「カクテル(混合酒調合法)」秋山徳蔵著: (3)バーテンダー・ノート/11月20日(土)
3.バーテンダー・ノート【注1】 酒を合せ、酒を扱う方に 混成酒を調合するには、まず必要な酒類、香味料、およびその他のもの一切が、ととのひいるかどうかを改めます。 壜(びん)詰の酒類、飲料水等は、特に壜のまま冷やす必要がある場合の外は、栓を抜いて、其の栓か或いは特種な栓を嵌(は)めて置きます。冷たい混成酒類を調合するには、かならず氷を用意します【注2】。氷は、あらかじめきれいに洗って清潔な器に入れて置きます。 もし、冷たい混成酒類に用いる酒類、沸騰水等を壜のまま冷却する必要ある場合はかならず用いる前に冷やしておきます。温かい混成酒類を調合するには、熱湯を用意します。もし酒類を壜のまま温める必要ある場合は、予(あらかじ)め温めて置きます。 × × 混成酒類に、生か糖水煮の果実を加える場合、その果実を切り刻むには、銀またはニッケル渡金(メッキ)をかけたナイフを用います。また、その果実を、調合器或いはグラスに挟み入れるにも、指でつままず、錆(さび)を生じない匙(さじ)、挟(はさみ)、箸などを選んで用います。 混成酒類に砂糖を混合するには、特別の場合を除く外、酒精類を加える前に砂糖の二倍の水か沸騰水を加えて溶かします。そして、混成酒類に用いる砂糖は、角砂糖、赤砂糖などと特に指定されていない限り、あくのない精製白砂糖を用います。 混成酒類に、鶏卵、牛乳等を混合す場合には、酒精分の少ないものから加えて行くか、または鶏卵、牛乳等を最後に加えます。そして、混成酒類に鶏卵、牛乳等を混合する場合は、急に、振蕩しなければ鶏卵や牛乳が豆腐のように凝縮してしまいます。 × × 壜詰の酒類を、壜のまま冷却させる場合は、氷桶(おけ)に酒類の壜を立てて入れ、周囲に岩塩を混ぜた砕(くだ)き氷を詰めて冷やします。しかしビールは、夏季でも四十度位【注3】の冷たさで結構ですから、冷蔵するよりも涼しい場所に立て並べて置けば充分です。 街のレストランやカフエ、バーなどで注文しても、壜詰のビールには、稀により冷え過ぎた無味な物を発見しません。けれども、生ビールは、往々、味は勿論、色がどす黒く変わった、ただちに下痢を起こさせるようなものが給仕されて居ります。 葡萄酒類(シェリー酒、ポートワイン等も含んでおります)は、特別な場合を除く外は全く冷やす必要がありません。そして、葡萄酒類は、上等になればなるほど、沈殿物が多い筈(はず)ですから、用いる前乱暴に取り扱うと濁って飲めなくなります。 壜詰の酒類を貯蔵するには、空気の流通する棚に臥(ね)かして積みます。かくして置けば常に栓が湿っていて蒸発が防げます。壜詰の酒類を温める必要ある場合は、桶の中に立てて微温湯をつぎ入れ、漸次熱い湯を足して行き、必要な温度に温めます。【注1】原書では、なぜか「ノート・バーテンダー」という表記になっているが、ここはより自然な「バーテンダー・ノート」とした。【注2】欧米で製氷機が発明されたのは1870年代で、BAR業界での実用化はさらに20年ほど後の1890年~1900年代と言われている。日本で初めて業務用電機冷蔵庫が発売されたのは1930年代後半といわれ、秋山氏がこの本を著した当時は、おそらくは天然氷を使った木製冷蔵庫で氷を保管する方法が主流だったと思われる。ちなみに、製氷もできる家庭用電気冷蔵庫が日本で登場したのは1950年代後半である。【注3】「四十度位」という記述は華氏表記かと思われ、摂氏に換算すれば「4.4度」となる。秋山氏がなぜ華氏で表記したのかは?である。「摂氏4.4度」と言えば、現代の冷蔵庫の中でもかなり冷たい温度で、決して、秋山氏が言うところの「(夏季でも)涼しい場所」とは思われないので、大いに疑問がある(ひょっとして誤植か?)。戦前の日本で、「華氏」表記が一般的だったとは、私はまったく知らない。こちらもクリックして見てねー!→【人気ブログランキング】