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眠たがりの日記

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2005.04.28
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カテゴリ:本の話
 たぶんこれから先、どれだけミステリを読んだとしても、私のミステリオールタイムベスト5から外れることは絶対にありえない一冊です。

 母校の大学の古本市で手に入れてから10年位になるだろうか。でも、いまだに繰り返して読んでいる。
 私がそのとき買ったのは角川文庫の新装版だが、この版の入手は現在ではかなり困難かもしれない。最初に出版されたカイガイ出版のものはいまだにお目にかかったことがない。
 創元推理文庫で刊行されて、いろんな人に薦めやすくなったので本当にうれしかった。

 この作品が刊行されたのは昭和53年。
 当然、携帯電話もインターネットもGPSもカーナビも出てこない。
 「電電公社」といった時代を感じさせる言葉が当たり前のように出てくる。
 作中の時事ネタは成田空港問題やロッキード事件である。
 著者の天藤真はすでにこの世を去っている。
 
 それなのに、何度読み返しても古さを全く感じない。

 最初は、刑務所で知り合ったケチな3人組が「社会復帰」に必要な資本を手に入れるための誘拐計画だった。
 狙った相手は紀州一の山持ちのおばあちゃんで篤志家、鬼の和歌山県警本部長が大の恩人と仰ぐ柳川トシ子刀自(「とじ」と読みます。お年を召した女性に対する敬称です。最近はあまり見かけないですが。)。
 粘りとツキとで刀自を誘拐するところまではなんとかこぎつけたが、アジトに向かう途中、その行き先を誘拐した刀自にあっさりと見破られ、3人はいきなり窮地に追い込まれる。
 
 そこで3人のリーダーが思いついた打開策が、なんと、(ネタバレのため反転)「刀自にアジトになりそうな場所を提供してもらう」というもの。
 この時点ですでにぶっ飛んでいる。ここから話がとんでもない方向へ走り出すのである。

 やがて刀自が3人をリードするような形になり、3人のリーダーから身代金の額が「五千万円」であることを聞いて怒り出し、自ら身代金を「百億円」に値上げし、それ以外での交渉は認めないとまで言い出す。
 テレビ局の買収で多額の資金が飛び交い、日本国の借金の残高が知れ渡った現在では「百億円」という言葉はニュースで当たり前のように聞くが(それでも自分には当然想像を絶する額だが)、当時の百億円は今以上の価値があった。ましてや「ラーメン単位」でしか金と言うものを考えることのできない3人にとってはまさに雲の上の話。だが刀自は、「トライスラー(旅客機)単位」で考えたら百億円なんか大したことはない、と言ってのけるのである。

 その身代金の額ゆえにとんでもない事件になってしまい、和歌山はおろか全日本、全世界をもその事件の渦に巻き込むことになってしまうことになる。
 そのスケールの大きさはまさに爽快の一言。

 その一方で事件を取り巻く警察・マスコミとの駆け引きなどのディテールの描写は精緻を極めている。
 「大きな嘘をつくためには小さな真実を織り交ぜること」というのは誰の言葉だっただろうか。この話はそれを地で行っている。

 大ボラを吹くとは、こういうことなんだろう。
 そして、その大ホラ話を聞いて気分よくなるというのは、こういう感覚なんだろう。

 ラストで明かされる「刀自の動機」は、現代でも十分に通用するものである。
 現代のマクロの視点から見ると、この「動機」に不満を覚える方もいるかもしれない。
 だが、個人の視点からすればその気持ちは理解できる。
 創元推理文庫の解説に著者の略歴が記載されているが、戦中を乗り越えてきた天藤真だからこそ、そう思うのかもしれない。

 ただ甘いだけでなく、隠れた苦さも含んでいるのがこの人の作品の特徴でもあると思う。
 それでも、エンターテインメントとして最高の逸品であり、読後感はさわやかそのものである。

 「夕凪の街 桜の国」の感想を書くときに、自分の中で禁句にした言葉があった。「その言葉」を使えば楽だったろうし、使いたくもあったのだが、ネタバレになろうとも、拙くとも「夕凪の街 桜の国」については自分の言葉で何かを言う必要があると思ったからだ。
 だが、今回の「大誘拐」はミステリである性格上、ネタバレには前回以上に気を使いたい。自分が下手なことを書いてしまったがために読むのをやめたということがないようにしたい。
 というか、今までの文でも語りすぎてしまったかもしれない。
 なので、あえてここで使わせてもらう。

 「とにかく黙って読んでください、いいから読みなさい」 

 なお、この作品は、1991年に映画にもなっています(タイトルは「大誘拐 RAINBOW KIDS」。岡本喜八監督・脚本です。)。原作のテイストは失っていないと思います。レンタルショップで探してみてください。
 ただし、原作を読まれてからご覧になることをお勧めします。
 あと、ご覧になる際には、風間トオルの演技には目をつぶってあげたほうがよろしいかと(苦笑)

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最終更新日  2005.04.28 23:50:45
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