076377 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

THE Zuisouroku

THE Zuisouroku

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
2024/03/27
XML
カテゴリ:小説












にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村
にほんブログ村 小説ブログ ミステリー・推理小説へ
にほんブログ村
にほんブログ村 政治ブログ 人権へ
にほんブログ村

 海野は翌日から医師の雪斎やこの松野原村を管轄している公儀の目付、伊藤平左衛門らと、異次元の街の人たちがこちらの世界を好奇の目で見ては通り過ぎる様子や、日常的にすれ違うときの会釈のようなものや、道端で偶然知り合いに会った時、或いは分かれて別の道で帰る時などの彼らの挨拶の仕草の違いを克明に描写しようとた。海野がこの絵を描いたのも、これを貴重な記録として、後世に伝え残したいためである。。
 彼らは海野の眼からみれば、その多くが、魚類から進化した人類である。他に、タコの進化系もいて、タコの方が知的で社会の指導的な役目を担っているように見受けられた。
 実際にタコの知能は高い事が注目されている。それにタコの眼は、魚類のそれと較べても、より色彩感覚に優れているなど、視力の点においても進化したものだと注目されている。
 海野は、それら魚類や軟体動物の進化系が、洗練された欧州の街角を作り、高度な学問、政治、経済、思想、司法を持つ者である事を知った。
 タコが人間の知能を超えて高いのなら、これが進化した時、果たしてどんなことになるのだろう?
 現にこうして独自に発展進化し、タコが魚類と共に近代都市を作っている。海野の眼には別の時空間での進化



発展の結果だとは言え、これは驚きであり、研究のためには宝の山とも言えた。魚類の顔をした人間と進化発展したタコの共生する都市が、海洋生物学者の眼の前にあるのだから。
 何はともあれ、海野と雪斎、伊藤平左衛門の三人は、予定通りにこの洗練された街の住人たちが交わす挨拶の仕草に的を絞って観察を始めた。

「見かけは魚でもやはり、人間ですなあア!挨拶しおるわ!」平左衛門が楽しそうに見ているのは、魚同士の軽い会釈であった。それは一見して人と同じ仕草で、軽く頭を下げ合うのだが、魚類の会釈は頷き合っている様にも見えるのだ。平左衛門はそれを見て面白がっているのだ。
 時にこちらを見て目と目が合えば、彼らは海野たちにも気軽に会釈をしてくれた。既に彼らには、隣接したこちらの世界に対して慣れてしまったのだろう、こちらの世界に対して、違和感無く振る舞うのであった。
 タコは魚類に較べて背も低く、身体も小さいが、背の高い魚類に手を挙げている様子も見えた。タコの進化系は帽子を被るものが多い。性の高いシルクハットの様な帽子を被り、手を挙げるのが彼らの会釈らしかった。目の良い進化系は、こちらにもそうして手を挙げている。海野たちも同じ様に、向こうの住人に会釈や手ぶりで挨拶を送った。
 簡単な会釈ぐらいは、街でも彼らの振る舞いを観察するうちに、海野たちにも自然と身に付いた。仕草は同じ事をして見せれば良いだけだと、海野たちは笑うのだった。

