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THE Zuisouroku

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2024/03/21
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カテゴリ:小説














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 数日の間、古代インドの荒野を旅した一行だが、一人の人間にも邂逅せず、釈迦の足跡は頓と知れなかった。どんな人でも集団でも良い、釈迦の行方を知る、一人の人物に会えれば他に、何も望みは無いのだが。

 人類が願った理想の来世というイメージが、この少年を生んだ。この少年は、因果律や自他の別を無くしてしまう力を持っている。「悪意」無きその思念は然し再び、どんな事象を現出させるか知れない。収まったかに見える一連の「般若事象」はこの少年次第で、いつまた始まるか知れないのだ。
 神山は、業というものの普遍性を考えた。人類の来世に対する理想像は同じだろう。より良い来世を冀う心は誰もが持つものだと言える。人類共通の集合無意識とでも言うべきものが、この「良い来世への願望」ともいえる。そのために人は、永く駆け引き、取引をして来た。
 

 祈りと言う、その純粋な心的作用を、人類はいつしか、穢れた駆け引き取引に変えた。人類は祈りながら神と取引を繰り返したのだ。その、人よりも良い来世を望む心が、同時に地獄を生み出した。
 この少年の人格には、その地獄も含まれる。「般若」は既に、それを前提にした概念だったのだから。 時おり見せるこの少年の嫌悪が、その地獄の力になり得るのかも知れなかった。
 少年の嫌悪の中味を観察し、具体的に把握したいものだ。油断すればまた、この少年の、嫌悪するところが地獄を招く。
 観念上に描かれる「般若」の概念が人になったこの少年の心理作用には、その理想と地獄とが同時にあるのだ。それをどう、統合させるのか?「彼」に、大人になって貰わなければ・・・。
 釈迦のグループに邂逅して、この言わば生みの親である釈迦に諭されねば、この少年に救いは無い。
 これが、自身の手に余る事では無いかと懸念する神山はそれを唯一、頼みとした。
 コロが少年といつも一緒にいるようになった。今、最も頼れるのはコロだった。

「コロには人間みたいな穢れた心がありませんから、安心です!コロは、一番神性が強いって、シヴァ神様も、おっしゃったし」青年が言った。

「爆弾だね、『彼』は。確かに、コロだけが頼りだが、純粋に因果律や自他の別を消して、空間だけに一元化してしまうのか、それとも、何もかもを消し去ってしまう事になるのかは分からないが、『彼』は爆弾だ。」
 もっと恐ろしい、新たな爆弾を抱え込んだ・・。さすがの神山も、誰とも邂逅する事が出来ないこの段階では、その胸中にある手立てを講じる、場も時も無いのだ。
 
 ただ一人、コロだけが『彼』を心の底から信じていた。

 宮崎女子医大病院の地下四階にいる西さんの次男、明太は地下四階へと続いている鉄の扉を強く叩いた。応答が無ければ自身でその扉を開くまでだ。だが、その前に明太は呼吸を置きたかったのだ。その扉をいきなり開けてしまうほど、明太も強くは無かった。
 
 頻りと叩く音に、中にいる人達は巨大生物の立てる音とは違う何かを感じ、扉を開いてみる勇気を得た。
 皆を代表して病院長が、この数か月間閉じられたままだった防火扉のロックを解除した。その立てる音に、外で待っていた明太の心には明かりが灯った。生きている!誰かが、生きている!!

                      ☆

 南雲忠一の第三艦隊は、漸く日の出を待って攻撃隊を発艦させた。旗艦『赤城』の上空にも、これから編隊を組み、ニューヨークへ飛んで行く航空機が轟音を立てていた。
 それまで気を揉んでいた参謀長の草鹿も、攻撃隊の発艦にほっとひと安心していた。

「ハルゼイ艦隊も第二撃目を上げようとしているだろうから、競争心よりも慎重に事を運んでくれよ」南雲が草鹿に念を入れた。焦ってしくじっては、作戦が失敗しかねないのだ。
「はい、長官。しっかり心得ます」
「ところで、アメリカのあの謎の航空機なあ、あれが知らせてくれたか知れないが、アメリカ軍から我々にも、補給作戦を実施してくれることになったと、報せて来たよ。弾薬なども送ってくれるそうだ、一安心だな」
「そうでしたか!あの謎の大型機は、本物のアメリカ軍機だったんですね!何よりでしたなあ!」
草鹿が、一際大きな声で言った。
「三式弾もあれば猶、良いんだが・・」
「三式弾か・・。米軍にも焼夷弾はありますから、海軍にも、似たものがあるでしょう」
「だと良いが」


 『大和』の艦橋には山本五十六がいる。朝焼けの海原にくっきりとその影さえ映す大都市の廃墟へと、『大和』以下、第一艦隊の戦艦と巡洋艦の主砲塔は狙いを付けて待機している。
 航空作戦の第一撃が終わったら即座に三式弾により、止めの炎を広げるのだ。
 その上空を、今度は日本の航空隊が通過して行く。南雲機動部隊から発艦した攻撃機の編隊である。空母六隻から四百機以上の航空機が、アメリカ東海岸のメガロポリスを攻撃する様子が、間もなく第一艦隊の山本からも見えるだろう。この第一撃には、ハルゼイの艦載機三百機も加わり、合計七百の航空機が参加する大作戦なのである。山本もその光景には心を動かされるだろう。第三撃目まで続けられるこの作戦の、それぞれの仕上げが艦隊による砲撃作戦なのだ。第一撃目の仕上げはこれらの航空機が全て帰還して行ってからだ。もう暫くは心を静かにと、山本はコーヒーカップを両手で抱え、凝と海原を眺めていた。

 (続く)
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Last updated  2024/03/21 05:38:34 PM
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