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千夜の本棚 ネット小説創作&紹介

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2013.03.12
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カテゴリ:本棚  ギレイ
「白い魔力は光の属性なんです。」
諦めたような溜息を吐き、アーデスが言った。
「うん。それは知ってる。」
儀礼は頷く。
「では、なぜ妖刀に?」

「……大量殺人に使われた剣だから?」
儀礼は幼い子供たちに気を使い、小さな声で心当たりを挙げてみる。
「それを払うのが光なんです。そして、ほとんどの武器が殺傷目的で作られています。」
完全に呆れた様子でアーデスが言った。

 儀礼はポケットから果物の皮を剥くような小さなナイフを取り出す。
もちろん殺傷に使われたことはない。
それをシュリとの戦闘で使った時のように朝月の魔力を乗せる。
小さすぎるので、重さや威力の変化は分からない。
儀礼はそれを天井に向かって投げた。
どこでもよかったのだが、そこが一番安全かと思ったのだ。

 天井に届く前にナイフはアーデスに掴まれた。
「結界が破損するのでやめてください。他人の家にいきなり何をするんですか。」
怒られた。
しかし、儀礼の得たかった実験の結果は出た。
魔力を乗せただけなら、儀礼が手を離せばその魔力の効果は切れる。

 儀礼はそのナイフを返してもらうために、アーデスに手の平を差し出す。
次は、そのナイフが妖刀になるかどうかを確かめたかった。
「一言、言ってから実験を始めてもらえると助かるのですが。」
「すみません。危ないかもしれないので少し離れていてください。」
ナイフを受け取りながら儀礼が言えば、アーデスが、ナイフの刃先を握った。
下手に動かせば切れてしまう。危ないので、やめてもらいたい。

「結果が予想通りだった場合、どう防ぐつもりだ。」
アーデスの声が少し低くなった気がした。
儀礼の白衣(ほうぐ)は子供部屋に置いてある。
「反応が見られれば瞬時に元に戻します。さっきも変化があったのはカナルだけだったじゃないですか。魔力の耐性か何かに差があるんですよね。アーデスもバクラムさんもシュリも大丈夫でした。」
儀礼の手に負えないのは、その四人だけだろう。
ラーシャもメルーもタシーも追いかけてくるだけなら問題ない。
ノウエル以下も先程確かめたがどうにでもなる。

「メルは休業中だが一流の冒険者だぞ。」
アーデスの言葉に、バクラムの奥さん、メルがひらひらと手を振る。
距離があるのに、今までの話、聞こえていたらしい。
ラーシャを大人っぽくしたような、綺麗な人だ。
あんなに綺麗な人をどうやって捕まえたのか聞いたら、戦場で魔物を蹴散らすバクラムの腕っ節の強さに奥さんの方が惚れたんだとか。

「……Aランク?」
「経験がある分、シュリより上だな。」
戦いに慣れた様子のシュリよりも、上の実力。
「魔法、使うってことか。」
シュリもラーシャも魔法を使っていた。素質は母親から受け継いだのだろう。
しかし、魔法を使うなら、魔力耐性は高そうな気がした。

「わかりました。気をつけます。それでさ、アーデス。離さないと手、切れちゃうよ。」
儀礼の言葉に、アーデスがまたこめかみを抑えた。本気で頭痛薬を持ってきた方がいいだろうか。
さっさと実験を終わらせて、儀礼は危険回避の方に思考を回したかった。
これから朝月に力を貸してもらう時に、とても重要になる。力の配分と使い方とその効果。

 そこでふと、儀礼は思いたつ。ナイフである必要はないのではないか、と。
儀礼は反対の手で、短い針金を取り出した。錠前などを開ける時に使う、細い金属の棒。
(朝月。これ、できる?)
針金をカナルと戦ったときのように魔力を厚くコーティングしてもらう。
カナルやノウエルの目の色が変わった気がした。
試しに儀礼はその棒を振ってみる。
食事中のためか、立ち上がる気配はまだないが、二人の目は確かに白い棒を捉えている。