「仕草は簡単でも、もっと丁寧な挨拶もあるでしょうからね。よく観察しないと・・・」海野は油断をしない。いざ、接触段階に至ってから、無礼を理由にどのような扱いを受けるか知れない。何せ、相手は全く別の生物の進化系で、文化も全く異なるのだから。
 接触段階?と、ここで海野は自問自答した。
 ここから先には、互いに踏み入らず、観察するだけの関係にした方が、良いのではないか?向こうはこちらに軽く会釈する程度で、それ以上は、こちらに何かを働きかけようとも、考えてはいない様子である。無論こちらへ接近する様子もない。隣接した別の世界に、さほどの興味が無いのかもしれない。とすれば、こちらもわざわざ、その人たちの都市へ、足を踏み込む事は無いのでは無かろうか?少なくとも、境界線を越えないで、出来たらそのための、話し合いをしなければなるまいと、海野は思うのであった。
 雪斎も、平左も海野に従い、出来ればで良いが、いずれ話し合う機会を持つことになるかも知れないと、それを胸に収めた。それまでは相互に侵入しない事だ。
 当初は二三日といった観察だが、これは、出来るだけ毎日続けようと言う事に決った。だれかがここで観察を続けてさえいたら、あちらもそれだけこちらに馴染むだろう。危険は無いのだと知ってもらい、むしろ、あちらの人間がこちらに好奇の目につられて入って来てくれる事を海野も皆も望んでいる。
 金魚は人の世界に興味を持っている。中には自ら飛び出て、この我々の世界に来たがっているかのような行動をとる者もいるのだ。餌をくれる、もらうだけの関係では無く、金魚の中には、完全に人を信頼し、人に好意を抱いている者が見受けられる。自ら飛び出たがる者の心には、我々人間と、直に触れあいたい、水の中から飛び出して、人間と共に暮らしたいと願う心があるのかも知れない。
 魚類から発展した人間と、猿から発展した人間の街と村はこうして隣接した。それはその接触は、互いの会釈から始まった。

「般若」が捻じり上げている時空の歪みによって、この時空間は、滅ぶのではなく逆に異次元空間の文明同士が、ごく軽い接触をする事となった。「般若」によって滅ぼされるべき、物質的な存在同士が、新たな接触をしたのはこの時空だけではない。皮肉にも、「般若」の意図を超えて、異次元空間が捻じれて互いに混ざり合う過程で、時空間同士の接触は当たり前に起こっていたのである。それはもはや、時空間に空いた「穴」では無かった。時空同士が隣接し、また同一化したのだ。
 


 明太の活躍で、宮崎女子医大病院の、地下四階に退避していた患者と職員らは、海上自衛隊の輸送艦部隊に収容された。
 また、明太の父親である西さんは、特別に明太の乗る、日本では戦後初の正規空母『信濃』に招かれた。西さんは次男の明太が乗務している、この空母『信濃』の艦内を見学し、特別待遇のデッキに案内された。これまでの経緯からも、西さんは避難者の待遇では無く、特別待遇に値したのだ。
 また、明太も多くの人たちを救助した功績が高く評価され、階級が一つ上がり一等海尉となった。
 同時に勲章授与の対象者になった。明太は、やがてその勲功を称えられる事となるだろう。


                         
 日米艦隊は夜を徹して捜索に当たったが、消息を絶った二つの飛行大隊の痕跡は掴めない。東から既に朝日が差してきた。

「航空隊にはまた、今日も捜索に当たってもらうより他はない。艦爆隊と偵察機を上げて捜索を再開だ。頼んだよ」南雲が直に、航空参謀に命じた。
「陸では大地震があったと言っていましたが、津波も来る様子は無し。捜索にかかって大丈夫です、長官」と草鹿参謀長も、艦橋で立ち上がって大きく伸びをしてから、コーヒーカップを手にした。コーヒーで頭をすっきりさせたかったのは草鹿だけではない。
 南雲は大きなサーバーを幾つも用意させ、それにコーヒーを淹れさせて、艦橋の四隅に据え置かせていた。また、夜食にと、サンドイッチが大皿に盛られ、サラダの大きなボウルも置かれた。コーヒーやサンドイッチは随時補填され、欠かさずにその大皿とサーバーに用意された。
 艦橋の皆は、小腹が空けばすぐにその軽食を手に、作業に当たる事も出来たので、艦橋にいる要員にはさほどの疲労の色は浮かんでいない。
 一方、第一艦隊の山本五十六もまた、夜食にカレーライスを食べ放題にした。作戦行動中だから酒は慎まなければならない。その代わりに人気の高いカレーライスを食べ放題にして各部署へ配膳できるよう工夫させた。カレ-ライスは一晩中、大きな戦艦の随所で煮られ、誰もがすぐに、温かいカレーライスを食べる事が出来たのだった。山本はそれに、サイダーを飲み放題として、そのサイダーの代金は、山本の自腹でし払った。山本には、こういう気配りがあったので、皆は山本長官のためならばと、いざとなれば、いつも頑張る気力がわくのであった。
 参謀の一人が山本に、ゆでたまごをサービスさせてくれと言ったので、夜を徹して働く乗員たちは、エッグカレーの御馳走にまでありついた。山本艦隊にはこういう思いもかけない事が、時折り起きていたのである。搭乗員も握り飯に缶詰め、それにゆで卵を持参しての捜索活動となった。やはりゆで卵がある分、視界が明るくなるので、その効果は早速に出たといえた。ゆで卵一つでこんなにも、視界が良くなるのかと言うぐらい良く見えるものなのである。搭乗員他たちも張り切った。
 その搭乗員の眼には、飛んでもないものが見えていた。西方向のみならず円形に、東へ向けての探索も始めていた航空機の一部が、おかしな無電を入れて来た。

