テーマ:暮らしを楽しむ(384562)
カテゴリ:☆落窪物語 少し簡略化した訳で
<落窪物語 第一巻 その7>
帯刀は、少将を格子のすき間にお入れして、留守番の者に見つかるかもしれないと、自分もしばらく簀の子にいました。少将が中をご覧になると、消えそうに灯をともしており、几帳、屏風がないので中がよく見えました。 向かい合っているのは、あこぎのようだ、後姿が美しい、横になっているのが姫君らしい、白い衣の着古したのを着て、古びた綿入れを、腰から下に引きかけて横になっているので顔が見えないが、頭の形、髪のかかり具合はとても美しい・・・と見ていると、灯が消えてしまった。 「まあ、暗いわね、夫が来ているのでしょ? 早くお帰りなさい。」という姫の声はとても上品である。 「夫は今、人に会いに行っております。その間はこちらにおりましょう。人がいないので、恐ろしくお思いでございましょう?」とあこぎが言うと 「いいから、早くお行きなさい、恐ろしさには慣れているわ。」(注1) 少将が格子のすき間から出ると、帯刀が 「いかがですか? お車までお送りいたしましょうか? 御笠はいかがいたします?」と聞く。 「妻のことを思って、お前はずいぶんえこひいきするのだね。」と少将は笑ったが、心の中では、 (装束が古くなっているようだ、姫は恥ずかしいと思うことだろう)と気の毒にお思いになる。 「はやく妻を呼び出して、やすめ。」と言われるので、帯刀はあこぎを呼び出し、無理に部屋につれていってやすんだ。 姫君は、なおも、おやすみにならずに、横になりながら琴をもてあそびながら、 なべて世の憂くなる時は身隠さむ 巌の中にすみかもとめて (世の中すべてが悲しくなる時は、人の気づかないような巌を住処にして、身を隠してしまいたい。) と、かなしい歌を口ずさんでいます。 (注1) のぞき見したときに、姫の後姿を見て、髪が美しく、品のよさそうな雰囲気は感じとられたことでしょう。ただ、着ている物は、相当に古びています。でも、姫とあこぎのお互いを思い合う様子、優しさを知って、少将はとにかく会いたくなったものと思われます。見かけではなく、心の美しさに惹かれた少将は、なかなかの人物です。 自分が入っていくと、姫が衣装のことで恥ずかしく思うだろうとはわかっていたのですが、そんなことよりも、姫と早く男女の仲になりたい気持ちの方が強かったのですね。 そんな姿を見ながら少将は、人が来ないことを確かめると、木の切れ端を使って格子をこじ開けてしまいました。そのまま格子を上げて、姫の部屋の中に入ってしまいます。 姫はとても恐ろしく思って起き上がろうとしましたが、少将は、すばやくよりそって姫をつかまえてしまいました。 あこぎは、格子があげられる音を聞いて、 「どうしたのでしょう。」と驚き、起きようとしますが、帯刀が起きさせません。 「なぜとめるのですか? 見に行ってきます。」 「犬か、ねずみでしょう。落ち着いてください。」と帯刀がとめると 「何かしたので、こんなことをいうのね。」 あこぎは気づいてしまいました。あこぎは姫君が気の毒で腹を立てましたが、動くことができません。 少将は姫をとらえたまま装束を脱ぎ、姫と添い寝をされた。姫は恐ろしく苦しくて、ふるえてらっしゃるので、少将は、 「私のことをひどく不愉快にお思いになるようですので、私のあなたに対する愛情などをお話しいたしましょう。巌の中までもあなたを探しもとめてさしあげようと、こうしているのですよ。」 姫は、(どなただろう?)と思うよりも、自分の装束がとても見苦しく、袴がぼろぼろなのを思って 「すぐに死んでしまいたい。」と泣かれる様子がとても悲しそうで、少将は面倒になって、黙って横になっていらっしゃった。 あこぎが寝ている場所は、姫のお部屋に近かったので、姫が泣かれる声も、かすかに聞こえてくる。起きようとしても帯刀が起こさないので、 「姫君をどうしようとして、こんなことをするのです。あやしいと思いました。ひどく思いやりのない人ね。」と腹を立てて、帯刀を手荒くにひきのけると、二人は言い合いを始めました。(注2) あこぎは、姫君が、自分もこのことを知っていたと思われるのではないか、と心配しています。 「あなたが知らなかったということを、姫君はわかって下さるでしょう、そんなに腹を立てて怒らないでください。」 (注2) もし、少将が忍んでこられるとわかっていたら、あこぎのことですから、姫が装束のことで恥をかかないように、何とか整えたり、部屋をきれいにしたり、しておきたかったと思います。それをしないまま、姫に恥をかかせてしまったことが、とても申し訳ないはずです。男女のことを何も知らない姫に、夫を持っている自分から、お話しておいた方が良いこともあったはずですね。 そのうちおいでになるとは、わかっていたはずですが、準備をしていないうちに、帯刀が黙って少将を姫の部屋に入れてしまったことを怒っているのです。 さて、ついに結ばれてしまった少将と姫君のお話は、次の回に。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2016.10.08 19:57:56
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