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THE Zuisouroku

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2024/03/25
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カテゴリ:小説













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 艦隊を挙げての捜索活動は深夜にも及んだが、消息不明の米航空機大隊は発見出来ない。
 二つの大隊が海上へ落ちたか、不時着水をすればその痕跡が残るはずである。捜索隊も手掛かりを求めて必死である。
 パラシュートや機体の破片の一つでも良いから何かを発見したかった。
 ハルゼイ提督はいつもの大声も、癇癪も起こさずにただ茫然と、サーチライトで照らし出されている夜の海を見詰めていた。
 作戦を焦って隊を急がせ過ぎた自分の責任だ、と常に似合わずハルゼイは自分を責めた。作戦指示の誤りから、二つの飛行大隊を喪失したとなると処分も厳しいものになるだろう。それよりも失われた搭乗員たちの生命の方が重大だ。このまま大隊が未帰還となればハルゼイは、その汚名を歴史に残してしまう事にもなるのだ。
 そんなハルゼイの心中を察した山本も南雲も、総出で捜索に当たっているのだった。
 こんな中、アメリカ軍基地からの連絡によれば陸上では、大地震が発生したとの事だ。
津波の発生する恐れがあるから、十分に警戒をして欲しいとの報せを受けて艦隊はその両面に注意を向けながら航行していた。

 

 「謎の大型航空機が飛来したかと思えば、破滅した大都市に、今度は大地震。米軍を名乗る相手の基地はどこにあるのだろう?我々がいる世界は変わってしまったんじゃあないのか?」
 余りに大きな異変の数々を懸念した山本が、小沢治三郎に話しかけた。

「誠におっしゃる通りです。なんだか世界がすっかり変わってしまった。アメリカの大都市がこの有様で、然しドイツ軍は現れず、謎の巨大な生き物の群れ・・・。一体どうなってしまったんでしょう?」
 小沢もまた同じことを思ってその真相を知りたがっていた。異次元からやって来たことに気が付かない山本も小沢も、艦隊の誰もまだ、自分がいる所が異なる時空間の世界であるとは夢にも思ってはいないが、元の世界では日米双方の敵国であったドイツ軍の姿が、アメリカ東海岸から消えてしまっている事には深い疑念を抱いていた。
 謀略の得意なドイツ海軍の事だから、誤情報には用心十分な用心が要る。あの謎めいた大型航空機も、実はドイツ軍の謀略に使用されている可能性は、未だぬぐい切れてはいなかった。
 
 だが、補給作戦を展開してくれると言う米軍からの打電で、取りあえず安堵したところに大地震や津波の報せ、そして作戦行動の延期と、次々に転変する状況に、日米両艦隊の首脳部は翻弄されていた。

 幾重にも折り重なって存在している時空に「般若」が及ぼす作用は計り知れなかった。
 「般若」にはそれを、自在に亡ぼせる力がある。捻じって飴細工の様にする事も出来れば、重ねたまま引き延ばしてしまう事も、何でも出来るのが「般若」の恐ろしさである。
 少年の姿をした「彼」は、その穢れなき姿を象徴したものであった。今はその純粋な反面、強烈な怒り、憤怒を覚え、与えられた「般若」本来の役割に徹しようと、時空に働きかけていた。その作用は幾重にも重なった様々の時空に同時に影響し、この世界は正しく混沌となったのである。
異次元空間を漂うシヴァ神と、神山の一行もまた、江戸中期の世界にいる海野猛にもそれは影響した。
 
 海野のいる江戸中期の世界では、見た事の無い人間の姿をした者達の街が現れた。その街にはこの世界の者でない人間たちが近代都市をつくり、こちらの世界を覗き見る様に、物珍し気な顔を並べていた。
海野のいる松野原村と隣り合って、何とも言い様の無い近代都市があるのだから地元の漁師も農民も恐ろしがって近付かず、やはりあちらの側の人たちと同じ様に、見ているだけである。
 この様子に海野には、その経験上、再び時空の捻じれが始まった事が察せられた。時間を超えて江戸中期に飛ばされ、その江戸期の村で再び同じ事象に遭遇するのかと、海野はうんざりした。
 隣り合って現れたその、おかしな町の人たちには然し、以前経験した様な悪意は感じられなかった。警戒しながらこちらの様子を窺い見るだけで、敵意は無い。それはこちらも同じであった。幸いにも松野原村の皆は、おおらかな漁師や農家だ。お互いが好奇の目を向け合うようになって行った。
 