「ワレ、東海上二、船団ヲ見ユ。ソノ姿、黒船ノ如シ。大イナル人員、兵士ヲ載セテイルモノトミユ」

 山本はこの無電い戸惑いを見せた。
「なんだってえ?今更、黒船がどうしてこの海上に?」
「何かの見間違いではありませんか長官。おい。航空機に打電しろ。再度よく見直せと」と小沢が、各種参謀たちに命じた。
 念のため山本も小沢も、東海上に双眼鏡を向けるが、『大和』の艦橋からでもまだ、何も見えなかった。さてその「黒船の様な船団」だが、と、小沢は頭を巡らせる。いまからでは、銃撃で迎え撃つことになるかも知れない。東にいるのは分かっている。少し引きつけて、右舷戦闘で迎え撃とう。小沢はその旨山本に断ると右舷の機銃座群と、副砲塔に対し戦闘配置を命じた。他の艦艇へも報せが行く。各艦は警戒態勢に入っていた。

 今、時空はその境界を曖昧にして、他の隣り合う時空間が、あたかも並んでいるかのように感じられていた。山本も、小沢も誰もこの事実をまだ知らない。これをよく説明できる者がいるとすれば、これまた全く何処か分からない空間へと、その身を飛ばされている、心理学者の神山だが、誰にも探し出す事は出来ないだろう。他には、ほんの片鱗だけでもこの事象に触れているのは荻野であった。内藤は間接的にこれを聞き知ってはいたが、海洋調査委員会で実質指導的立場にあった荻野は、この「般若事象」の出始めからの事は報告を受け、また自分でもこの一部分を研究していた。 アメリカ政府にこれを告げ、般若と呼ばれる事象の仕組みを概ね説明しなければ、今はその事象がまた形を変えて作用を及ぼしている事に、荻野も気が付いていた。内藤も荻野も、自分たちの知る限りの事はアメリカ政府にも伝えて、情報を共有せねばとは、思ったのだが、それをどこまで理解してもらえるか?という懸念はあった。心理学者の神山の存在は、いま、とても大きいものになっているのだ。

 
「先輩方の大艦隊が動いている様子です」と、この地下施設の通信室から執務室に電話で知らせて来た。
 艦隊が動く時の電波は全て傍受していた。旧式の艦隊が大西洋の東海上に、何かを発見して作戦行動に出るらしいのだ。「黒船がいるとかなんとか、言ってました・・・。」
 通信室は継続して日米大艦隊の無電を傍受している。

「まさかその黒船とやらを、沈めてしまおうと思っているのかな?止める様にと、打電させろ。訳の分からない戦争はもう、沢山だよ!」ハロッズが怒鳴った。慌てて安全保障担当補佐官のハルが通信室に電話をした。

