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千夜の本棚 ネット小説創作&紹介

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2013.03.06
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カテゴリ:本棚  ギレイ
「ギレイ! 次は俺と勝負だ!」
カナルが儀礼を指差した。
こういうのは普通、勝った方に挑むものではないのか。
何か勝負にこだわる理由があるのかもしれない。
しかし、儀礼はすでにくたくただった。

 カナルが、バクラムからあの大槌を借り受けた。そんな物で儀礼と戦うつもりらしい。
(貸すなよ、バクラムさん。)
儀礼の頬には汗が伝う。

「なんで、負けるって分かってる勝負をしなくちゃいけないんだ。」
儀礼は恨みがましくアーデスを見る。
そこには善人の面で審判をつとめる悪魔のような男がいた。
貴重な遺跡マップを手に入れるために、儀礼は戦前離脱を許されない。
先にマップを送ってもらってしまうのだったと儀礼は後悔している。

「何事も、苦もなく思い通りになるとは思わないことですね。」
楽しそうにアーデスは笑っている。
「遺跡に入ればAランクの魔物との戦闘は避けられませんよ。」
「俺は魔物ですか。」
アーデスの言葉にカナルが苦い笑いで答える。

「それはそうだけどさ。……朝月、もう一戦いける?」
儀礼は腕輪の白い精霊に聞いてみる。
白い光が儀礼の体を包み込んだのがわかった。体がフッと軽くなる。
光を纏(まと)い儀礼はにやりと笑った。
「わかった、カナル。勝負しよう。」
今度はその剣を破壊されることのないよう、儀礼は刃の強化に朝月の魔力を注ぐ。
その大量の魔力を得た白い刃が、妖しく光を放った。
自身の身体強化には闘気を使うことにする。

 儀礼は知らない。その精霊の負う能力を。

 光り輝く白い刃はその能力を発揮し始める。
人の目を惹き寄せ捉える、禍々しいまでに美しい白い刃。
放たれる清い色の光は、見る者の目を眩(くら)ませ、心を惑わせるもの――。


そして、戦闘開始直後から儀礼は追われることになった。

カナルの振り回す大きな槌が庭の地面を削り、巨大な穴を開けながら儀礼を追ってくる。
大きな体、並外れた攻撃力、魔力を纏った巨大な槌。

「これとどうやって戦えと……。」

広い庭を逃げ回りながら儀礼は冷や汗を流す。
シュリとの戦闘の比ではない。カナルは本気で攻めてきているようだった。

「これ、当たったら命に関わるって。僕が何したって言うんだ。」
不満げに口を尖らせて、儀礼は地に手を着けて前転するようにして前へと体を飛ばす。

儀礼が着地する前にカナルはそのトラップに足をかけた。
ドーン!
カナルの足下から土が弾け飛ぶ。大槌での攻撃と同じ程の穴がそこに空いていた。

アーデスが頭を抱えるのがチラリと見えた。大丈夫。儀礼は遺跡は壊さない。

カナルは大きく後ろへ下がった。
「こら、お前ら。庭を破壊するつもりか?」
バクラムが言う。
「カナルに言ってくださいよ。」

やっと距離を取れ、汗を拭いながら儀礼は返す。
まるで闘牛さながら、カナルは儀礼を追う手を弛めてくれなかったのだ。

「ギレイ、爆発物は――」
「飛んでません! 設置しました。」
アーデスが何かを言う前に儀礼は肯定を成り立たせる。

こんな本気で追ってくるAランク相手に接近戦などありえない。

カナルがまた構えたのがわかった。
大きく跳ぼうと体を低くしている。

儀礼は靴底の仕掛けを地面に移す。
踏めばその足を捕えて固定する、とらばさみのようなトラップ。
難点は両足分同時に使わないと、靴の高さが変わってしまうこと。

飛び上がったカナルの着地点にそのトラップを仕掛け、さらに外れた時のために儀礼は爆発物を落とす。
カナルは見事に儀礼のトラップにかかった。
しかし、そこから足が動かせないと分かると、その場で魔力を纏った一撃を放った。
その威力が周囲の爆薬を起動させた。

足を固定されたカナルの足元で大量の爆発が起こる。
「カナル!!」
近付こうとした儀礼は、途中で足を止める。
儀礼はカナルの様子に明らかな異常を感じ取った。

爆煙の晴れたその場所で、周囲の地面と共に破壊されたトラバサミから抜け出し、カナルは何事もなかった様に立っていた。
今一度、攻撃のためにカナルは構える。

巨大なハンマーの周りに黒い火の粉が散っていた。

「なんか……変じゃない?」
儀礼が近寄ることにも、逃げることにも戸惑っている間に、その一撃は放たれた。
黒い火の粉を撒き散らし、凶悪なまでに大きな黒い槌が人間業とは思えぬ速さで、儀礼の身体めがけて襲い掛かる。

