102316 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

千夜の本棚 ネット小説創作&紹介

千夜の本棚 ネット小説創作&紹介

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
2012.10.06
XML
カテゴリ:本棚  ギレイ
ギレイ目次
<1>

儀礼が熱を出した。少し高いので、獅子は無理やり病院に連れて来た。

寒くなってきたせいか患者が多く、待ち時間が長くなりそうだと言われた。

「どうせまた、一晩中起きてたり、面倒がって椅子で寝たりしたんだろう」

儀礼を待合室の壁沿いにずらりと並んだソファーの一つに座らせる。

「外はブリザードになりそうだったんだ。僕は薄着で。動くと鬼が出るんだきっと」

熱のせいか儀礼は意味のわからないことを口走る。

獅子は儀礼の額に手を当ててみる。やはり高い。潤んだ瞳が見上げてくる。

「長くなるみたいだから飲み物でも買ってくる」

これ以上側にいるのは面倒と判断し、獅子は離脱を図る。

「一人はやだ……っ」

泣きそうな顔で儀礼の手が獅子の服の裾を掴む。しかし、周りには大勢の診察待ち患者がいる。

「よくみろ、お前と似たような状況のやつがいっぱいいる。仲間とここで待ってろ」

ちなみに、ここにいる大半が小さな子供だ。「お薬やだー」「ままー抱っこー」などと泣き喚いている。

「ううっ」

周りを見て、仕方なくという風に儀礼は獅子の服から手を離す。

ああ、成長したなぁ、などと思うのは低レベル過ぎるだろうか。

「あ、気持ちいい」

ソファーの後ろの壁に頭をつけ目を閉じている。だるそうな姿は本当に参っているようだ。

スポーツ飲料のような物でも探してくるか、と獅子は病院を出て行った。


<2>

10分程して獅子は病院に戻った。その手には飲み物が二つ。

儀礼はソファーで座ったまま眠っていた。安心したような、穏やかな顔で幸せそうに。

そのとなりに、木の杖を両手で握り締めてガタガタと震えて座る若い女の姿。

その女に見覚えがあった。

「何やってんだ? 確か……ヤンって言ったか、お前」

「あ、あの……ギレイさんが。ここを動いたら爆破するとっ……」

怯えたように、瞳を潤ませて語る。

そのヤンの服の端を儀礼の手が握り締めていた。

「魔法障壁は、内側からの攻撃にはどう反応するか楽しみだと、おっしゃってましたぁっ」

泣きそうにそう続ける。

「……お前、それ信じたのか?」

あきれたように獅子は言う。この距離でヤンを爆破すれば、儀礼も巻き込まれる。

確か、Aランクの魔法使いだと儀礼が言っていた気がする。

「ああ、これやるよ。こっちは儀礼の分」

獅子は二本の缶ジュースをヤンと儀礼のひざの上に置く。

どかりと空いているソファーに腰を下ろすと、暇だな、と獅子は受付を眺める。待ち時間は長い。

儀礼はぐっすりと眠っているようなので、診察時間が来るまで放っておくことにした。

ヤンはまだカタカタとふるえている。

千夜 作2012年10月24日(水)   (2012年10月30日改)ギレイ目次





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2012.10.31 10:45:39
コメント(0) | コメントを書く



© Rakuten Group, Inc.