「謎のアメリカ軍基地から入電です。攻撃を中止しろと強く要請しております。如何致しましょうか?」と通信参謀自ら駆け込んで来て、山本と、小沢に伝えた。
「米軍が攻撃を止めろと言うなら、こちらからは攻撃の意志のない事を伝えてくれ。警戒態勢を取っているのだと」と、山本が念を押した。
「はい!」復唱すると通信参謀は、また慌ただしくラッタルを降りていった。

「このまますすんでいけば、その黒船に邂逅できますよ、長官。黒船に我々の『大和』が大粟絵をする必要はありません。銃撃戦になったらその時には正当防衛で、応戦をしましょう。」小沢の進言に山本は頷いた。
「そうだ、我々からそんな小さなものに攻撃を加えるわけにはいかんね、まるでそれでは虐殺だ」山本もこう言うと、表情を緩めた。だが油断は絶対にしてはならない、相手がどのような連中なのか分からないのだ。

 陸上では般若の作用で再び甲殻類や陸上にも生息する水棲生物までが巨大化していた。だが彼らの餌は人間ではない。人間をほぼ喰らい尽くした彼ら巨大水棲生物は、互いを貪り合うのだった。偵察機も地上のこの様子を報告して来た。
 艦隊で巨大水棲生物を焼き尽くす作戦だったが、それが遅れたために、また生物が巨大化したのではと、艦隊の皆の心に思いが過ぎるが、それは全く違った。巨大生物の復活も「般若」の及ぼす作用のひとつなのだ。ただひたすらに、人類の業を消滅させるために。ニルヴァーナに導くためにだ・・・。
 悪意の為せる異変ではないので、世界は明るいままである。悪意の雲が立ち込めてそれが人間の世界を包んでしまうと言う様な事は無かった。だが「般若」の作用は世界に対して一律に現れた。それが時空の言わば、並列である。隣り合う時空がそのままきれいに横に並んだのだ。「黒船」と称したその船団もまた、この時空に隣り合う別の時空から、こちらへと入ってしまったのだった。この船団もまた、元いた時空では戦争をしていた。
 この船団は、敵国の浜へこの船団で乗り付けて、一挙に上陸、占領してしまおうと言ういわば、強襲作戦に入ろうとしていた者たちなのであった。
 だが、彼らはそこに見た事の無い、山のような艦隊が現れたのを見て、その、余りの大きさに凍り付いた。浮かべる山だ・・!!あんなものから撃たれたらひとたまりもない!!



 山本らは艦隊に停止を命じ、カッターボートを降ろすよう指示した。臨検する訳では無いが、彼ら「黒船」の正体や作戦行動の意図を聞いておかなければ、こちらにも危険が及んでは困る訳である。彼らが何者か分からないが、艦内へ招いたうえで話を聞いたら、場合によっては柔軟な対応も当然あり得た。
 見たところ彼らの装備やフネは「黒船」の何世代も遅れたもので、装備も大航海時代のものであった。
 ただ彼らもまた、異次元空間からこちら側へ、自然と入り込んできたものなので、自分たちが戦うべき敵国が、どこにも無いのが不可思議であった。おまけに西の陸には大都市の廃墟や巨大な生物。そしてこの、山よりも大きな軍艦の群れ。それは然し、山本もハルゼイも不可思議なのだった。この世界が明らかにおかしいのである。そこにアメリカ軍と称する者からだけは、通信が入り、それは自分たちの動きを把握している様である。ハルゼイは彼らを米軍に間違いないと考えているし、山本や南雲も疑うよりも、信じても良いのかもしれないと言う法へ、考えが傾いていた。補給は一時延期をきちんと連絡してくれているし、今度のこの「黒船」に対してもこうである。
 ドイツ軍の謀略ならこの様にリアルタイムでこちらに事態の説明をしてくれた上、的確な指示まで出してくることなど、到底できないだろいう少なくとも米軍を称する者は、味方らしいのだ。



