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森閑とした杉林の中の苔むした急な階段を上りきると、古い山門がありました。 少し荒くなった息を整えようと立ち止まると、ふっと梅の香りがします。 山門をくぐって突き当たりの、わずかな平らな場所に植えられた白梅が、真っ白な花を枝いっぱいにつけていました。 「もう東京ではとっくに盛りを過ぎているのに」 近づいて花に顔を寄せると、早春の柔らかな日差しを受けたその若い梅の木は、むせ返るような香りを放っています。 人里はなれた山寺にも、遅い春が訪れたようです。 ************************************* つづれ折の急登を登り切ると、ぱっと視界が開けます。 下界は春の空気に霞んで、田んぼも畑も、それらを縁取る家々の屋根も乳白色のモノトーン。 大きく息を吸い込んで、岩のくぼみに腰を下ろしました。 ゆっくりと背を伸ばすと、傾斜した岩が体重を受け止めて、閉じたまぶたを日差しが突き抜けてきます。 「ああ、この感じ。。」 ごつごつした、冷ややかな岩の感触、頬を撫でる風、木々の枝のこすれる音。 ポケットからハンカチを出して、額の汗をぬぐいました。 谷をはさんだ向かいの尾根に並んだ裸木が、春まだ浅いことを教えてくれます。 でも、斜面を這い上がるように連なる常緑樹は、朝の光を受けて漆黒からグレーへと、まるで黒摩道士の群れのように、黙々と森の営みを続けています。 この次くるときは、きっと生命の放つ光にあふれているんだろう。 もう春は、すぐそこでした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Mar 6, 2007 12:54:58 PM
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