テーマ:暮らしを楽しむ(384561)
カテゴリ:☆落窪物語 少し簡略化した訳で
<落窪物語 第一巻 その8>
惟成(帯刀)が、なんとかあこぎの怒りをとこうと、懸命に慰めながらあこぎを抱きしめていた頃、少将も姫を懸命に口説いています。 「どうして、こんなに私のことを嫌われるのですか? 大した男ではありませんが、嘆かれるほどひどくはありません。たびたび差し上げたお手紙を、「見ました」とも仰っていただけないのは、私を不都合な男だと思われているのでしょうか。もうお手紙は差し上げないでおこうとも思ったのですが、このようにお手紙を差し上げるようになってからは、『このようにあなたに憎まれる運命なのだな』と思われ、苦しいことも苦しく感じられません。」 と少将がお話になり横になっていらっしゃいますが、姫君は死ぬほど恥ずかしく思われるばかり。 単衣はなくて、袴を一つつけているだけ。着ているただ一枚の着物はところどころ破れて肌が見えている。その装束のことを考えると、つらいという言葉では姫の気持ちを表せないくらい。涙よりも、汗でびっしょりになっているのです。(注1) 少将も、そんな姫のご様子を見て、とても気の毒にお思いになる。いろんなお話をされるが、姫君はお返事をされる気持ちにもならず、恥ずかしさにあこぎを恨めしく思われていた。 (注1) 姫の身にまとっているものは、本当にひどい状態ですね。肌が見えてしまうほどに擦り切れたり破れたりして、あちこち穴があいているのですから。いきなり入ってきて自分を抱いた男が、いつもお手紙をくれた方だとはわかったはずですが、とにかく自分のひどい様子を見られたことで、姫は心から惨めな思いをしていたのだと思います。 姫にとって、長い長い夜がようやく明けました。 君がかく 泣き明かすだに悲しきに いとうらめしき 鶏の声かな (あなたが一晩中泣き明かした事だけでも悲しいのに、とうとう別れの鶏の声まで聞いてしまうとは、うらめしいことです) 「たまにはお返事してください。あなたが声を聴かせてくださらないのは、あんまりです。」 少将がそうおっしゃるので、姫はとても辛かったけれど 人心 うきには鳥にたぐえつつ なくよりほかの声は聞かせじ (このような辛い思いをさせた人のお心を思うと、私は鶏のように泣くよりほかに声をお聞かせすることができません) と、ようやくの思いで、お歌を返しました。 その姫のご様子と声は、痛々しいほど健気で可憐なものでした。それまでずっと泣かれて、いい加減な気持ちでありましたが、これを聞いた少将は、姫のことを真剣に思うようになりました。(注2) (注2) 少将は、それまで自分が婿に入るならどの姫にしようかと、いろんな姫のうわさ話を聞いては、忍んでいってお試しの恋愛をしていたようですが、この姫の一言で、すっかり心を奪われてしまいました。 ほんの一言でも、人柄はにじみ出るのでしょう。見かけに惑わされず、姫のすばらしさを感じとった少将は、やはり並の男ではないと言えると思います。 よかったですね。姫が無事歌を返し、お返事できたことで、少将との縁が深まりました。次は、あこぎが大活躍する場面です。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2016.10.14 09:34:00
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