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カテゴリ:テレビ番組
■ETV特集『今村昌平に捧ぐ~スコセッシが語る映像哲学~』を見る。悲願のオスカーを獲得する数日前、NYで行われたマーティン・スコセッシのインタビューである。この人、髭モジャの印象が強くて小型のコッポラみたいなイメージがあったが、最近ではそれをすっかり剃り落として若々しい。黒縁メガネで揚々と語る様子はこざっぱりしたウッディ・アレンのようだ。かなり甲高い声で早口。それでも聞き取りにくい発音ではない。
■コッポラやスピルバーグが黒澤明をリスペクトしていたのは有名な話だが、今村昌平をこんなに熱く語る外国人監督がいたことはひとつの驚きだった。最新作であり、今年度オスカー作品賞に輝いた「ディパーティッド」さえもこの日本人監督の作品からの影響は大きいという。そんな彼が今村の才能と出会ったのは「ニッポン昆虫記」だったという。 ■左幸子主演のこの映画のなんともいえない生々しさは小津にも黒澤にもないねばねばしたいやらしさを発散している。冒頭映しだされる昆虫たちの共食いのシーンや蛇がカエルを飲み込むシーンが人ひとりが生きていく物語にオーバーラップする。今村の描く人間はいつも生きていくのに必死でそのためには手段を選ばない(選べない)者たちばかりのように見える。 ■「豚と軍艦」「赤い殺意」「人間蒸発」「復讐するは我にあり」「楢山節孝」「うなぎ」。紹介されたそれらの作品でまともに観たことのあるものはほとんどない。それぞれ長門裕之のスカジャン、春川ますみの肉体、緒方拳の迫真、役所広司の表情など印象的な場面の連続だった。 ■「復讐するは・・・」は実際の殺人犯をモデルにした映画だが、緒方拳が語るところによると、彼が犯した5つの殺人事件、それぞれ実際の犯行現場を見つけ出してきてその場所で撮影を行ったという。徹底した取材と徹底したリアリズム。 ■「人間蒸発」は彼がドキュメンタリーにシフトした作品で現実に行方不明になっている男性を微かな手がかりに基づいて日本中を探し回るという展開になっている。ただしラストシーンではまるで寺山修司の作品のように虚と実の境目が音をたてて剥がされていく。こういう手法はすごく斬新だった。 ■スコセッシは大学教授のようにそれらの作品を分析する。ただし、その観点は撮影方法、照明、カメラの位置など技術的な手法に対する説明がほとんどである。それだけこの監督の作品には日本の風土や文化や土着的な歴史の要素が登場してくる部分が大きく、日本人でなければ共感できない部分が少なからずあるような気がする。 ■それでも監督論としても、文化論としても、フィルモグラフィーとしてもよくできた番組だった。ナレーションは倍賞美津子と役所広司。バックにかぶさった音楽も効果的だった。あれはどのバンドのどの曲からの引用だったのかすごく気になる。 ■とりあえず「カンゾー先生」を探してみよう。今村昌平に撮られる麻生久美子に興味津々である。あ、それから「タクシー・ドライバー」も何年かぶりに見直してみたくなった。というわけでTSUTAYAのポイントは増える一方である。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007/03/18 11:18:29 AM
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