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THE Zuisouroku

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2024/03/14
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カテゴリ:小説














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 内藤と荻野、プラットらが搭乗した二機のアメリカ合衆国空軍政府機のBOEING747は、大西洋上を飛び、日米の旧式海艦隊をカメラに収めた後、東海岸部の、破壊しつくされた大都市の上空を低空で飛んだ。
 ボストンは、既に巨大生物が焼け死んだ後だが、ニューヨークやフィラデルフィア、シカゴなどメガシティーを形成しているその上空からは、数多くの生きた巨大生物たちが暴れ、共食いをする有様がそこ此処に見られた。BOEING747二機は、搭載されたカメラでグロテスクなそれらの光景を、高度千メートル以下で飛行しながら撮影した。
 それぞれの機のパイロットたちは、万が一にもここでトラブルが起こらないように、祈りつつ自然とその目が、荒れ果てた地上へと行ってしまうのをどうしようもない。これが、アメリカ合衆国の被害状況を報告する貴重な資料なのだと知りながらも、好奇心は抑える事が難しい。機は次第に高度を下げて行く。
 内藤ら、乗客の目からも地上の様子は興味深く、口を開く事も無い。三人の眼は地上の有様に釘付けだった。その醜い生物の暴れる様子は嫌でも目に焼き付く事となった。同時に三人の心のどこかでは、この恐ろしい地上にただの一人でも良いから、生きた人間の出す何かのサインは無いものかと、探すのも本能だろう。ビルの屋上に注意を向けて三人はその痕跡を見付け出そうとしてi
た。巨大ガニがビルの中からその巨大な蟹爪で何者かを引きずり出しては口に運んでいるのが荻野の目に映った。矢張り人間が!と、荻野が思った次の瞬間にビルの十数階まで届く巨大な蟹の背丈で楽に、ビルの中などはその爪でかき回す事が出来るのだと、荻野は悟った。そしてその巨大カニが食べている者が何であるのかをも。それは、ビルに閉じ込めらて死んだ人たちの腐乱死体の腕や脚なのだ。カニがかき混ぜているそのビルの十数階か二十階あたりであろう所から、カニはその窓を破り、死骸を貪っているのであった。それがせめてもの慰めだった。若しも自分がいま、生きている人間が貪り食われている所を見たとしたら、こう考えながら荻野は、飛行機の窓から目を背けた。
 嘗てのメガロポリスは地獄絵図と化しているのだ。747は上空低く、高僧ビルの屋上から数百メートルも無い所まで降下しながら、この地獄の様子をカメラに収めているのだ。

 シヴァ神は「般若」の始末について思案した。
 人間が冀ったあの世。天国や地獄と言う観念の世界、全人類が意識的にも無意識的にも理想とした、自他の区別無き一元の世界観。その観念が実体化して意志を持ち、その目的のためにだけ動き始めた事がこの大災厄の原因なのである。「悪意」はそれに乗じて動き出したに過ぎない。その悪意が肉塊に化したものはシヴァ神始め、神山らと、そしてプラサンナの活躍で消滅した。「般若」を放置すれば、時空間の歪みや捻じれは尚ひどくなる。おそらくハルゼイや山本らが、元の時空からこちらへと吸い寄せられたのも、時空の歪みが起こした事だ。我々が知る歴史、戦史と違う世界のハルゼイや山本らは、然し、我々の史実と寸分違わぬ人々を艦隊首脳に据えて、この時空に現れた。異なるのはその人物たちの、組み合わせだけである。少し何かがズレただけで、どう変わってしまうか知れない時空の出来事を、山本やハルゼイから早く直に聴取したいものだな、と内藤は窓に額を擦り付けんばかりに近付けて、外の様子に眺め入っている。めらめらと燃えるメガロポリス。そこに跳梁する巨大なエビやカニが死んだ人たちの死骸をほじくり、喰らう様子にも内藤は既に驚かない。寧ろそれを目に焼き付ようと、その光景に見入っていた。


