カテゴリ:本棚 ギレイ
ギレイ目次
<1> 「シャーロットと言う少女を殺していただきたい」 薄暗い部屋の中でくぐもった声がそう告げる。 「殺しか、報酬は?」 もう一人の声は高い。女性、でなければ子供だろうか。 「聞いています。二つで」 くぐもった声の主が指を二本立てる。 「ふん、いきなり出すか。どうしても消してほしいらしいな」 高い声に、依頼主は明らかに機嫌を悪くする。 詮索はするな、と瞳に力を込める。 「いいだろう。相手の特徴は?」 「写真がある」 男がテーブルの上に写真を滑らせる。 写っているのは、金の長髪に深い青の瞳の美しい少女。 「歳は14。身長は145cm。追われてるのはわかってるため、変装しているかもしれん」 「なるほど、わかった」 そう言って、高い声の主は立ち上がる。白い外套に包まれたその背は150cm程。やはり子供だろうか。 「居場所はわからないが、フェード国内にいるばずだ。前金に500振り込んでおく。資金にあてろ。頼んだぞ、ゼラード」 くぐもった声も立ち上がると、その部屋を後にした。 「シャーロット……ね。写真まであるなんて、余程金のある貴族か?」 ゼラードと呼ばれた白い影は、写真をズボンの後ろポケットにしまい込む。 「少女か……」 小さく呟くと、男が出たのと反対のドアから部屋を後にした。 <2> それから三日後、ゼラードは国境付近の街中にシャーロットの姿を見つけた。 「あれで変装したつもりか? 髪切って色眼鏡かけてるだけじゃないか」 ゼラードはばかにしたように、獲物を捉えた余裕の笑みを浮かべる。 それは狩人の表情で、決して人が人に向ける類の笑顔ではなかった。 ギロッ 突然、強い殺気と視線を感じて、ゼラードは瞬時に木の幹に身を隠す。 (気付かれた?! まさか……) 今、シャーロットの隣りにいた少年を思い返す。 (あいつ、ただもんじゃねぇ。あれは……『黒獅子』。少し、策を練らなきゃな) ゼラードは気配を絶ったまま音もなくその場を離れる。 「どうしたの? 獅子?」 突然おかしな方を向き、真面目な顔で殺気を放つ獅子。 儀礼はそれを隣りで不思議そうに見ている。 通りかかる人はあきらかに、遠巻きにして避けている。 「いや、なんかよくない気を感じたんだが……。消えちまった」 真剣な顔で辺りを見回した後、諦めたように獅子は言った。 千夜 作2008年3月2日 (2012年10月30日改)ギレイ目次 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2012.11.02 16:47:18
コメント(0) | コメントを書く
[本棚 ギレイ] カテゴリの最新記事
|