儀礼はとっさに可能な限り高く上へと飛び上がった。
攻撃範囲の広いバクラムの槌に対して、そこ以外に逃げる道が思い浮かばなかった。

「ねぇ、魅入られてない?」
高い空中から儀礼はカナルに聞いてみる。じっと儀礼の方を見てはいるがしかし、返事はない。
魔剣のような魔力を持つ武器には、人を魅了し意のままに操る類の物がある。
大抵の場合、それらは破壊の衝動へ繋がる。
それは、自分で作り出した魔剣でもありえるのだろうか。
儀礼は眉をしかめる。

「ギレイ、その白い剣だ! 俺が戦った時にも妙な魔力を感じた。気を付けろ!」
シュリが叫ぶように言った。
しかし、儀礼に余裕はない。気を付けたところでどうしようもない。
必死に避けてかわして、逃げるので手一杯で今はもう、空中にいる。
飛行でもしろというのか。

手近な木にワイヤーを絡ませ一気に移動しようとしたが、その前にカナルの一撃が放たれた。
よけることは間に合わず、大槌から出た黒い魔力の衝撃波を儀礼は空中で食らってしまった。
ハンマー本体でなかったことが救いだろうか。
それでも、想像以上の威力に儀礼は顔を歪ませ、体は大きく飛ばされる。

さらに、カナルが追い討ちをかける。防ぐ手は間に合わない、儀礼は空中で身構えた。

 ガガガンッ
激しい衝突音がした。
しかし、儀礼への衝撃はない。
目の前には剣で大槌を受け止めるアーデスの姿。
そして、背後に回っていたシュリに儀礼は着地を助けられた。
「ありがとう。勝負終わり?」
二人の様子に儀礼は首を傾げた。どうやら儀礼の負けで勝負は決まったらしい。
カナルは後ろから、バクラムに押さえつけられていた。

 そのカナルの目はやはり、正気がないようだった。
儀礼は自分の持つ白い刃の剣を、ゆっくりと右へ左へと振ってみた。
それを奪おうと噛み付くような勢いでカナルが、体を乗り出して暴れている。

「……遊ばないでもらえますか。」
カナルの振るう武器を押さえ込んでいるアーデスが、呆れたように言った。
そして、カナルの顔に手のひらを向け、アーデスが何かを唱えた。
それでカナルがハッとしたように正気を取り戻した。

「今の一撃、受ける気だったんですか?」
眉をしかめてアーデスが振り返る。
「避けられなかったし。怪我はそのうち治るよ。」
苦笑するように儀礼は答える。態勢の悪い空中で、他にどうしろと言うのか。

 それからアーデスは儀礼の手から奪うようにして、剣を持った。
「……妖刀ですね、これ。」
ゆっくりと見回し、少ししてからアーデスは言った。
妖刀とは人の心を魅了し、操るといわれる類の武器。
多くは殺人鬼の武器となった。
なぜそんな物がこの手に、と思ったが、この蒼刃剣自体がそうだったな、と儀礼は思い直す。

「その白い剣を見てたら目が離せなくなって、俺はそれが欲しくて……。」
大きな体の背中を小さく丸めて、悔やむような、情けないと思っているような顔でカナルが語る。
追いまわされる間、儀礼は本気で焦った。あんな力で襲われては人体などひとたまりもない。
けれど、その力を振るったのは、儀礼と同じ歳の少年だった。

「ごめん、僕のせいだから。気にするなよ。カナルも本当に強いな。頑張ったんだな。」
恵まれた体格は有利ではあるけれど、それだけで強さを得られるわけではない。
一歳違う兄に負けないために、カナルもまた必死に自分を鍛えたのだろう。
12人も兄弟がいて、親に自分を見てもらうのはとても大変なことかもしれない。
儀礼の出した手をカナルは掴んだ。
その顔からは落ち込みは消え、自分を誇るように笑っていた。

「次は私と勝負よ!」
高く、綺麗な声に儀礼が振り向けば、そこには可愛らしいエプロンに身を包んだラーシャの姿。
この家の者には負けた者に挑む習性があるようだ。

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小説を読もう!「ギレイの旅」
245話VSカナルこの話と同じ内容です。





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最終更新日  2013.04.19 07:17:13
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