「論争 若者論」文春新書編集部編・文春新書08年10月・3の3
論争若者論私:それにしても、加藤被告の携帯の使い方は異常だね。 パック料金にしていなかったら、携帯でのネット接続料は毎月80万円前後になっていただろうという。 仕事と寝る以外はほとんど携帯でインターネットをしており、通話料はゼロに近かったという。A氏:携帯電話でなく、携帯パソコンだね。私:多様なナマの人間と話すことに興味がなく、掲示板にただ、書くだけだね。 心の底では多少の反応を期待してね。 自ら、孤独に自分を陥れて行く。 テレビで、加藤被告が、血にまみれて、警察官につかまっているシーンを映していたが、呆然とした顔の表情は、何か「一仕事終わった」といった放心状態だったように感じたね。A氏:頭がよかっただけに計画をしてやったことだが、彼にとってははじめての本来の個性ある、リアリティがある自分の「仕事」だったんだね。私:それも、「他人の人生をぶち壊す仕事」になってしまったがね。 ところで、アメリカでは日本にない深刻な人種差別がある。 日本人は差別と格差は自然と使い分けているが、深い関係はあるね。 30年ほど前だが、トヨタが新しい生産方式を開発したのが有名になり、GMが学ぼうとして、カリフォルニアのフリモントにあるGMの工場をトヨタと合弁にして、管理はトヨタ方式にした。 トヨタは社員食堂を今まで現場作業者と管理者とが別にしていたのを一緒にした。 そして、食堂のテーブルは大きな丸いテーブルにした。 日本人社長は、自らトレーを持って、一般作業者と同じテーブルで食事をする。 作業者に自主性を持たせ、問題があると、ラインを止める権限を与えた。 決められた作業方法を監視するだけの職長に改善を考えるように義務づけた。A氏:トヨタ生産方式だね。私:結果的に生産性は3割向上した。 俺は、20年ほど前に、アメリカ視察団に参加したとき、その工場の成功の発表会を聞いた。 3人くらいの人が発表したが、最後に黒人の職長が発表した。 この人の英語はなまりで全く分からなかった。 録音しておいたので、同行した通訳に日本語に要約を依頼した。 ところが、その通訳も3回聞き直したという。 しかし、その通訳に訳してもらわなくても、発表会でその黒人が言うことではっきり聞き取れた英語が1行あった。 それは、 I was a number in GM, but now I am an employee. だね。 要するに、GM時代は「数」だったが、今では「社員」だというわけだ。 職場で「価値ある人」として認めてもらったというわけだね。A氏:今の日本の派遣労働者は、その意味では今、「数」だね。 まさに「価値ある個人でなく、誰でもいい」だね。私:製造業への派遣規制緩和とグロバリーゼーションの嵐で、しっかりした経営理念を持たない企業はアメリカ式になってしまったね。 そして単純な「数」の派遣労働者を作ってしまった。 好況でもGPTW1.2の会社は増加しなかった。 日本にアメリカ発の市場原理主義が蔓延した。 日本は、外来のものを日本式に修正する歴史の伝統があったが、市場原理主義はストレートに取り入れた。 前経団連会長のキャノン会長の御手洗富士夫氏は昨年2月の文藝春秋の「希望の国へ--私の日本再生計画」で、アメリカと違って日本人は団結心が強く、組織内のコミュニケーションがとても良い、教育投資が蓄積されやすいから、終身雇用は維持すると書いていた。 白々しいね。A氏:今は、君が通勤ラッシュを見て、何か、「もの」を感じる時代感覚があるのかね。私:以前は、「みんな頑張っている」という時代感覚があったように思うがね。A氏:とにかく、また来年も対話をお願いするよ。 いいお年を。私:来年は、雇用も経営ももう一度、原点にもどって、国民的な観点から考える必要があるようだね。 「若者論」はある意味で「現代日本国家論」だね。 こちらこそ、相手になってもらってありがとう。 これにこりず、来年もよろしく。 いいお年を。