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珍味あります!やまねこ軒

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2004年11月02日
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「時間の流れとそれをつなぎとめる場」、
「自分は何者であるのか」、
「自分と相手(他者)との関係性」。

泉作品のキーとなるテーマを3つ選べといわれたら、
私はこのように選ぶだろう。

いや、あるいは、これは、こう解釈する私自身のテーマで
あるのかもしれないのだが。

『Hidden Truth』と『A Pale Scene』は、
時間がどう流れているのか理解することが
非常にむずかしい作品であった。

長いようにも思われた時間が、実は一瞬であったりもするのだ。

そして、その時間をつなぎとめる場として、
選ばれる場は、すべてが「舞台」となる。
観客は五感のすべてを開いて、その場を味わうこととなる。

「男」と「女」の時間をつなぎとめる場に
いつもある小原健吾の絵。

絵を感じ取る力は、自分にはまだまだ足りないのだが、
小原の絵は、表面に描かれているものだけでなく、
その奥に何があるのかを見ようとすると見えるのだろうかと
思うようになってきている。

今回、3度舞台挨拶に立つ小原氏を見たが、
この方は絵に語らせる人なのだと思った。
それは、小原と思われる画家を演じる吉田ミサイルや
泉の相手役の高井景子、
あるいは、今まで泉が共演してきた俳優が皆、
演技に語らせるのと同じこと。

例外は泉だけかもしれない。

舞台の上でも、素でもしゃべりまくりである。

演出意図を語る人、それは、監督、演出家しかありえない。
しかも、舞台上で、俳優をしている自分に語らせるのだから。

この方は、相変わらず、何者なのかを一言では
落とさせてくれない。

場を作り出す人、それは、俳優も含めたすべての要素、
観客も絵も今食べている食事も、そして、ずっと焚かれていた
アロマオイルも・・・・。

感じ方は、観客に委ねながらも、委ねるまでのぎりぎりの
ラインまでは、最善のものを出そうとする。

それが、五感のすべてで感じられるところの演出を
徹底しようとする様子からうかがわれた。

さて、その「場」に乗る「人」の部分である。

「自分」、そして、「自分と他者との関係」。

それは、描く脚本家、演じる俳優、感じ取る観客の
三者の共同作業となる。

見にいった人それぞれが、もうすでに、
日記に書いているように、共同作業の結果は
実に様々な色合いを醸し出す。

内心、どきどき、していた。

すでに、私が思うことを、私よりも見事に表現する人が
現れたらどうしようと・・・。

でも、よかった。

私は、私。

感じ取ることは、やはり、みんな微妙に違うのだ。

誰もが観客として、自分の感覚に、自信を持ってイイノダ!

泉作品では、
「男」も「女」も、自分とは何かに悩んでいたり、
相手との関係に悩んでいたりする。

いや、それは、世の常か?

