テーマ:政治について(20193)
カテゴリ:ぼくの疑問符
農作物の価格が暴落したり、あるいは農作物が実らなかったりして損害が出た場合、それをカバーする保険というのは存在するのだろうか。
キャベツの価格が暴落するとしたら、それこそ日本国じゅうで保険金請求が発生するので、保険会社のカネ蔵がすっからかんになりそうだ。 保険事故の規模がでかすぎて、保険が成り立たないのだろう。 あるいは、保険料が高額になり農民にとって魅力にとぼしく、保険が商品として成り立たないのかもしれない。 いずれにせよ、民主党がいう 「戸別所得補償制度」 を創設するよりも、独立行政法人 「日本農業損失保険機構」 を設立し農業損失保険を運営します、とでも言ってくれたほうが、公約としての納得性はある。 * 8月17日に配信したコラム 「民主党の <戸別所得補償制度> を批判する」 をブログ上でも再録しておこう。 == ポーランドの農村で飼い牛に、麦のかわりにパンを食わせていた時代がある。 都市では肉不足で暴動が起きていたが、そこは 「弱者の味方」 の社会主義である。 低品質のパンを大量生産し、政府の補助金によって格安の価格で販売した。 原料の麦よりも製品のパンのほうが安い、夢のような世の中が実現した。 農民は麦を売り、格安のパンを買って飼い牛の餌にした。 ■ 人災も、忘れたころにやってくる ■ パンを食う飼い牛は、市場原理による経費コントロールを拒絶した社会主義の末期症状。 麦よりパンが安くても、国民はしあわせになれなかった。 人災も、忘れたころにやってくる。 日本の民主党がマニフェストにうたった農畜産業・漁業の 「戸別所得補償制度」 の内容を見て、社会主義の末期症状を思い出した。 * 日本人の大部分は農業と縁遠くなってしまったから、ニュース報道が 「農業」 のイメージをつくりあげている。 価格が大暴落し、畑で土に埋められてゆくキャベツ。 あるいは台風一過、売り物にならなくなったリンゴの山。 ああ、かわいそうに。 お百姓さんたちは何も悪いことしていないのに所得が激減するんだから、その分だけ政府が補ってあげる (補償する) のは、当然だよね。 そういう情緒が支えるのが 「戸別所得補償制度」 だ。 民主党のマニフェストをそのまま引用しよう。 ≪農畜産物の販売価格と生産費の差額を基本とする 「戸別所得補償制度」 を販売農家に実施する。 所得補償制度では規模、品質、環境保全、主食用米からの転作等に応じた加算を行う。 畜産・酪農業、漁業に対しても、農業の仕組みを基本として、所得補償制度を導入する。≫ ■ 豊作貧乏の究極の解決策 ■ 農業・漁業の悲劇を大別すれば (1) 収穫・漁獲があっても、市場価格が低すぎてモトが取れない (コスト割れ) (2) そもそも収穫・漁獲が得られない (収益源の欠如) の2つである。 民主党のマニフェストに従えば、市場価格が低すぎる場合でも 「販売価格と生産費の差額」 が補償される。 利益は得られないにせよ必要経費だけは回収できる。 豊作貧乏の悲劇がなくなる。 画期的なすばらしい政策だ! 何で今まで誰も思いつかなかったのだろう! 台風で農作物が売り物にならなくなったときも、販売価格をゼロと見なして (あるいは帳簿上はトン当たり1円と見なして)、生産費との差額を国民の税金で補償する。 まったくの不漁のときだって漁船の燃料は国民の税金でまかなう。 オーナー以外の船員の労務費も国民の税金でまかなえる。 民主党のマニフェストにいう 「生産費」 だから。 ■ 日米FTA締結も問題ない ■ 民主党のマニフェストにいう 「販売価格」 に下限はない。 タイや米国、オーストラリアから安い農産物や畜産物が関税なしで入ってきても、こわくない。 外国産の安い農畜産物に対抗できるような販売価格で、国産の農畜産物を売ればいいのである。 コスト割れでも、こわくない。 だって、「販売価格と生産費の差額」 は民主党政権が国民の税金を湯水のごとく使って補償するから。 日米の自由貿易協定 (FTA) 締結が民主党の公約となる予定だったのをご記憶だろうか。 米国の安い農畜産物が関税障壁なしで入ってくると、国内の農畜産業が潰れる! と農業団体などが反対し、民主党がこれを取り下げたのは記憶に新しい。 そのとき、ひとり小沢一郎氏が 「日米FTA締結を公約から外す必要はない」 と言っていたのを覚えておいでだろうか。 「戸別所得補償制度があれば、日米FTAを締結しても何の問題もない」 なぜかといえば、米国の農畜産物がいくら安値で入ってきても、日本の農家・畜産業者はコスト割れの部分を国民の税金で補償してもらえることになるからだ。 ■ 知恵は別のところに働く ■ 戸別所得補償制度が導入されると農家も畜産・酪農業者も好きな生産物を作り放題となる。 売れようが売れまいが、キャベツも牛乳も生産のし放題だ。 市場原理が働いていたころは、作りすぎると市場価格が暴落するから、自主的に生産調整せざるをえなかった。 