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<1> 儀礼が熱を出した。少し高いので、獅子は無理やり病院に連れて来た。 寒くなってきたせいか患者が多く、待ち時間が長くなりそうだと言われた。 「どうせまた、一晩中起きてたり、面倒がって椅子で寝たりしたんだろう」 儀礼を待合室の壁沿いにずらりと並んだソファーの一つに座らせる。 「外はブリザードになりそうだったんだ。僕は薄着で。動くと鬼が出るんだきっと」 熱のせいか儀礼は意味のわからないことを口走る。 獅子は儀礼の額に手を当ててみる。やはり高い。潤んだ瞳が見上げてくる。 「長くなるみたいだから飲み物でも買ってくる」 これ以上側にいるのは面倒と判断し、獅子は離脱を図る。 「一人はやだ……っ」 泣きそうな顔で儀礼の手が獅子の服の裾を掴む。しかし、周りには大勢の診察待ち患者がいる。 「よくみろ、お前と似たような状況のやつがいっぱいいる。仲間とここで待ってろ」 ちなみに、ここにいる大半が小さな子供だ。「お薬やだー」「ままー抱っこー」などと泣き喚いている。 「ううっ」 周りを見て、仕方なくという風に儀礼は獅子の服から手を離す。 ああ、成長したなぁ、などと思うのは低レベル過ぎるだろうか。 「あ、気持ちいい」 ソファーの後ろの壁に頭をつけ目を閉じている。だるそうな姿は本当に参っているようだ。 スポーツ飲料のような物でも探してくるか、と獅子は病院を出て行った。 <2> 10分程して獅子は病院に戻った。その手には飲み物が二つ。 儀礼はソファーで座ったまま眠っていた。安心したような、穏やかな顔で幸せそうに。 そのとなりに、木の杖を両手で握り締めてガタガタと震えて座る若い女の姿。 その女に見覚えがあった。 「何やってんだ? 確か……ヤンって言ったか、お前」 「あ、あの……ギレイさんが。ここを動いたら爆破するとっ……」 怯えたように、瞳を潤ませて語る。 そのヤンの服の端を儀礼の手が握り締めていた。 「魔法障壁は、内側からの攻撃にはどう反応するか楽しみだと、おっしゃってましたぁっ」 泣きそうにそう続ける。 「……お前、それ信じたのか?」 あきれたように獅子は言う。この距離でヤンを爆破すれば、儀礼も巻き込まれる。 確か、Aランクの魔法使いだと儀礼が言っていた気がする。 「ああ、これやるよ。こっちは儀礼の分」 獅子は二本の缶ジュースをヤンと儀礼のひざの上に置く。 どかりと空いているソファーに腰を下ろすと、暇だな、と獅子は受付を眺める。待ち時間は長い。 儀礼はぐっすりと眠っているようなので、診察時間が来るまで放っておくことにした。 ヤンはまだカタカタとふるえている。 千夜 作2012年10月24日(水) (2012年10月30日改)ギレイ目次 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2012.10.31 10:45:39
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