 
「黒船」の連中は、『大和』の上から眺めるその景色に驚愕した。自分達の乗っている船が、小さなボートぐらいに見えていた。彼らはこの時空で言えば中世のポルトガル海軍なのだった。木造の、中世としては大きいその船で、スペインの港を襲おうとしていたら、この時空へ移行してきたものだった。
 山本や小沢は彼らに自分たちがこれまでの経験上知り得たことを伝え、この世界はもう、元の世界では無いのだと、伝えた。「黒船」の人たちは、すっかり戦意を失い、敵がいなくなってしまった事を受け止めきれずにいた。
 山本はとりあえずこの、中世ポルトガル艦隊の全員を『大和』に収容し、その船はクレーンで艦の上へ引き揚げた。彼らにたいして山本は「お客」として敬意を込めた待遇で応えた。
 彼らは山本らの日本艦隊で、初めての異次元空間からの「お客」であった。中世ポルトガル海軍の人々は、取りあえず『大和』の大広間へ案内され、そこで、丁寧に、自分たちの立場や、彼らに対しても全く敵意の無い事を伝えるのであった。既に彼らの敵は存在しない。だから、船事この『大和」に収容したから、暫くは心を落ち着けるが良いだろうと、山本は思った。


                        ☆

 グレイ国防長官はハロッズ大統領に、遅れに遅れていた日米両艦隊に対する、ドラム缶での補給作戦を決行できる段階が来たことを報告した。
 輸送機を使い、ドラム缶に詰めた物資を、迅速に陸上沿岸部へと投下させるのである。当初は海上投下が検討されたが、物資の中には水に浮かびにくい、弾薬や砲弾などの、固形物や飲料のボトルなどが含まれる。それだ陸上の酷い沿岸部へ投下する事となった。オスプレイや輸送ヘリでの大規模な輸送とは違い、今回の作戦は迅速に、がモットーだ。低空へと降下して主に衝撃を受けにくいビーチへと投下する予定だ。

 ハロッズはぐれ宇国防長官の行動の速い事には驚いている。一旦中止になった作戦だ、いつ再開されるか目途は立たないのだ。そのなか、グレイは大統領を信じてこの補給作戦に準備を続けていたのだった。

「なあ、バーク?君は僕の心の中を僕よりも分かっているね。次に私は何をしたら良い?」
「はい、大統領閣下。ドラム缶作戦の開始をご命令下されば・・」
「こんなにもはやい作戦の立て直し、君だけだよ、こんな芸当ができるのは!」
「ありがとうございます、大統領閣下」
 
 バークリー・グレイはニックネームが、バークと呼ばれている。タフネスと行動の素早さ、先読みをさせれば右に出るものの無いこのグレイこそ、国防長官に相応しい、ハロッズは改めて思うのだった。

 輸送機は少しサーb巣をして予定よりも物資の量が多いのだ。今、世界の軍隊が歩とのど身動きが取れない時に、何かわけは知らないが、旧式の海軍が大部隊で東海岸に現れてくれた。もし万が一また、中国やロシアなどの侵略者が動けば彼ら戦艦部隊を我々アメリカ並びに、日本亡命政府が支援して国際平和に一役買ってもらいたい、ハロッズはこういう政治的なメッセージを艦隊首脳に込めていた。
 今や、軍隊らしい軍隊は、今、アメリカ大西洋東部にいる日米の大艦隊だけなのである。アメリカ合衆国としても、また日本政府も、この艦隊を強を支持している。世界秩序を乱す国家は監視されなければなるまい。かくも相当数使われて、時空の歪みがひどくなったところに今度は「般若」が自分で時空間を捻じり上げているのだ・・・。幸いにまだ、異次元が隣接して姿を現すと言う至って興味深い事象が起きて、異次元に対する認識は変わりつつあるだろう。隣接する時空が自然にその入り口を開いているのだ。
 不思議な事にその境界無き境界を越えてどちらかの世界へと移行したい者は一人もいないのは不可解だった。いずれにしても、この技術をもってすれば、我々は異次元を判然と認める事が出来る。
世界にはもう、「異次元なんか嘘だよ」などと言う人間は一人もいない。時空は互いに連関しているのだ。