「男」は「女」によって、変わり、
「女」も「男」によって、変わっていく。

泉は、その「変化」を脚本上で作っていくときに、
そして、さらに実際に演じるときの2段階で表現する。

「2段階目」の究極は・・・

脚本上にはない、俳優の関係性が作り出すアドリブ。

アドリブを語る場合、この方を外すわけには、行かないだろう。

吉田ミサイルである。

泉の3作品、すべてに「画家」として、登場するこの方。

と、今だから書けるのだが、観る前は「二人芝居」だと
思っていたから、「出る」とは思っていなかったのである。

が、まさに、とんでもないところから「出た」のである。

「男」と「女」は、別れる前に最後の乾杯をすることとなり、
「男」は、ワインを取りに行くことになり、
床下の貯蔵庫を開けると・・・「出た~ぁ」のである。

脚本でその部分を見ると、非常にシンプルである。

ここでの「画家の役割」は、
「男にワインを飲むための一式を渡すこと」なのだが・・・。

それが脚本通り、最低限の役割を果たして終わるはずもない。

吉田は、脚本にないこと、どころか、全然違うことを
機関銃のようにしゃべるのである。

泉もそれに反応し、必然的に、「男」が「女」のところに、
戻って話す言葉が変わっていく。

「出たんだよ、また、出たんだ」、
こんな髪型で、こんなカッコで、
こんなことを言ってと・・・「画家の様子」を
「女」に説明する「男」は実に楽しそうだった。

吉田のすごいところは、「待てる俳優」であることだと
今回私は確信した。

吉田のいたところは、非常に寒い床下である。
しかも、半ズボン・・・。

おそらく、普通のバーなのだから、立派な舞台装置
があるわけでもない、ただの「床下」であるそこに、
舞台の進行状態が伝わるわけはない。

「合図」は、「男」が床下へのフタをはずす瞬間なのである。
そこまで、吉田はテンションを上げていなくてはならない。
最高潮に・・・・。

しかも、1回目は、観客は、誰も、そこに人がいるなどとは
思っていない。そこから出てくる意外性だけで、
惹きつけることができる。

ところが、2回目、3回目は、展開を知っている客も
相手にしなくてはならないのだ。期待値が上がっているときは
それ以上のことをしなくては、客は満足しない。

吉田は、その期待値を見事に上回ったのである。
2回目、3回目と、出てくるたびに、さらに、さらに、
テンションが上がっていた。

ちょうど昼間のラジオで仲代達矢が「俳優は待つ職業だ。
待てなくて、才能があるのに、つぶれてしまった俳優を
何人も見てきた」などと語っていたのを聴いていただけに、
なるほどと思ったのだった。

この場合の待つのは、自分にあったよい役をという
意味だったのだが、それは1つの劇中でも同じ。

ちょうど、高井景子も、パンフレットの自己紹介で
ほしいものは「チャンス」と書いていた。
それが、待てる人になれば、女優として大成するはずだ。

待つのが必要なのは、俳優に限らず、
人生そのもののことだともいえる。

自分が出るべきときに、最高の自分を持っていけるように
するための「待ち時間」の過ごし方は非常に大事だ。

さて、私が語っておきたいこともあと1つとなった。

複数人の泉忠司から1人を選べといわれたら、
脚本家を選ぶと思ったその理由である。

それは・・・・。

「最後に男が語る何気ない一言で、
前の時間の意味を変容させた」。

泉が、そういうセリフを紡ぎだした脚本家だからである。

『kakurega』は、泉作品の中でも、比較的時間の流れを
取りやすい作品であったし、恋愛劇としてふたりの関係性も
理解しやすい作品であるし、例のように、「演出家」が
劇中に現れて、観客に展開を選ばせる仕組みになっている。

実は、演出家は、答えの一部を語っただけで、
答えのすべてを語っていなかったのである。

選ぶのは、「隠れ家から出て、外の世界を見るために
自分を変えようと必死になるものの、結局は隠れ家に
入って、そこに安らぎを求める女の物語」(kakurega)と
「隠れ家という安らぎを手離すまいとするものの、
結局はそこから出て、新しい風景を見ることになった
女の物語」(blue moon)となっている。

が、実は、最初の女は、すでに男と結婚して5年が経っている女で
次の女は、男と結婚する前の女だったのである。

最初の女は、男を理解しようと歩み寄ろうとするも、
「かくれんぼ」や「絵の見方」など、細かなところで
男と食い違う。実際は多分これ以外にもエピソードが
いくつもいくつもあり、「男」は、それゆえに
「女」のことが分からないと思っている。

次の女は、自分を認め、自分のままに行こうとするが、
なぜか細かなところで、「男」と似たような見方を
していく自分に気づいていく。

ベースに『hide and seek(かくれんぼ)』という絵があり、
あとは、「かくれんぼ」や「その絵の見方」についての
セリフを微妙に変えるだけ・・・。

それで、「男」と「女」の距離を表現する。

そして、最後に、それが、恋愛の段階における
「同じ時間」に起きていたことではなく、
「違う時間」に起きていたことがわかるのである。

私は、なぜか、泉のすべての創作物を「人生モノ」として
読んでしまうことが多い。

実は、今回も、単純に、恋愛劇を楽しもうと思って来たのだが、
・・・勇気づけられてしまった。

これは、もっとも落ち込んでいるときに、友人に教えてもらった
言葉ともつながるのだけど。

実は、「自分で、自分の過去も変えられる」のだ。

自分がどうにかできるのは、自分と現在や未来だけであって
人や過去はどうにもできないと思ってきた。

泉も、どうにかできるのは、目の前の一瞬だけが
持論の人である。

が、しかし、である。

今回の「ひとことの力」を見て、
解釈によっては、過去さえも変えられる気がした。

できたら、スイッチひとつで削除したいような
つらく悲しい過去の出来事にも
自分が何か意味づけを与えることができれば、
それは意味のある過去になるのではないか。

もちろん、それは、人に対してやるのではなく、
自分でやることなのだけど。

***

さて、『kakurega』は、今後もどんどん変容していくそうだ。

まだ再演を続ける芝居のれびうをどこまで書いていいものやら、
さすがのやまねこも考えたのだが、泉氏からは、ネタバレOKで
許可をもらっているので、ここまで書いてみた。

おそらく、次回も、れびうや期待値を超えるものを
創ってくれることだろう。





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最終更新日  2004年11月03日 12時13分29秒
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