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テーマ:泣いた漫画は?(266)
カテゴリ:漫画
ゴールデン・デイズ(8) 雨上がりの土の匂いが 好きだ 柔らかな 木影が踊るリズムを ぼんやりと眺めるのが 好きだ… 聞こえてくるピアノの調べが ときに はやく不穏な激しさで ときに ゆっくりと慈しみ深く… 届くのが好きだ 輝くような… あれは彼らのいた 景色だった あれは彼のいた 景色だった 今更言わずもがな、な感があるが高尾滋は素晴らしい少女漫画家である。 デビュー作「不思議図書館」の採録されたスロップマンションにお帰り(読み切り集)、『人形芝居』(未完)、『ディア マイン』、『てるてる×少年』…と、新作を発表する度に新境地を拓きながらも、いずれの作品も「少女漫画」と云う様式分類に忠実に描きあげられたものである。 また画力も高く、「迷い」のほとんどない線は透明感のある画を創り出し、視覚情報が明確に伝わってくる。 そしてこの度、大正浪漫を題材にした『ゴールデン・デイズ』の最終巻が刊行された。 この作品は一見「男同士の友情」を題材にしたタイムスリップ物でありながら、高尾滋の「大正とはどのような時代であったか」との問いかけでもあり、<70年以上昔からの歴史>と云う、大正から平成に至るまでの彼女の史観を描いたものである。 それ以外に「過保護」「母親の呪縛」「支配されるという事」と云うテーマも描かれていて、それらがどう収束するのかにも大いに期待していた。 景気悪化・労働争議激化等の問題を抱える一方、文化面ではラジオ放送の始まりや白樺派の台頭した輝かしくもあった時代が「大正」と云う時代であった。 そしてその目に見えない裏面で日本社会が危険な方向に変容していった歴史がある。 226事件後、軍首脳が陸軍大臣は現役軍人でなければならないと云う明治期の制度に戻してしまい、大正デモクラシーの彩りは消え、教育面でも<神国日本>を前面に打ち出し我が国は破滅への道を進みはじめていた。 子供は学校に入ると真っ先に「ススメススメヘイタイススメ」と教えられた。日本の所謂初等教育制度は明治5年に始まったが昭和16年からは「国民学校」と呼ばれるようになった。 大正期にはかろうじて個人レベルの「思考」が存在したが、「臣民は考えてはならない」と云う天皇神権説の時代が到来し、その圧政から昭和初期には「自殺ブーム」も起こった。 そして日本は文民支配が崩壊したまま日中戦争へと突入してしまい、昭和20年の終戦(敗戦)を迎えた。 最終巻である第8巻で高尾滋の示す、「大正」から現代に至る史観、その結論を読んだ。 第1巻~第7巻まで、枚数にして約1,300頁、複雑に張り巡らされた伏線と象嵌するように鏤められた要素が見事に収斂したと言えるだろう。 まず第42話~第43話で相馬の両親の死の謎が解けた。 春日常保に銃を向ける仁。光也の祖父が何よりも悔やんでいたのはその場に居合わす事が出来ず、仁を止める事が出来なかったこと。 夢の中で祖父と対峙する光也。 …オレ 間に合った……? そして「帰らない」事を選択する慶。 「節 お前が 全部欲しいんだ…」 百年後も変わらない場所、愛宕山で あの平穏な時代へお前達を連れて帰りたい と願う光也。 平成が「平穏な時代」かと言えば必ずしもそうではないだろうが、只一つ言えるのは、「自由にものが言える」時代だという事だろう。ある程度の制約は存在するが、己の思想を表現する手段は確実に存在する。 また戦争で子を失った百合子も、後に光也が生まれてくる国だと知らなければこの世を呪うだろうと、明治末から昭和初期までの歴史しか体験していないながらも「日本」と云う国に絶望する事なく心穏やかに逝った。 与えてもらうばかりで何一つ返せようがないと言う仁に 「幸せになれ…」「死ぬまで 幸福になる努力を怠るな…」と言い聞かせる光也。 泣いて抱き合い、キスする二人だが、これに関しては私は所謂"BL"とは思わない。 時を越えた友情にただただ胸が熱くなる_ そして光也は平成に帰ってきた。 亜伊子にドレスを着せた写真を仁が母親に送っていたと祖父から聞かされた光也。 また光也も同時に「オレにとって ヴァイオリンは さ "救い"であった反面"逃げ"の象徴でもあった」と「母親の呪縛」から解放される。 慶は震災の後、孤児を引き取る処から始め後に養護施設の設立に従事、また最終話では1942年の北アフリカ戦線でベルディーニ大尉として従軍している仁の姿が描かれている。 「希望」を絶やすまい、非力だがこの世から不幸をなくそうとする生き方を選択した事になる。 軍服の図案からもベルディーニ大尉(仁)はイタリア軍人として従軍している事が分かるが、時期的に4万人のイタリア軍捕虜を出した「コンパス作戦」とエル・アラメインの戦いの中間だろう。枢軸国であったイタリアは史実上は結果的に敗北するわけだが(ただしイタリアは1943年に離脱している)、「世界大戦」と云う史潮の中で何が「正義」であるのかを判断するのは困難だ。戦場では誰しも「幸福の為に戦っている」と言って良いだろう。 「彼のために 世界を 守る」と云う仁の台詞は印象的。 亜伊子のひ孫の生方さんが光也の前に現れ、 「"春日 仁"の形見です」と、光也が仁に「お守りだよ」と渡していた黒のナイト(駒)が出てきたシーンを読んで、感動のあまり大泣きした私だ。 戦地にあって 最期まで彼が肌身離さず持ち歩いていたそうです_ 時を越えて 届く 眩いばかりの日々が Shigeru Takao Golden Days -fin- ゴールデン・デイズ(第1巻) ゴールデン・デイズ(第2巻) ゴールデン・デイズ(第3巻) ゴールデン・デイズ(第4巻) ゴールデン・デイズ(第5巻) ゴールデン・デイズ(第6巻) ゴールデン・デイズ(第7巻) 透明ブックカバーはこのサイズ 透明ブックカバー☆新書版用ブックカバー(5pack)☆ 透明ブックカバー☆新書版用ブックカバー(10pack)☆
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