「今朝の航空機はどこから飛んで来たんだろう。あれきりまた、電波が全く傍受されないんだよ。幾らなんでもラジオの短波放送ぐらい、受信されて当然なんだが・・・」
「アメリカのこのあたりは壊滅している。だから世界もこうなのかも知れないよ。ドイツが勝利したのなら」
「ドイツからの電波も聞こえてこないよ。どうも、理解に苦しむ事ばかりだ。戦争で世界が滅んでしまったわけでもあるまいし」
 
 南雲機動部隊からはまた、新たな偵察隊が飛んで行く所だ。日米艦隊の首脳は、東海岸の、この大都市部にいる巨大生物を、焼き殺さなければ話にならないと考えたのだ。
 攻撃は今日も一日続けられる。



 シヴァは便宜上、一元化を目指す「般若」の「意志」を、旅に出てしてしまえば良いと思った。
 この時空から過去の時空へと、旅をさせて「意志」にも成長をして貰うのだ。「般若」はそれだけの意志だけでは無く、他の文化から学んで時空を一元化させるだけが人類の願いなのでは無いのだと、いう事をも学ばせたい。そうしたら般若は化け物の様相では無く、神の格になるだろう。
 シヴァは他の神々をより高い世界へ引き上げる事も役目だった。シヴァ神が、より高い次元に引き上げた、手力男もその一人である。シヴァ神は「般若」をも、神格の一種として考える事にした。これを異なる時空へと送り、そこから自分で学ばせる策を考えたのだ。シヴァ神の力で「般若」に神格を与えれば、自分で考え自分で学ぶ。神とて同じである。
 神山はシヴァ神の意向を皆に説明した。

「神山よ。紀元前五世紀のインドへ行くぞ。」
「はい。」神山は既に、事を悟り皆に概略説明をし終えたところであった。。
 他の皆はまだシヴァと神山とのやり取りの意味がいまひとつ分からない。シヴァは説明より早く時空を、紀元前のインドへと移して空から俯瞰した。また、シヴァ神はガンジス川の畔を丁寧に探している。神山も同じ様にガンジス川周辺の人の集まりに注意を向けていた。
 皆は神山やシヴァ神が、天空から何を探しているのか理解できなかった。ただ大きな川がうねり、草原やサバンナの広がる眼下の眺めに、どうやら、そこが古代のインドなのだろうという位は見当が付いたが。

「凄い眺めですねえ。紀元前五世紀あたりですよ、インドの古代としてはそう古い時代ではありませんが、我々が下へ降りて行くには危険です。天空から見て或る程度大きな人の集まりが建物のない広原か洞窟前に有れば探してください。長い旅になるかも知れないが、我々はこのシヴァ神の光に護られているから大丈夫。とにかく野原とか、洞窟に人の数段がいたら探すのです。お願いします」
「何を探すのですか、その野原とか洞窟って、なんですか?神山先生?」
「釈迦の弟子たちが存在するのですよ、この時代に」
 神山はこう言った。
「ここいらに、その出来かけのグループが存在した筈なのです。今探さなければ他へ移動してしまいます。出来たばかりの、釈迦のグループに邂逅して、あの「般若」の化け物に、教えを説いてもらう。そうして神格を高めてくれたら「般若」はもう、災厄を起こさないでしょうから」
 神山が、シヴァ神のその意図も含めて、皆に説明した。
「般若」に神格を与えるにも、時と場とを選ばなければ、荒れ神になって、更なる災厄を起こしかねない。慎重にこの時空へ移動させて、釈迦の傍に据えてやらなければならないのだ。「般若」はそれで漸く大人しくなるかもしれない。
 だが、釈迦のグループを探し出すのは容易ではないだろう。似たり寄ったりの思想家が、似たような姿で洞窟を住処にしているこの時代、釈迦のグループを訪ねて行くのには、何か工夫が必要だろうと、神山は考えている。そこで、差別思想を応用してみようかな、と神山は考えた。彼は、一計を案じたのだった。

 (続く)

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Last updated  2024/03/15 04:35:31 PM
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