 海野の見た限りでは、相手の街は近代的なにおいがした。戦前の世界の国々にもあった様な、古風な近代街で、低いビルが立ち並んでいた。こちらはのどかな漁村である。相手側からも波打つ砂浜が見えている。お互いに武器らしいものを持たないのも良く作用している。現代が巨大生物や侵略的国家との戦争だったのとは対照的に、こちらの異次元の相手には、攻撃的な者がいないのが救いであった。
 海野は本来の科学者としての眼で相手を観察し始めた。

 人間の姿に似て人間とは言えぬその人たちも、きちんとした上着やズボンを履き、中には帽子を被った紳士らしき人物も見かけられた。向こうの人達がいるその街は、1900年代初頭の面影さえ感じさせる洒落たつくりで、何ら互いを隔てる障壁は無い。ただ、たがいがその境界を勝手に想定してそちらへは行くまいと努力をしているだけだ。こちらも相手を取って喰おうと言う気が無いのと同じで、相手にもまたこちらを怖れる気持ちはあっても、こちらに危害を及ぼそうと言う気はないのだ。
 こういう相手の姿勢に加えて海野は、その人たちの進化過程が気になった。この時空の人と違い、別の進化過程をたどったらしくその顔はかなり、我々と異なっていた。だが、その他の点は人間そっくりである。と言うよりも人間なのである、顔は魚類に似ているが。この点が、海洋生物学者の海野には興味深いのだ。イルカの進化系では無い、明らかに魚類の顔である。この人たちの世界にはイルカは存在しなかったのだろうか?また、海洋生物の中で知能や視力が最も高いのでは無いかと考えられている生物、タコが進化した様な人物も混じっている。海野はこの様子にやはりな、と思った。蛸は異次元でも高等生物となり得たのだ。彼らは海野にとって、とても興味深いものだが海野はそう簡単には、彼らに接近するつもりは無かった。もっとよく観察に観察を重ねて、少なくとも彼らの慣習や、文化の一片でも見出してから漸く接近し得るのだ。研究に研究を重ねても猶、分からないのが海洋であると言うのは、海野の持論である。単簡に接近などをしてまたそれが異変を呼ぶような事態だけは、避けたい。海野は漁師たちにもその点だけはよく説明して、向こうに接近しないよう、注意を与えるとたちまちその指示に従い、不用意な事をする者は一人もいなかった。海野の言葉は既に領民たちには「大学様のお触れ」にも同じ重みがあるのだ。身分に拘らず、誰にも親しまれる海野の言う事を、領民たちはよく聞いて従うのだった。
 目付の伊藤平左衛門も役目柄常時その境界に立って、双方のトラブルを防いでいた。海野が彼らをよく見極めるまでは、静かにしてくれと皆を宥めた。
日暮れも近い頃合いを見て、伊藤と連れ立ち海野はまた仮屋敷へ向かった。海野は伊藤と医師の雪斎に、本日、彼の観察で得られた知見を話したかったのである。二人に伝わる様、海野はありのまま話す心算だ。

「つまり人なのですな?」
「はい、人と全く同じです。ただもとになった生物が我々とは違うと言うだけの事なのです。我々人間は伊藤殿も雪斎殿も私も、実は猿が進化発展したものと考えて下さい。それと同じように、あの向こうの街の人たちは、魚類から進化したものやタコから進化したのだと、こうお考えになって下さい。他は我らとおなじですから、人なのです。我らよりももっと進んだ文化を以ているかも知れないが、そこはもっと観察をしないといけません」
 海野が説明した。
「人には間違いないのですね?我らとおなじ、人なのですね?」と雪斎が念を押すと、横合いから伊藤も同じことを聞いた。二人にも衝撃なのは当然だ。進化とか魚から発展したのだとかいきなり言われても何が何やら雪斎や伊藤には珍ぷんかんぷんで、つまるところ、我々と同じ人であると言う所で落ち着くのがやっとであった。
「ですからあちらの人たちがこちらへ来たとしても、あたりまえに振る舞えば良いのです。同じ人なのですから。平左殿からも領民にはしっかりこの点を話て理解をさせて下さい。また、平左殿にも雪斎殿にも、友好関係を築くのにも力をお借りしたいのです。喧嘩沙汰で恨みを買うような事だけは避けねばなりません」海野がこの点、異文化を知る分よく二人に役割を振った。
「それはもう、たける殿がおっしゃるなら、われらもその様に。なにせ我らでは到底分からぬ事も、たける殿ならよくお分かりになっておられる。我らで出来得ることはいたします」平左衛門も雪斎も、海野の言う事に従った。何も分からぬまでも、海野を出来るだけ助けたかった。
 
