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THE Zuisouroku

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2024/03/15
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カテゴリ:小説











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 釈迦のグループを探す方策の一つとして神山は、この時代に多く存在する苦行者らに、敢えて差別的事柄を含んだ質問をしてみれば、その答え方ひとつで、その人物が釈迦を支持する者かどうか、分かると考えたのだった。
 シヴァ神にさえ、生前の釈迦を探すと言うのは容易では無かった。まだ、その思想を世に訴えて間もない釈迦は、シヴァ神にも特徴を見分けにくいのだ。

「さすがは神山だな。儂にも思い浮かばぬわい。嫌な事だが、わざと釈迦の支持者を見分けるためと言うのならばその方策が良かろう。苦行者どもは、皆どれも表向きはよく似た事を言うからのう」
「はい。シヴァ神様の御許しを頂けましたら、この方法で試してみる事に致します。差別的な言辞を用いるので、注意が必要ですが、皆はよく分かってくれましょうから」神山は、その中味を既に、青年助手や麻衣、医師の雲井や楠に説明して納得を得ていた。
 特徴的な点を一つ上げるとしたら、この時期の釈迦の支持者ならば、差別的な言動をよく諭し、それを止めるように勧める筈だからである。この時代にそのような思想を、特徴的に標榜する思想家は他にいない。
 神山はこの特徴を利用して、釈迦の支持者やその本人を見つけ出す策に出たのだった。
 
 皆が、シヴァ神の、光のシールドから抜け出る時には、そのシヴァの光で身を蔽ったままでなければならない。所は、紀元前の古代インドだ。都市の清潔な建物内ならばまだしも、ガンジス川の畔に広がっている草原や原野、そしてそこに点在する洞窟を捜し歩くのだ。何の防護も無しに身を晒すのは危険極まりない。一行はその古代の原野を俯瞰しながら、それらしきグループの存在を探すのだった。
「一か所に留まっておれば良いのだが、雨期にしか定住せぬ連中であろう?苦行者どもは、あちらこちらと、うろつくので難儀なことよ。『般若』を一層のこと、先にこの時空へ連れて来て、人格を与えて呉れ様か、あちらの時空がまた捻じれてしまう」シヴァ神が言った。
 シヴァ神は実体化した「悪意」が消滅した事で、あとは「般若」さえ大人しくさせて置けば時空の心配事は無くなると思った。いまの「般若」には人格が無い。だからいう事を聞かない、こわれた機械とおなじなのだ。せめて人格を与えれば、それがどのような荒くれ者だったとしても、少なくとも話ができる。説き伏せて大人しくさせる事も、諭して教養を養わせたり、分別させる事も出来るのだ。壊れた機械よりはましにはなるだろう。
 シヴァ神は時空を通じて「般若」と手力男と、双方を古代インドに出現させた。手力男は、今の今まで「般若」を抑え込んでいただけあって、かなり疲れている。シヴァ神は手力男を慰労しそこに大盃に入った神酒を出現させた。
「ご苦労じゃったのう。存分に飲むが良いぞ。杯に幾らも神酒は湧く」言うと、すぐにシヴァ神は「般若」に話しかけた。シヴァの問いかけはこうだった。

「お前は何者だ?」
 シヴァ神がこう、問いかけた相手には、それ相応の人格が備えられるのである。
「一元一如を望む者だ。世界は一つになるのだ」
 
 人格を与えられた「般若」は既に身体と人格を持って皆の前に姿を現した。顔は無い。まだ人格が完全でない「般若」にはその目鼻はあるのだが、顔と言えるもの備わっていないのだ。それは「般若」が成長して自分で備えるべきものだ。
 




 シヴァ神はその未成熟な人格の「般若」を見て安堵した。と言うのも、これからどのような人格にもなり得るからである。ましてや元が般若なのだから、良い人格に成熟してくこともできるだろう。
 言わば「般若」は、まだ子供なのだ。皆の目に、目鼻が未だ未成熟で、判然しない「般若」は子供と言うよりも教え子にも見えた。ここにいる皆は、それぞれに、ある意味人を教えたり癒したりするのが仕事の人ばかりなのだ、コロもセラピードッグとして同じ役目を果たしていたでは無いか。
 だから皆は「般若」にその様な態度で真摯に向き合う事にした。「般若」をこれから暫く、親代わりとして育てるのは、シヴァ神始め、神山や、皆という事になるのだから。
 これに手力男も加わって、古代インドの異次元空間もまた、賑やかになる。皆はこれから釈迦の支持者か釈迦本人に会うまで、この世界に留まるのだ。
 手力男も今まで自分が抑え込んでいた者の人格が、子供と知って驚き、育ての親として「般若」を見守る心になっている。
 育て方次第で「般若」は良くも悪くもなるが、今まで頑なに自分が果たさなければならない役目として「一元一如の世界をつくるのだ」と言う意志が頑ななまでになっているのは無理からぬところがあった。これまでの経緯を知っている皆には、それまでの「般若」の頑なさが、素直に解きほぐせれば良いのだがなとの、思いがある。だが押し付けたりはしないつもりだ。
「この者は扱いが難しいが、皆も、長い目で付き合うようにのう。思えばこのもの、哀れな者じゃ故のう」とシヴァ神は、頑なな性格の少年みたいな「般若」を、憐れみを込めて見ていた。皆にもそれはよく理解出来るのであった。
 コロはそんな少年である「般若」に興味津々だ。既に少年「般若」の頬をペロッと舐めている。さすがの「般若」も、コロのその無邪気さに、すぐ、心を開いた様子だ。仲良く遊んでいる。

 「あれなら大丈夫ですね。僕たちにもすぐ心を開いてくれるでしょう」と、精神科医の立場から、雲井も言った。
 
 


  今日からコロが、少年「般若」の最初の友達になった。コロは大喜びで「般若」少年とじゃれて騒いでいる。麻衣もそれを見て明るい笑顔を見せている。
 
 これから皆で、この広大な、古代インドの原野を当てどなく、釈迦とその支持者を探して歩かねばならないのだ。
  シヴァ神はもとより、こんどは神山が皆を率いて行かねばならない。神山は親友の海野の事を思い出していた。人格を得たこの「般若」少年は心理学者の神山にとって、求めても得られない研究対象なのだ。
 この少年を育てていくのは私なのか、と、神山は自分に問うた。
 いずれにしろ神山には、諜報活動の責任者としての役割が与えられていた。神山はその内藤首班が発行した身分証を凝と眺めた。
「海軍中将、神山紀夫諜報局長。」自衛隊員でない神山に、内藤は、海野と共に旧軍隊の「海軍中将」と言う階級を与えたのだ。
 それは、亡命政府首班としての内藤尋の独断ではあったが、今その独断は、いよいよ実効性を帯び始めた。
 (私が皆のトップとならねばならないのだ。しっかりせねば)
 トップよりも参謀役が向く性格の神山だったが、彼は、この少年「般若」を前にして考えていた。

 (続く)

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Last updated  2024/03/15 09:43:35 PM
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