 神山はこう、説明していた頃があった。
 例えば10円玉が転がり落ちて、何処かへ消えた場合、ユング心理学では10円玉には「落ちよう」という、意志があるのだと言う。そして、意志によって落ちたあとに、その意思はどうなるのだろう?その意思はこんどは「隠れよう」と言う意志に変わるのか?それとも、初めの意志だけがあって、その後には、行きあたりばったりになるのだろうか?
 いずれにせよ、10円玉はころがった・・・。そうして、消えた。
 悪意が消すのだrプか、それとも、その10円玉の意志が、これをかくしてしまうのだろうか??
 確かに床に落ちた時には右側へと転がった。だから右を中心にして探す。だが10円玉は何処を探しても出てこない。もちろん左側をさがしたって無駄だ。10円玉は意志で落下したその後には、一体どこへ隠れたのだろうか?それは死でかくれたのかそれとも、別の力の作用で隠されたのだろうか?どこへ??
 
 10円玉は異次元に消えたのだ。
 実際にこの時空間に空いた穴は、実はそこいらじゅうに、口を開けている。我々は、その「穴」にまるで気が付いていない。だから年がら年中、小銭は何処かの異次元に消えて行く。

 今我々は知ったのだ。
 異次元が実際にすぐそばにある事を。「般若」が、重なり合う時空の上の方を、ぎゅうっと握ってそれを飴細工の様に、一つの塊にしてしまう様に、捻じり飴の様になっているこの状態の間に、時空間は隣接した。お互いにまだ、相互の行き来はしない。やはりこわいのだ。

 人間はどの次元でも、とにかく戦争をしていた。山本の艦隊もハルゼイの艦隊も、彼らの元の時空で、ドイツ戦争をしていたら、こちら側へ滑り込んでしまった。
 「黒船」かと思った木造船の乗員も、ポルトガル海軍がスペインへ殴り込みを掛けに行く部隊であった。中世でもそうやって戦争だけはしていた。戦争は長い間「悪い事では無かった」勲章をもらえる、良い事だった。日本だって国際紛争が起こる。そこでは万が一暴力が起きても正当化される。

「またおかしな人が艦隊にやって来たって?」と南雲が一気に言った。
気の長い南雲も、いろいろな事が繰り返し起こる事には心を乱していた。そこに今度はドラム缶が空から落ちて来るのを拾えと言う。アメリカ軍は本物だったのである。
 
 補給作戦を実施するから、ビーチで物資の入ったドラム缶を拾えと言う。日本ではこういう乱暴な作戦は余りやらないが、欧米ではごく普通に行われる作戦だ。ドラム缶は重宝されるのである。
弾薬や機密機器、砲弾は、パラシュートを付けて落とす。壊れない物はそのまま落とすから、ドラム缶の下敷きにならないように、と打電してきたのである。

 「ほんものだったね!私は半分は疑っていたが、良い方へと転がって何より!」南雲が嬉しそうである。半分信じていなかったよ、などとは言えない完全主義者がそこにいた。
 嫌う理由は探しても、友達になる理由だけは探したくない、信じたくない。そう。南雲はそういう男である。完全主義と言うこの個性は彼を他人から遠ざけていた。決して人が嫌いでは無いからひとあたりもよく、おっとりとした性格なので。案外艦爆乗りに向くなどとも言われた。だがほうひゅつの専門家である南雲は決して第三艦隊、つまり機動部隊の司令官になって喜んでいた訳では無かった。航空機の専門家でない自分が空母を6隻率いるなど、土台に会わない事だと、南雲は考えていたのだ。この意味では同じ機動部隊の司令官であるアメリカの、ハルゼイ提督とは対照的であった。
 
