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山から下りたら、とんかつ定食、略してカッ定。立派な駅ビルの中に、東京でもおなじみの「とんかつ和幸」でロースかつ定食を食べて、東京まで3時間の列車の旅。ビールと行動食の残りではちょっと寂しいかと思って、本屋さんで文庫を一冊買いました。 蓮見圭一著「ラジオ・エチオピア」 タイトルに惹かれて手に取りました。厚さも、ビールで眠くなったって読み切れそうだし、ま、いっか。 一本目の缶ビールを飲み終えてから、読みはじめました。 ワールドカップ日本大会の年、主人公で妻子ある男性「僕」と、離婚歴のある女「片山はるか」との大人のラヴストーリー、早くいえば不倫のお話。 ストーリーの展開に必然性は感じられず、唐突に提示される事実は私の理解を超え、張られた伏線は最後までわからずじまい。いきなり「メールのやり取りを妻に読まれていた!」なんて言われても、「え、そうなるんだ?」って感じ。話の脈略上あまり意味はないと思うのは私だけでしょうか。 それでも救いはありました。 「はるか」の「僕」宛に出すメールの文章の美しいこと。恋をした人はみんな詩人だと言うけれど、彼女の燃えるような思いが伝わってきてます。熱く、深く。優しい。それでいて少しわがままで、こんなメールをもらったら、誰だって恋に落ちるだろうなと思わせる文章です。この部分に関しては売れっ子作家の面目躍如というところでしょうか。そしてこの部分は、全編のかなりを占めています。 それに対して、「僕」の返信が作中にまったく登場しないのは、主人公の軽薄さを浮き彫りにしようとする作者の意図なのかしら、そう思うほど、「僕」の人となりは描かれていません。 こうすることで作者は、「はるか」のメールに読者のフォーカスを持っていこうとしたのかな。それもわからなくはないけれど、それだけじゃ小説として成り立たないと思うのです。 この作品には、いろんなものが登場します。グラッパにカルバドス、アニアのワイン、マッカラン・・・。代官山の一戸建てに等々力のマンション。タクシーで第三京浜を飛ばして帰る横浜の自宅。何ともバブリーな香りがプンプン。本質を知らないでうわべにこだわる軽薄さは、否が応にも鼻につきます。 極めつけは「音楽」。「はるか」の好きなクラシック音楽が作中ではキーを握っていますが、登場する曲も演奏も、なんか変。一貫性がないと言うか。主にバッハとモーツァルトですが、おそらく作者はクラシックに縁遠く、本作を書くにあたってわざわざ調べたんではないでしょうか。だとすると、あまりにも取材不足です。付け焼き刃と言うか・・・、作者は自身が聞いたことのない曲を取り上げているんじゃないかと思うほどです。 百歩譲って、まるきり傾向も解釈も違う演奏を「はるか」に好きだと言わせて、このことで「はるか」のエキセントリックな性格を表現しようとしているならば、はっきり言って失敗だと思います。知らない人には作者の知識のひけらかしとしか見えないし、知ってる人にはとっては居心地の悪い文章としか感じられないと思うのです。 これを読んで、ベストセラーになった「水曜の朝、午前三時」がどんな作品か、興味がわいてきました。Simon&Garfunkelの名曲をタイトルに冠したお話がどんなものなのか。というわけで、こないだ本屋さんで見つけて買ってしまいました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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