少しでも儲かる生産物を作るべく、作る品種を変えたり、品質向上で差別化を図ったりした。 そういう工夫や努力が不要になる。 国民の税金で、販売価格と生産費の差額が補償されるから。 * 生産費の分を国民の税金でまかなってもらっても、利益分までは支払われない。 だから、農民も漁民も今と同様に知恵をしぼって、稼げる農業・漁業を目指すはずだ! そう思われるかもしれない。 甘い……。 戸別所得補償制度が導入されると、農民・漁民の知恵は別のところに働くようになる。 ■ 農薬と化学肥料でもうける農協 ■ キャベツをつくる田中さん。 今年も豊作貧乏で、生産費を国民の税金でまかなってもらった。 さあ、田中さんには収益はないのだろうか。 田中さんは、農薬や肥料、農業機械、燃料など、およそ農作業に必要な資材を農協から買っている。 戸別所得補償制度が始まってから、農協の資材販売価格があれよあれよという間に高くなった。 でも、田中さんには不満はない。 高い農薬代も肥料代も、農機代も燃料代も、すべて 「生産費」 として政府に請求できるからだ。 国民の税金は、いくらでも食いつぶせるのだ。 農協は販売価格に利益を乗せ放題だ。 農協の収支は劇的に改善し、農協職員の給与は都市の大企業並みになる。 じつは、田中さんの奥さんも弟も農協で勤務しているのである。 田中さんの営む農業じたいは、ほとんど利益を生まない。 しかし農薬は律儀に、必要量以上に使うようにしている。 化学肥料も大量に使うことにしている。 すべて、農協が利益をあげるためだ。 以前は、自前で汗をかきかき堆肥をつくっていた田中さんだったが、自家生産の堆肥では「生産費」として費用請求ができない。 もう、無駄なことはしない。堆肥は使わない。 ■ 農水省も大喜び ■ 補償金は垂れ流し。 農産物市場は過剰生産作物であふれる。 有機農業は崩壊。 さあ、どうする。 戸別所得補償制度を廃止するのがいちばんだが、民主党が政権についている限り、制度は続く。 解決のために役所は、市場原理の代わりにきめ細かな規制を立案・実施することとなる。 (まさに役人冥利というものだ!) キャベツやレタスの生産過剰となっても、これまでは市場原理によって農家が自主規制することで解決されていた。 ところが 民主党政権のもとでは、「米の減反」 に並んで 「キャベツの減反」 や 「レタスの減反」 など、過剰生産作物ごとに 「減反」 のための補助金ばら撒きを行って生産調整を行う。 農薬や肥料の使いすぎも、作物ごとに細かく規制を設けて制限し、規制が守られているか細かく監視する。 農民が常識を働かせて節約することは望めなくなったから。 高騰する農産物 「生産費」 をどう抑制するかが、農政の重要課題となる。 農水省は、表向きは遺憾の意を表明するが、内心は大喜びだ。 戸別所得補償制度のおかげで、農水省の予算は大幅に増えた。 政府の規制項目も激増し、所得補償のための手続き書類をチェックする人員も膨大。 農水省は、今をときめく存在となる。 ■ 一に貯蓄、二に保険、三に経営規模拡大 ■ (1) 収穫・漁獲があっても、市場価格が低すぎてモトが取れない (コスト割れ) (2) そもそも収穫・漁獲が得られない (収益源の欠如) こういうときの解決法は本来、一に貯蓄、二に保険、三に経営規模拡大である。 それが自己責任による解決法だ。 農業も畜産業も漁業も、 商業や工業と同じく さまざまなリスクにさらされる。 儲かるときもあれば、そうでないときもある。 辛くても自己責任で解決。 市場原理がコントロール役となってきた。 たとえば造船業に、民主党のいう 「所得補償制度」 を取り入れたら、どうなるか。 韓国・中国並みの安値の受注価格と、日本人の高コスト積み上げ放題の生産費の差額を、国民の税金で補うとしたらどういうことになるか、さすがに誰でも想像できるから、いかなる政党も公約には掲げない。 だから日本の造船業は自己責任で解決すべく、製造技術の高度化と血のにじむようなコスト低減の努力を積み重ねている。 日本の経済は、そういう努力により発展してきた。 ところが、農業・畜産業・漁業となると、国民の想像力は麻痺してしまうらしい。 民主党のマニフェストでは 「戸別所得補償制度」 の所要額を1兆4千億円と見込んでいるが、とても収まらないだろう。 衆院選の投票は、どうかご自分の財布と相談しながら行っていただきたい。 民主党マニフェストを、再読してみましょうか。 ≪農畜産物の販売価格と生産費の差額を基本とする 「戸別所得補償制度」 を販売農家に実施する。 所得補償制度では規模、品質、環境保全、主食用米からの転作等に応じた加算を行う。 畜産・酪農業、漁業に対しても、農業の仕組みを基本として、所得補償制度を導入する。≫ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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