インタラクティブ・コミュニケーション
「クリ、今日の試合どうだった?」「今日は、学校の部活の練習試合で、勝ったよ。」「今日のいいプレーは何?」「あのね、味方のゴールラインの前でボール取って敵のゴール前まで抜いて行ってね、シュートした。入らなかったけど。」「すげーじゃん。何人抜いたんだ?」「7、8人。シュートは左で打って、キーパー正面に行って取られた。」「へー。どうやって抜いたんや?エラシコやった?マルセイユは?」「えーと、マルセイユと、インインとー、ステップアウトと最後クライフ。」「最後のシュートは、何で正面に行った?」「プレスかかって、右で打てなかった。」「左でも打てるじゃん。」「けど・・・。」「そっか。課題ができてよかったな。プレッシャー受けた時の左足と、クライフ2発やって右の練習だな、次は。」「うん。」「クリの8人抜き見たかったなぁ。今度見てるときにやってくれよ。ゴール前からゴール前まで抜いたっていったら、小野伸二の小学生時代とおんなじじゃん。よかったなぁ。練習の成果が出てんじゃない?」「うん。」「マスタリングがんばれよ。」「うん。」「マスタリングは毎日やってるか?」「時間がなくて、できない時もある。」「いいよ、いいよ。それはしょうがないじゃん。次の日、2倍やればいいんだ。」「う・・・うん?」「今日、悪いとこは何だった?」「えーと、監督から“ポジション守れ”って言われた。」「どういうこと?」「“ボランチだから、バックの前にいつもいろ。オフェンシヴハーフより前にでるな。”って言うんだよ。でもチャンスに上がってシュート打ったよ。監督無視。」「監督は、守りが薄くなってカウンター食らうのが、怖かったんだな。DFがしっかりしてれば、ライン上げてコンパクトにできるんだけどな。でも、試合が始まったら、自分の判断でやるほうが正解。チャンスと思ったらがんがん上がってシュート狙っていいぞ。」「そうでしょ。」「けどな、無視はだめ。わからないこととか、思ったことは、後からでもいいから、監督に聞かなきゃだめだぞ。言われっぱなしでわからないままじゃいやだろ。監督の考えを聞いて理解したうえで、試合になったら、自分の判断を信じてやればいい。」「監督に聞いて“だめだ。”って言ったらどうすんの?」「監督の意見と違ったら、また聞く。納得するまで質問する。監督の考えがわかったら、それを守りながら、自分のやりたいことをやる。両方やるには、人の2倍、3倍走るつもりならできる。」「ふん。」「監督とのコミュニケーションは大事。クラブでも一緒だ。何でも質問する。“何でですか?”って聞く。遠慮は要らない。“どうすればいいか?”“自分に足りないことは何か?”“どんな練習をすればいいか?”監督やコーチはちゃんと答えてくれるさ。」「うーん。」「勇気を出して聞いてみな。チャンスやゴールと一緒。自分で取りに行かなきゃ。」「うん。」「ブラジルとかスペインの子供たちは、やかましいくらい質問するらしいぞ。」「へー。」「仲間ともコミュニケーションとらなきゃいけない。」「・・・。」「初めのうち、話しかけるコツはな、まず、質問することや。」「ふん?」「“どうしてそんなに強いシュート打てるの?”とか“フェイントうまいね、それ教えてよ。”とか“ごはん何杯食べる?”とか。どんどん聞く。」「けど、教えてくれるかなぁ?」「あのな、今言ったみたいに最初にちょっと褒めると教えてくれる時が多い。」「クリだったら、褒められなくても教えてやるのに。褒めなきゃだめなの?」「そこがテクニックじゃん。相手を気持ちよくさせて、それで聞く。自分のいいところを言ってくれるということは、自分のことをよく見てくれているんだって思うだろ。そんな相手なら、自分もよく見てやろうとするから、お互いのことがだんだん理解できるようになる。」「ふーん。」「それだけじゃなくて、試合のときとか、練習のときも、チームワークをよくするには、褒めることと、励ますことが大事。」「ふん。」「ほめられたらうれしいでしょ。“ナイスシュートだったぞ。もう1本。”とか、“サンキュー、ナイスクリア。次も頼むぞ。”とか。」「うん。」「よし、次もがんばろうと思うだろ。」「うん。」「それと、誰かが失敗した時。失敗して1番落ち込むのは、本人だと思わないか?“ドンマイ、次がんばればいいんだ。”って教えてあげてみな。そんな風に言ってくれたら、お前だったらどう思う?」「んー。“次がんばろう。”と思う。」「“何やってんだよ。”って言われたら?」「“うるせー。おまえだって・・・。”とか思う。」「そう、そう思って反発したくなるだろ。」「うん。」「そのうち、チームがバラバラになる。」「だけどさ、タクとかフジとか、“なんだよ、あのシュート“とかなんとか文句言ってくるもん。」「そうだな、いやな気持ちになるし、チームメイトなのにこの野郎って思うでしょ。チームにとっていいことじゃないし、第一、けなしたって何もよくならないどころか、気の弱い奴だったら、縮こまって、いいプレーできなくなる。クリだって、のびのびチャレンジできるほうがいいプレーできるだろ。」「そだね。」「いい気分になると、思いっきりトライできるようになるし、仲間の言うことも良く聞くようになる。」「・・・。」「“マノン!”とか、“逆サイ!”とか“タテー!”とか、かけた声に反応がよくなるんだよ。」「ふーん。」「“戻れー。”とか“ここにパス。”なんてのにも反応が速くなるし、みんなが声を掛け合えば、そのチームは強くなるぞ。なんか、見てると声は出ててもみんなが同じ目的に向かってないことが時々あるもんな。けなしあったり、反発しあったりしてたら、いいコーチングしたって効き目はない。タクもフジも悪気はないけど、コミュニケーションのとり方を知らないだけなんだよ。」「でも・・・。」「そう、すぐには難しい。当たり前だ。簡単だったら、苦労はせん。チームが強くなるためには、自分が我慢強くならなくちゃいけない。大きな心と目標を持っていれば、何言われても気にせず、仲間をリスペクトすることができるだろ。褒めたり励ましたりして声をかける。そうしていると、みんながだんだん認め合えるようになってくると思うぞ。」「ふん。」「インタラクティブ・コミュニケーションは難しい。」「何それ?」「お互いに分かり合うこと。まずはクリから始めてみな。最初は、勇気や我慢が必要だけどな、チームのレベルアップのために、わかってるお前が、ちょっとだけ苦労をしてやれよ。」「わかった。」 とても難しい人とのコミュニケーション。大人のいないピッチの中で、自分を信じつつ、自分たちで互いにコミュニケートすることを学べるというのもサッカーの良さ。あれこれ言わずに子供たちが自分で考えるようにしてくれるいい指導者とのコミュニケーションも大きくなるチャンス。リスペクトしながらも遠慮せず、自分の考えをはっきり言うこと、大切。