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売り場に学ぼう by 太田伸之

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Nobuyuki Ota

Nobuyuki Ota

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2023.11.11
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いまから10年以上前、東北大震災の前後のことだったと思います。部下Nくんが「会ってやって欲しい人がいます」と銀座のレストランに2人の若者を連れてきました。大学卒業後単身バングラデッシュに渡って「最貧国の人々を救いたい」と現地でバッグのサンプルをいっぱい作って帰国、25歳でマザーハウスを起業した山口絵理子さんと、彼女のゼミの先輩で大手ゴールドマンサックスを退職して助っ人になった副社長の山崎大祐さん。Nくんによれば、山口さんはTBS「情熱大陸」をはじめメディアでスポットを浴びる話題の人ということでした。




人口が多く貧しいバングラディッシュでコストカットのためにアパレル製品を生産する話はよく聞きますが、貧しい国の人たちに仕事を与えて助けたい、途上国から世界に通用するブランドを作りたいなんてセリフ、このとき私は初めて聞きました。慶應義塾大学のあの竹中平蔵ゼミ出身、山崎さんのように外資系金融機関に就職するのは想像できますが、ものづくり経験が全くないど素人が技術的にはまだ未熟で貧しい途上国でバッグの製造を始めるなんて無茶な話、私にはちょっと想像できません。凄いこと発想する若者がいるもんだと驚きました。

山口さんはファッションの専門家に自分たちが作った洋服サンプルを見せ、感想を聞きたかったのでしょう。バングラデッシュのバッグの次は同じく途上国ネパールで洋服を作って貧しい人々に仕事を提供したい、気持ちはわかりますがサンプルを見る限り時期尚早でした。「洋服はバッグよりも在庫になりやすいからリスキー。いまはやるべきじゃないよ」と助言しました。ネパールならまずストールの生産だけに絞ってみてはとアドバイス、洋服の生産はこの段階では諦めてネパール産ストールがマザーハウス店頭に並びました。


山口絵理子さん

このとき以来、私の教え子でもないのに山口さんからは時々メールが着てアドバイスを求められます。そして4年ほど前、マザーハウスの主要メンバーにマーチャンダイジングの基本を教えてもらえないかと頼まれました。これまで企業研修では顧客分類、商品分類、定数定量管理、発注の心得、販売計画など10数コマを宿題を与えながら数か月かけて教えてきましたが、カリキュラムを短縮してコンパクトな内容で社員教育を引き受けました。

カリキュラム短縮には理由があります。私の元部下でかつてマーチャンダイジングの基本を教えたHくんが外資ブランドを経て独立、VMD指導の会社を立ち上げマザーハウスを手伝っていたからです。Hくんが教えているのであれば重複しそうな部分はカット、私がテクニカルなことまで教える必要がありません。こうして関西地方や海外拠点スタッフのリモート参加を含め、マザーハウスの主要メンバーにマーチャンダイジングの基本を伝授しました。

何と言っても定数定量の概念をショップスタッフにも本社スタッフにも植え付ける、これに重点を置きましたが、やる気満々の社員たちは飲み込みが早く教えがいがありました。その成果は店頭を見ればわかりますし、細かいことはHくんがついているので大丈夫です。


松屋通り沿いの銀座3丁目店


昭和通りを渡った角にある東銀座店

そして今日たまたま通りかかった2つの店舗を覗いて安心しました。Hくんが何度も定数定量を守るようスタッフを指導したのでしょう、商品は見やすい展開になっていました。

店舗数は増え、海外出店も始まり、ビジネスは軌道に乗ってマザーハウスは次のステージに行こうとしています。そこで再びアドバイスをしました。これまでは途上国での生産にこだわってきたマザーハウスですが、この先そのことが「売り」ではブランドとしての市場ポジショニングは確立できない。途上国生産そのものは続けつつ、もはやそれだけが「売り」ではブランドの成長は見込めない。そろそろマザーハウスの十八番(おはこ)、ブランドの世界観をしっかり打ち出すべき時が来ている、と。言い方を変えれば、経営者でなくクリエイター山口絵理子の世界観を商品ではっきり表現する、製造拠点のストーリーではなく商品そのものの魅力で勝負する、これが次のステージではないでしょうかと言いました。

そして、彼女なりの答えのひとつが洋服をしっかり作ろう、でした。「太田さんには叱られそうですが、洋服を作りました」と連絡が入り、初めてのファッションショーにお邪魔しました。修正したらいい点はいくつもあるでしょうが、山口さんは洋服づくりをずっと我慢してきたのです、思う存分やればいいと思います。もちろん在庫量には配慮しながら。


初めてショーで見せた2023年秋冬コレクション


同メンズウエア

以前、山口さんに技術力のある某生地メーカーを勧めました。来月バングラデッシュの工場長が来日するのを機に、その本社工場を見学できるよう先方にお願いしているところです。途上国の縫製工場はここ数年技術はかなり向上していますから、生地のバリエーションが増えればもっと面白い商品が作れると期待しています。日本の素材テクノロジーと職人気質をリンクさせたら、現地の技術者は刺激を受けてさらに商品はレベルアップするでしょうね。成長を期待したいです。





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Last updated  2023.11.11 23:39:48
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