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THE Zuisouroku

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2024/04/29
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カテゴリ:小説











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 江戸期の空間にいた「モロ」が、すでに海野のいない航空母艦『信濃』へと、時空を飛ばされて来た。「モロ」には今自分のいるこの船が、どのような役割りを果たすものなのかを知らずにいた。「モロ」の世界に戦争の道具は存在しないからだ。
 古代からインドでは、サバンナにいる動物たちや、水中にいる魚、空を飛んでいる鳥は、秩序無き、殺し合いの状態だとされる。これを社会化し、殺し合いの無い状態を作るのが人の、人である所以である。
 社会化には学問が必要であり、その第一は帝王学、次に哲学が役に立つとされた。古代インド社会では、この様に「学問の格付け」がなされていた。釈迦もまだ存在しない太古の昔から、すでこうした格付けがあった事に、驚く人も多いだろう。
 インドの歴史は遡れば切りが無く、高度な文明が栄えた。優れた法制度や徴税制度、そのための法律が事細かに定められ、現代の法律と見まがうほどだ。
 「モロ」のいた時空間では、祈りや宗教思想はすべて洗練され、古代には既に昇華されていたので、宗教という形態では存在しない。「モロ」は宗教と言うものも、祈りと言うパフォーマンスも古代の慣習であると思っていた。彼らの時空では、祈りや宗教は昇華され、全ての根底に溶け込み、形を残さないのだ。
 そういう「モロ」のいた社会で、「学問の中の学問」とされたのは哲学だった。彼らの世界で哲学は、その社会の根底にあって全てを支えていた。科学技術や算術は学問では無く、生活上必要な技術として捉えられていた。従って「モロ」たちの社会では、それらを廻る争いも無く、誰もが畑を耕し魚を釣るように、その技術は、ごく普通の生活様式のひとつなので、競争や戦争の理由にならない。
 野生の状態から脱したものは、もはや狩をしない。狩りを必要としなければ、殺す理由が無くなる。「モロ」の社会では、こうしてシンプルに殺人が消滅した。

 空母『信濃』の航空甲板に立って「モロ」は、この時空の広大な海に眺め入っていた。魚類から進化した「モロ」には海が何よりも落ち着く場所なのだ。『信濃』の甲板要員も、「モロ」が魚類から進化した人類だと知ると甲板に椅子を置いて彼を気遣い、「モロ」は心行くまで、心地よい潮風を楽しんでいた。
        
                       ☆

 人口にして一万人を下回る程度の小さな町や村は、災厄の影響もあまり大きくは無い。愚かしい核攻撃に巻き込まれてしまった村や町は仕方が無かったが、それ以外の小規模な村落や町は、食料の供給も十分なので、他の地域よりも豊かに暮らしていた。住民の食料を自給できる技術と経験が物を言った。また交通、通信が途絶し、地域が相互に孤立化したことも、住民の生存に効果的な結果をもたらした。孤立した事で他の地域から人が来なくなり、供給量を上回って人口が増加するような事が無くなったので、その土地の住民だけが生活できれば良い。他所者が来ないと言う事は、余計な消費をしなくても済むと言う事だ。その土地の者だけでシンプルに暮らして行けば良い。皮肉な事に世界中の都市はその人口変動と交通、通信を維持しようとしたせいで、逆に壊滅した。生存可能な人口を上回って人が滞在するせいで、都市部から順に自滅して行ったのである。
 世界は今自給自足の状態にある。それでも自給が出来るだけ、マシなのだ。ケーキや菓子どころではないが、その日の食料が十分なら幸せな状態なのだ。誰一人、甘いもの等は、口に出来ない状態になっている。
 
 日本で生き残った人たちは、電気とガス、上下水道という基本的なインフラを全て失った。
 今や、日本の住民は文明も文化も無い、殺伐の世界に暮らしている。江戸期よりも殺伐たる世界だ。知性や教養、感性といったものとは縁の無い、貧しい世界だ。それは日本人だけでは無い。人類が、いつしか知性や感性を磨き、育てる貴重な技術と経験とを、どこかに置いて来てしまった結果なのだ。
 知性や感性を磨くのでは無く、目先のつまらぬ試験にさえ合格すれば、後は、きれいに忘れ去ってしまうような、愚劣なものしかない世界。他人から入れ智恵されなければ、自分では何も出来ない人たちの集まりが、国を構成したような状態。 
 一連の、「般若事象」によって、逆説的に「薄らバカの時代」や「他人任せの時代」も滅び去った。
 日本は国家というありかたを、変えざるを得ない状況にあった。が、後に却ってこれが良い結果をもたらす事を、知る者は未だ無い。 
 
 
 ハロッズ大統領は、或る提案をした。
「内藤さん。如何でしょう、亡命政権の首班として?」
「これは、急なお話ですなあ大統領閣下。う~む。私個人としては、そうしたい所ですが、これは今のところは、出来ない相談ですよ」
「あなたが相応しいと思いますよ、内藤さん。あなたが国連を作り直すのです」
「然し、大統領。一連の『般若事象』は未だ収まる所を知らず、世界もどう変化してしまうか分からないのに、国連ですか?少し無理がある様に思いますが・・」
「内藤さんがその気にさえなったら、アメリカ政府も挙げて支援をします。考えてくれませんか?日本はわが国よりも損害が酷く、壊滅状態です。これはしかし、チャンスでもある」

 内藤には即断も即答も出来る筈の無い提案が、ハロッズから内々に出された。
 世界の国々は、然しそこまで進化出来るのだろうかと、二の足を踏みそうな提案なのだ。
アメリカ合衆国政府と内藤とで、新しい秩序を作ろうというのだから。
 
 然し人類の未来さえ見通せないのにと、内藤は思うのだった。

 (続く)

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Last updated  2024/04/30 11:27:33 AM
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