「砂浜に転がったドラム缶を拾って歩くなんてえのは!海軍の仕事じゃあないよ!」と然し南雲は『赤城』の艦橋で怒っていた。
「だいたいアメリカのジョークは好かん!何が、ドラム缶は拾えるか?だ!馬鹿にしてる!」
珍しく南雲中将がここまで怒っている。
「なさけない!補給がこんな事では、もう私は空母機動部隊に責任はもてん!!」
第三艦隊司令部はその司令官、南雲忠一中将の珍しい激怒で緊張していた。そこにまた通信長が米国の「ドラム缶ハ、拾エルカ?」を読んだ。投下の時刻を知らせる電報だった。間もなくその時刻なのである。
 低空をアメリカ空軍のC-130ハーキュリースが轟音を立てて物凄い空気抵抗音やタービンエンジンの放つ音をで、空気をかきみだしながら機体最後部のハッチを解放した。たちまちその中からはパラシュートに支えられながらゆっくりゆっくり地上に向かうドラム缶が下がっている。


 その怒りも何のそのと言う按配で、アメリカ軍の輸送機C-130ハーキュリースは、その分厚く、太い下膨れの巨大な胴体から物資をがらごろと投下し始めた。低空飛行なのでその巨大なハーキュリースの姿は、海上からも良く見えていた。
 双眼鏡でこの様子を見ていた山元も小沢も草鹿も、航空に精通した将官たちは見慣れない、然もあまりに巨大な航空機の姿に、驚いていた。先日現れて通信をしてくれた航空機も大きなものであったが、低空で飛ぶ、巨大な輸送機も山本らの全く知らないものである。

「あれもアメリカ軍の航空機なのかな?でかいなあ!!」
「でかすぎですよ!我が海軍の二式大抵よりもでかい!!」
「凄い轟音ですねえ!!プロペラが付いているがエンジンがかなり大きい!どういう仕組みなんだう!」

 皆で口々に言う間に、ドラム缶作戦は終了し、ハッチを締めたC-130ハーキュリースは、再び大空へと舞い上がり消えた。

 やはりこの世界はおかしい!!
 見た事も無いものばかりでは無いか!!

 そう言えば、アメリカ軍の無電ばかりで、日本からの無電が無いのもおかしい・・・。我々の敵国、ドイツ軍はどうなったんだろう?全く姿が見えないでは無いか。分からない事ばかりだ・・。

 南雲は、何時に無く猜疑心が強くなっている自分をどうにも出来なかった。

 南雲の胸中にあるこの様な猜疑心など、露知らぬ山本五十六と小沢治三郎は、いま、米空軍機が投下してくれたドラム缶の物資を片端から拾い集めるようにと、下令した。
 駆逐艦や軽巡洋艦が中心になって、これらの物資を海面からクレーンで引き上げるのだ。
 戦艦や空母では甲板が高く、戦隊も大きいためにこの様なドラム缶の収集活動は至って苦手なのであった。
 従ってここでは、駆逐艦と軽巡洋艦とが手分けして、大量のドラム缶の収集競争を繰り広げはじめた。
 不時着水した航空機などを水面から引き揚げるのも駆逐艦の仕事だから、ドラム缶などはた易く収集出来るのだった。ハルゼイ機動部隊の分まで引き上げて、それを米艦隊に届けてやろうと言う艦もある程だった。
 この間も、日のある間は何回も何回も、航空機による捜索活動が続いていた。



 第二次世界大戦期の日本には、捜索専門の航空機が存在しなかった。夜間活動が可能な偵察機は『彩雲』があったが、これにも捜索活動には限度があるし、製作された機数も少ないのである。
 山本は南雲の第三艦隊にもう一種類、夜間戦闘機『月光』を乗せてやることを小沢治三郎に相談した。
 山本にも、日本の航空機は性能や応用面で、米軍機に劣るのは分かっていた。然し、捜索救難活動の難しさは、簡単に克服できることでは無い。
 (続く)
にほんブログ村 哲学・思想ブログへ
にほんブログ村
にほんブログ村 哲学・思想ブログ 社会思想へ






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2024/03/29 07:31:30 PM
[小説] カテゴリの最新記事



© Rakuten Group, Inc.