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ゆきよきの言語学・夏目漱石・日本史

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2016年06月02日
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カテゴリ:学び方・振り返り
(4)一般教養、弁証法、認識論の学び

 第3に、一般教養、弁証法、認識論の学びについてである。ここでは、夏目漱石「現代日本の開化」「私の個人主義」「点頭録」「文芸と芸術」、森鴎外『雁』、孫崎享『日米同盟の正体 迷走する安全保障』、ベアテ・シロタ・ゴードン『1945年のクリスマス 日本国憲法に「男女平等」を書いた女性の自伝』、神庭純子『初学者のための『看護覚え書』(4)』、薄井坦子・瀬江千史『看護の生理学(3)』、東川篤哉『謎解きはディナーのあとで』、ジョン・ル・カレ『寒い国から帰ってきたスパイ』、芥川龍之介『玄鶴山房』、白井聡『戦後政治を終わらせる―永続敗戦の、その先へ』、前泊博盛『本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」』について振り返っていく。

 まず、夏目漱石の評論ないし講演録についてである。「現代日本の開化」に関しては、内発的な発展と外発的な発展とを対比的に捉えて、明治期の日本は後者に属するが、本来的には前者が望ましいと漱石が考えていることが非常に興味深かった。これらに思想は、漱石作品の様々な場面で描かれており、漱石はこうした思想を表現する手段として小説を選んだともいえる。こうした思想的背景、バックボーンがなければ、歴史に残るような名作は書けないのだということも思った。「私の個人主義」については、ヨーロッパに圧迫されながらも、日本人としての個人を確立するのだという漱石の主体性がよく伝わってくる内容であった。金権には義務が伴うとか、国家が安泰だと個人の自由が拡大するとかいう捉え方は非常に弁証法的だと感じた。また、他人の助力は頼めないという「個人主義の淋しさ」という表現は、三浦さんの「孤独を恐れ孤独を拒否してはならない。~」という言葉に通じるものがあると思ったし、豆腐屋は国家のために豆腐を売るわけではないという漱石の文言は、アダム・スミスの「見えざる手」を学んでの表現で、これも興味深かった。「点頭録」に関しては、第一次世界大戦について、自分なりの理解をしたいという漱石の思いがよく伝わってくる文章であった。軍国主義、国家主義に焦点を当てて、世界歴史を動かしている思想を掴もうとした漱石の原理的思考がよく表れていると感じた。「文芸と道徳」については、漱石の新旧二つの道徳観に対する見解が興味深かった。この対立は、漱石作品の中でもいろいろと表れていて、ここにも漱石の思想的な背景があると感じた。目的像を描いて生きていくのが人間であるという把握からは、人間の本質を掴んだ漱石の実力の高さがうかがわれるとも思った。

 次に、『雁』に関してであるが、さすが漱石と並び称される鴎外だけあって、非常に流暢な文章で、人間の内面の一面を鋭く描いている作品であると思った。しかし一方で、上記の漱石の作品やその思想的背景に比べれば、鴎外の作品は単に面白いというレベルにとどまっている印象があり、『雁』に関しても、だからどうしたという思いがぬぐいきれない作品であるとも感じた。漱石程の時代に対する苦悩、真剣みが感じられないというか、お遊びで作品を書いているという感じがするというか、とにかく漱石に比べて軽い印象はどうしようもなく感じてしまった。

 第3に、『1945年のクリスマス』である。これは、GHQの憲法草案作成に関わった女性、ベアテの自叙伝的作品であり、彼女がどのような思いで草案作成に関わったのか、当時のGHQの雰囲気がどのようなものであったのか、非常に生き生きと綴られている。草案作成後のベアテの人生についても語られていて、彼女が場所を移動しながらもその語学力に支えらえて、次々に新しい反映を成立させ、新しい認識を獲得しながら成長していく様子が描かれていることも興味深かった。122ページには、彼女の母の言葉として、「日本人1人ひとりは善良でいい人なのに、職務につくと別人に豹変してしまう、どうしてあんなふうに同じ人間で変われるんだろうね」というのが紹介されていたが、これは良くいえば日本人が協調性を大切にする(「和をもって尊しとなす」)ともいえるが、悪くいえば日本人の主体性のなさ(組織に流される)を端的に表しているともいえると思った。なお、ベアテがデューイの未亡人と関わったことも記載されていて、人の繋がりの大切さを感じた。

 第4に、『初学者のための『看護覚え書』(4)』についてである。これはこれまでの3巻についてもいえることであるが、徹底的に『看護覚え書』という書物から学び切ろうという神庭先生の強い思いが現れていると感じた。特に「健康への看護」というものについて、「病気への看護」と同じかそれ以上の重要性を感じて説いておられること、また、看護師として如何に「観察」ということが大切かを説いておられることなどは、先生の感情がそのまま文章に現れていて非常に説得的であると思った。教育、訓練の必要性を人間の本質(人間は育てられて初めて人間となる)から説いておられることも、未熟な自分も訓練次第で如何様にも成長できるのだ、と主体的に捉え返すことで、やる気が出てくる内容だった。