 儀礼はナイフから手を離し、針金の先を猫じゃらしに似せて丸めてみる。
二人の目はじっと猫じゃらしもどきを追い続ける。
これで結果は出た。朝月の魔力を固定させた物は、人を惹きつける効果を持つらしい。
しかし、蒼刃剣の時のように襲い掛かってくることがないのは、流した魔力の量なのだろうか。
(もう少し詳しく調べた方がいいかもしれない。)

「色々と言いたい事はあるのですが……。」
低い、寒気を伴うような声の主が、思考に落ちていた儀礼の腕を捕らえた。
「これは何です?」
白く光る猫じゃらしを儀礼の手から奪うようにして持ち、アーデスは問う。
儀礼は瞬時に針金から魔力を消した。
「針金(はりがね)。」
にっこりと笑って言いたい所だが、アーデスの怒りの気配に、儀礼の顔には思うように笑みが浮かばない。

「あの……怒ってますね。すみません。人の子を実験に使うのはやめます。ごめんなさい。」
儀礼はおとなしく頭を下げる。
「すみませんでした。」
バクラムや、メルやカナルたちにも儀礼は頭を下げる。
勝手に実験体にされて気分のいい者などいない。
儀礼は今、きっと人道を忘れた研究者の顔をしていたことだろう。
自分に嫌気が差し、儀礼はフードを顔全面に引き出した。そして、部屋の隅を借りる。
勝手に涙が流れ出す。
自分に負けるというのは、とても悔しいものだった。

「……。」
アーデスは呆けている。針金の猫じゃらしを手に持って。
「考えを、見せる気はないと。」
苛立たしげにアーデスは眉根を寄せた。その位置まで、追いつけない自分にアーデスは苛立つ。
いつから自分は遅れを取る人間になったのか。

「どうしたんだよ、ギレイ。カナルも親父もノウエルも気にしてないから、顔出せ。ほらっ。」
慣れた様子でシュリが儀礼のフードを捲り上げる。
「そんな隅っこにいないで、まず出て来い。」
シュリに引きずられ、儀礼はソファーに座らされた。
「怒られた時のケルガみたい。」
くすくすと隣に座ってラーシャが笑う。
温かい空間。この家では、いじけている暇もないらしい。

「……マキビシみたいに蒔(ま)いたら、追っ手が撒けないかなって。猫にマタタビみたいにうまく引き寄せらんないかなって。」
儀礼は涙を拭って考えたことを話す。
朝月の魔力で、人を惹きつけられるなら、トカゲの尻尾を切るように儀礼はその間に逃げることが出来るのではないかと。
しかし、人の子供を相手に実験するようなことではなかった。

「なるほど、確かにそれは考え及びませんね。」
ふっと表情を緩めて、アーデスは笑う。
武器の強化のためではなく、逃げるため。
刃のない妖刀。
ナイフではなく猫じゃらし。
少年の考えは一貫していた。人を傷つける為ではなく、あくまで文人なのだと。

「効果は魔力の量に関係あるのかもしれない。さっきみたいに妖刀にするならかなり魔力注がないとだめだと思う。それによく考えたらそんな物、放置してったら闘争が起こりそう……。」
マキビシ自体に刃がなくとも、奪い合う人間が武器を持っていれば意味がない。
儀礼を追ってくる者が武器を持たないわけがなかった。

「ラーシャの回復魔法が武器になればいいのに。」
儀礼は横を向き、丸まるようにソファーの背もたれに深く寄りかかる。
剣が、切る度に回復するような物なら世の中、平和になるかもしれない。
隣に座るラーシャが儀礼を振り返り、滑らかな髪が頬に触れて、その冷たさが心地よかった。

「お前ら、何の話だ?」
バクラムが、ソファーの後ろに立っていた。
儀礼はすっかり要注意人物らしい。

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小説を読もう!「ギレイの旅」
251魔力の使い方この話と同じ内容です。





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最終更新日  2013.04.19 23:47:36
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