 余り長く接触を先に延ばせば、それはそれで危険が増すと思った海野は、観察をあと二日とし、三日したら彼らの挨拶を真似て僅かに接触を試みようと言う事になった。
 海野はあと二日で、向こうの街の人たちの通常交わす挨拶の仕草を観察する事に決めた。

               
                      ☆

「彼」は時空を重ね合わせて捩り、捻じりその端から歪めた。
 まるでそこに様々の時間が流れ、沢山の数え切れぬ存在がある事などは気にも留めてはいなかった。布切れの様に重なり合った時空間は「般若」に握られては捻じられ、また緩められを繰り返した。以前はそこに「悪意」の介入があったり、そこにつけ入る人間の欲望で侵略や戦争が起こったりとで、世界は破滅状態になったが、「般若」の時空に対する作用がこうした災厄の元である事にも、「般若」は気が付いてはいないのだ。理想化された死の世界へと、人類を導くこの意志だけが「彼」を突き動かしている。
 異次元へと飛ばされてしまったシヴァ神と、神山たち一行も異空間を漂い続けていた。また、海野のいる時空では、江戸中期の村の隣に、魚類やタコの進化系が拵えた都市が出現していた。これは全て時空の捻じれによるものだ。「般若」はこれを猶繰り返し、捻じり飴が次第に一本の棒状になって行くように、時空をよじり合わせながら一つにしてしまう心算だ。

  
 地下四階の暗闇が、その内側へと開いた扉の中から漏れて来る明かりのお陰で、薄明るくなった。
 宮崎女子医大病院の患者と職員たちと、そして西さんの避難先である。

「あなたは?」と、制服を着た若者に、病院長が聞いた。
「はい。私は海上自衛隊に勤務しております、西二等海尉です。こちらの皆さんに、父がお世話になってはいないかと、探しに参りました」明太が答えているのが、奥にいた西さんの耳にもはっきりと聞こえた。
 病院長はそれを聞くとすぐに、職員を手伝って患者の世話をしている西さんの所へ行き、手を取って、今開けた入り口に連れて行った。
「無事だったか?」と西さんの方から明太に問いかけると明太はにっこり笑って頷いた。
 海上自衛隊の幹部として明太は、無事に生存している多くの患者と職員らを早速、ここからより安全な艦上へ、非難させなければならない。明太は、患者と職員の人数を尋ねると、病院の表まで、なんとか乗って来た愛車のジムニーに走って行き、積載している無線機を取った。ここからほど近い宮崎港には、青森を出て北海道の機甲師団の一部を搬送中の輸送艦『十和田』『大隅』『下北』の三隻が、空母『信濃』とその支援艦艇で一杯の佐世保に入るのをやめて、補給艦を伴い錨を降ろしていた。この輸送艦部隊には、機甲師団の一部と戦闘ヘリ部隊も乗っている。
 輸送艦『大隅』から定時の偵察行動に出ていた戦闘ヘリ、アパッチロングボウは、その折も折、明太が発する無線の声を拾ってくれたのだった。  
 
 連絡は直ちに輸送艦『大隅』に置いてある輸送艦隊司令部に入り、そこから運搬、救難用ヘリが宮崎総合病院へと飛び立った。

 

 西さんは病院長から一番機で退避をしてくれるよう言われたがそれを断り、最期に息子と一緒に退避したいと告げた。病院長もその最後のヘリに乗る。
 間もなくその、救難ヘリの一番機と、二番機が到着するとの報せが明太の無線機に入った。   
 望みがあると信じて数か月、地下の四階と言いう非日常の空間にいた患者も職員も、巨大なタニシやザリガニの浸食で破壊され尽くした地上の様子に愕然となった。だが、この瓦礫を超えて、救いの手が降りて来た。
 救難ヘリコプターの力強いローター音は、皆にこの上なき安堵感をもたらした。生命の安全という安堵感であった、助かったのだ。久しぶりの表の空気に、希望の香りさえ感じる。
 ジムニーの無線機で、懸命にヘリと連絡を取っている息子の様子を、西さんは静かに病院の正面玄関前から眺めていた。

 (続く)

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Last updated  2024/03/27 01:48:21 AM
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