 第6に、『看護の生理学(3)』では、なぜ他の代謝器官などと違って呼吸器官だけは認識によってある程度自由にコントロールできるのかについて説かれてある部分が非常に興味深かった。端的には、労働過程での訓練を経て、自分である程度コントロールできるようにあったということだが、ここで最も印象的だったのが、「呼吸を合わせる」(p.68)、つまり協働について触れられていることであった。また、声帯も「人間の認識が統括できるようになって、音声言語が形成され、人間の文化を担ってきた」(p.82)と説かれており、「労働過程のなかでの、類としてのくりかえしの訓練」(p.105)が重要な役割を果たす形で人間が話すことができるようになったと説かれていることもとても興味深かった。もともとは全ての筋肉が本能により統括されていたわけであるが、このうち、必要に応じる形で訓練がなされていく流れの中で、徐々に認識が統括できる範囲が広がっていったということだろうと思うが、この過程的構造については、言語起源論でしっかりと具体化して説かなければならないと思う。

 『謎解きはディナーのあとで』については、若い女性刑事が実は大変なお嬢様で、その家の執事が女性刑事が抱える難事件を次々に推理のみによって解いていくという趣向の短編小説集である。社会背景を大きく背負ったような中身ではなく、幾分非現実的なストーリーではあるが、読者にも注意深く読めばその謎が解けるような書き方になっており、推理の面白さは十分に味わえる作品となっている。たまにはこうした気を抜いて読める作品でリラックスするのも悪くはないと思う。『寒い国から帰ってきたスパイ』については、孫崎享『日米同盟の正体』に紹介してあったため、これも気楽に読めることと、実在するスパイなるものがどのような仕事をどのような思いで成し遂げているのか、特に国家間に暗躍するスパイの実情を一定知るために読んでみた。内容は省略するが、非常に緊張感があって、国家意志の一側面の一部を代行するスパイの厳しさみたいなものがよく分かったし、小説としても面白い部類に入ると思った。同じ登場人物が出てくる別の小説もあるようなので、また読んでみたいと思う。

 『玄鶴山房』に関しては、これも鴎外同様、なかなか人間の内面を上手く描いていて、それなりに面白い作品であるとは思った。老いぼれた人間の開き直りや、人間一般のいやらしさがうまく表現されているが、それでも最後にリープクネヒトが出てきて、このあたりの展開の必然性がよく分からない、よく練られてはいないという感じもした。まあ、吉本さんが取り上げるくらいの作品だから、一応読んでおいて、みんなで議論することが大切なのだと思う。近代日本のある側面については見えてくるものがあるだろう。

 『戦後政治を終わらせる』については、チリの軍事クーデターや拉致被害者へのバッシング、また昭和天皇の「現実的判断」など、事実的に知らなかったことがいろいろ学べるし、そうした事実に基づいて、「敗戦の否認」「永続敗戦」という論理を導き出し、その論理でもって全ての問題を説こうとしている一貫した姿勢もとても勉強になった。他会員も述べていたが、『永続敗戦論』とともに、繰り返し学んで、戦後の理解の基本に据える必要があると思う。

 最後に、『本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」』についてである。読んでいて怒りが込み上げてくる内容が満載で、今の日本がどういう状況におかれているのか、おかれ続けているのか、どんな書物よりも雄弁に事実に語らせているものである。今の日本はこのままでいいのか、いいはずはない、という思いが強くなってくるとともに、こうした事実自体も、先達の大変な苦労によって暴かれてきたということを知るにつけ、情熱の大切さ、偉大さも再認識した。p.299からp.300にかけては、地位協定に関する機密文書を手に入れたことについて、そのニュースソースを教えろと脅す外務省幹部に対して、あるパーティーで同席した著者(当時琉球新報の記者)が、「この間は非常に貴重な情報をありがとうございました」と大声で言ってやったら、その幹部は非常に焦って困惑し、以後、ニュースソースの犯人捜しはなくなったという痛快なエピソードがあり、情熱を持った記者の強さを垣間見た思いだった。我々もこうした覚悟、こうした情熱をもって学問に取り組む必要があろう。





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最終更新日  2016年06月02日 16時16分47秒
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ガラスの玉は、本物の真珠をきどるとき、はじめてニセモノとなる。

政治の分野であろうと学問の分野であろうと、革命的な仕事にたずさわる人たちは道のないところを進んでいく。時にはほこりだらけや泥だらけの野原を横切り、あるいは沼地や密林をとおりぬけていく。あやまった方向へ行きかけて仲間に注意されることもあれば、つまずいて倒れたために傷をこしらえることもあろう。これらは大なり小なり、誰もがさけられないことである。真の革命家はそれをすこしも恐れなかった。われわれも恐れてはならない。ほこりだらけになったり、靴をよごしたり、傷を受けたりすることをいやがる者は、道に志すのをやめるがよい。

孤独を恐れ孤独を拒否してはならない。名誉ある孤独、誇るべき孤独のなかでたたかうとき、そこに訪れてくる味方との間にこそ、もっとも深くもっともかたいむすびつきと協力が生まれるであろう。また、一時の孤独をもおそれず、孤独の苦しみに耐える力を与えてくれるものは、自分のとらえたものが深い真実でありこの真実が万人のために奉仕するという確信であり、さらにこの真実を受けとって自分の正しさを理解し自分の味方になってくれる人間がかならずあらわれるにちがいないという確信である。

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