総裁人事のニュースなど、扱いは小さくて、そんなことには関心はない、という感じです。CNNのウェブ・サイトが書いていた記事を引用しておきましょう。The stalemate in the legislature over who will head the central bank of the world's second largest economy is a major embarrassment to the Japanese government, coming at a time when fears are growing about a global slowdown.(原ページには著作権表示がついていてクレームがつくかも知れないので、その際には削除します)確かに、"global slowdown”の心配をしているし、"major embarrassment"と書いてありますが、"embarrassment"の"to"の先は、"world economy"ではなく、"Japanese government"です。どうせ、日銀の金利政策の失敗のために落ち目の日本を見る世界の目は、そんなものです。高級官僚のお知り合いのたくさんいらっしゃる社説ライターが書いているのでしょうけれども、毎日新聞社説も、とりわけ民主党は、「空席は与党のせい」という理屈が通用しないことを自覚すべきだ。と書いていて、あくまで、元財務省事務次官氏を名誉職として日銀総裁にすることに賛成しろと、言いたいようですが、民主党は、明日の日本を案じてくれるのであれば、日銀総裁適任者を提案するように、自民党に強く働きかけるべきです。----------------理工系受験生向け大学入試問題研究サイトはこちら大学入試問題検討ブログはこちら----------------応援、激励、賛同のコメントはこちらへお願いします。