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2012.07.27
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カテゴリ:読書日誌

シュタイナー天使学シリーズ『天使がわたしに触れるとき』(ダン・リントホルム著、イザラ書房)に収録されている実話に、特に琴線に触れた物語があったのでそれを転載します。著作権上、問題があるかもしれませんが(汗)。


*******************************


「あなたのエンマ」

地上での人生を、かなり長い時間にわたって振り返ることのできる人は、あちこちに運命の分岐点を見出すことでしょう。このとき、場合によっては、自分がどうしても通過しなければならなかった、狭く険しい、隘路のようなものを見い出すことになるかもしれません。このような隘路を通過したあと、その人の人生は大きく変化したり、あるいは、まったく別の方向に向かったりしたかもしれません。そして、その人はみずからの人生を振り返りながら、しばしばこう問いかけることでしょう。「この隘路を通るときに、わたしの天使はどこにいたのだろう?あのとき、天使は居合わせていたのだろうか?それともあのとき、天使はいなかったのだろうか?」

わたしたちは、しばしば人生の謎に直面します。そしてわたしたちは、こちら側の世界では、このような謎をほとんど解き明かすことができないのです。

ずっと昔に亡くなったわたしの祖母ナターリエ・ムンクが、このような人生の謎について話してくれたことがあります。ナターリエは若い頃、兄弟姉妹といっしょにローマで過ごしました。それは素晴らしい数年間でした。ナターリエの父親はローマで、バチカン宮殿に保管されている古文書の研究を行っていたのです。その頃、ムンク家の人々はマストハラーという名の、ドイツから来た年配の紳士と知り合いになりました。この人物は上品で好感の持てる容貌の持ち主でした。マストハラーはずっと独身でした。彼は事業に成功したあと引退して、余生を送るためにローマにやってきたのです。

ある日、ナターリエは、マストハラーのもとへ招待の知らせを持っていく役目を言いつかりました。当時は電話などというものはありませんから、ナターリエは自分でマストハラーの家まで出向かなくてはならなかったのです。ナターリエが訪れたとき、マストハラーは部屋の片付けをしている最中でした。マストハラーは棚の引き出しを引っ張り出して美しい刺繍のほどこされた絹の財布を手にしていました。当時の財布は一般に、細長いソーセージのような形をしていました。そして、このソーセージ状の筒のなかに金貨を積み重ねていく仕組みになっていたのです。

うら若い娘であったナターリエはこの美しい刺繍に驚嘆し、「その財布をお借りしてもいいかしら。わたしも自分で同じようなものを作ってみたいと思いますの」と、マストハラーに尋ねました。すると、マハストラーはいくらか気分を害した様子でナターリエの手から財布を取り返すと、引き出しの中に投げ込んだのです。しかし、そのあとすぐに、マストハラーは自分の無礼なふるまいを詫びました。そして、ばつが悪そうに、「あなたがこの財布を特別美しいと思われるのなら、お貸ししましょう」と言いながら、再び引き出しのなかから財布を取り出しました。

しばらくして、ナターリエは借りた財布を持ってマストハラーの家に向かいました。彼女は自分の財布を完成したのです。マストハラーはいつものように、愛想よくナターリエを迎えてくれました。ナターリエはからかうような微笑みを浮かべながら、マストハラーに挨拶しました。

「マストハラーさん、わたしが財布のなかに何を見つけたか、お分かりかしら。金の指輪ですわ。そして、指輪のここのところに『あなたのエンマ』と彫ってありますの」

それを聞いたとたんに、マストハラーはよろめき、思わずそばにあった椅子の背もたれをつかもうとしました。顔は真っ青でした。

「あなたの・・・」

マストハラーはとぎれとぎれにこう言いましたが、言いかけた言葉を最後まで終わらせることはできませんでした。驚いたナターリエは、マストハラーを助けるために駆け寄ろうとしました。しかし、マストハラーはナターリエを寄せ付けませんでした。

「すいません、ムンクさん。気分がよくないのです。どうか、今日はわたしを一人にしておいてください・・・」

胸を強く締めつけられるような思いを味わいながら、ナターリエはマストハラーのもとを去りました。数日後、ナターリエはマストハラーから短い手紙を受け取りました。その手紙には丁寧な言葉で、「一度わたしのもとにお立ち寄りください」と書いてありました。ナターリエが訪ねてみると、マストハラーは落ち着いた様子をしていました。まず最初にマストハラーは、前にナターリエが訪問したときに奇妙なふるまいをしたことを大目に見て欲しい、と言いました。そして、マストハラーは、「あなたのエンマ」と書かれた指輪が、なぜあれほどまでに衝撃を与えたのか、そのわけを語ってくれたのです。

「若くて貧乏だった頃・・・」マストハラーはこのように語り始めました。「わたしはハンブルグの、とある商会に雇われました。この商会での使用人と店主の関係は、まさに家父長制度を彷彿とさせるものでした。わたしたち使用人は、年に二、三回、店主の家に招待されました。そこでわたしは、店主の娘のエンマに会ったのです。昼間、店主が自分の妻に連絡したいことがあると、たいていわたしが店主の家まで使いに行きました。このようにして、わたしはエンマと知り合いになったのです。そして、そのようなことがたび重なるうちに、わたしは押さえがたい愛情のとりこになりました。しかし、エンマに結婚を申し込むなど、わたしには思いもよらないことでした。わたしとエンマでは社会的な立場の差があまりにも大きすぎました。

それでも少しずつ、わたしはエンマの目のなかに、ひそかな好意を読み取ることができると信じることができるようになりました。要するに、わたしの胸のなかの至福に満ちた苦しみは、日に日に耐えがたいものになっていったのです。一人になると、わたしはエンマの名をそっと呟きました。机に向かうと、ペンを手にしてエンマの名前を何度も書きました。最後に、わたしは勇気を出して、手紙を通じてエンマに心の状態を打ち明ける決心をしました。そしてわたしは、エンマに当てた手紙のなかで愛情を告白すると同時に、『将来成功する見込みはわずかなものでしかありませんが、それでもなお、わたしはあつかましくも、あなたから好意に満ちた返事をいただけるものと期待しています』といったことも書き添えました。

返事を待つ間の緊張は、とても言葉では言い表すことができませんでした。そして、二週間後に、エンマのもとからある種の返事が届きました。それは空の財布だったのです。そのとき、わたしはこのような返事が返ってくることを予想していました。そこには、一言も添えられてはいませんでした。エンマは、わたしの貧しさをあざ笑うために、このような財布を送ってきたにちがいありません。絶望に沈んだわたしは、それ以上、財布の中身を調べませんでした。わたしは、財布のなかの指輪には気づかなかったのです。わたしは憤慨しながら、次のような誓いを立てました。『この財布は必ず一杯にしてみせる。しかしわたしは、一杯になった財布を彼女に捧げることはないだろう』」

年配の紳士は、そこで息を詰まらせました。しばらくしてから、彼はようやく口を開きました。

「ムンクさん、分かっていただけますか。わたしは、いままでつらい人生を送ってきました。たしかに財布は一杯になりました。しかし、わたしの心はいまでも空っぽのままなのです・・・」

マストハラーはここまで言って、しばらく口をつぐみました。それからぽつりと次のように呟きました。

「あのことは、実現してはならない運命だったのでしょう。なぜなのかは、神様だけがご存じです」

そしてマストハラーは、記念の品として「あなたのエンマ」という言葉が刻まれた指輪を、わたしの祖母にプレゼントしてくれたのでした。







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Last updated  2012.07.27 18:29:01
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