[NO BOOKS, NO LIFE]の記事一覧 | のほほんこいたろう･sp,楽天

『前巷説百物語』/京極夏彦

相変わらず、調子が悪いです。頭が重くて苦しい感じは、頓服薬を飲むことによって解消されるのですが、身体のだるさがどうしても取れなくて、一日中ゴロゴロしてばかりです。何かをしようという気力が湧きませんし、頭も回転してくれません。だからといって何もせず惰眠を貪っていてばかりではいけないと思い、今日はリハビリ代わりに、好きな小説について書こうと思います。『前巷説百物語』（さきのこうせつひゃくものがたり）/京極夏彦　　理由あって上方から江戸へ流れてきた双六売りの又市は、根岸の　　損料屋「ゑんま屋」の手伝いをすることに。この店はれっきとした貸物業、　　しかし裏では、決して埋まらぬ大損を大金と引き替えに仕掛けであがなう…　　という稼業を営んでいた。渡世仲間らと共に、若き又市が江戸に仕掛ける　　妖怪からくりの数々。だがついに、とてつもない強敵が又市らの前に　　立ちふさがる。やるせなさが胸を打つシリーズ第４弾、百物語はじまりの物語。（角川文庫裏表紙より）【『前巷説百物語』名台詞】　　「どんな時だってな、死んで良いなんて話ァねェんだよ。狡かろうが悪かろうが、　　汚かろうが惨めたらしかろうがよ、辛かろうが悲しかろうが、人は生きててこそ　　じゃねェのかい。違うかよ。（後略）」角川文庫…「寝肥」P.61「巷説百物語」シリーズの実質的な第一話である「寝肥」での又市さんの台詞です。仲間からは「青臭い」と言われていましたねぇ。この台詞から解るように、この頃の又市さんは、仕掛けで死人が出ることをとても嫌っていました。しかし、十年後、又市さんは人が死ぬことを織り込み済みで仕掛けの図面を引いてます。人とは、若き又市さんが思っていた以上に、悲しくてやりきれないものだったようです。　　*---*---*---*　　「真っ直ぐ真ん中歩くのは――中中大変だよ」角川文庫…「二口女」P.315寄り道したり遠回りしたり立ち止まったり。逃げたり妬んだり憎んだり。言われてみれば、僕はそんなことばかりしてきたような気がします。いや、もしかしたら人間とは皆そうなのかもしれません。己の進む道を微調整しながら、なんとか真っ直ぐ真ん中を歩こうとするのが「人」であるのかもしれません。真っ直ぐ真ん中を歩き続けるのは、本当に難しいですけどね。　　*---*---*---*　　「世の中は理不尽なものだぞ。決して間尺に合うものではない。真面目に生きた　　分がそのまま得として報われるとは限らぬし、悪行愚行が損を生むとも限らぬわ。　　取り過ぎる者、取られ過ぎた者、世の中の帳尻というのはな、中中合わぬもの　　なのだ。人はな、堪えること忘れることで、漸う帳尻を合わせた気になって居る　　だけだ」角川文庫…「かみなり」P.394御燈（みあかし）の小右衛門さんの台詞です。悲しいですけど、正論ですね。努力が必ずしも報われることはないし、報われぬ努力は賛辞に値しません。努力せずとも成績が良ければ称えられ、努力しても至らなければ称えられることはない、それが世間の道理です。僕は世事に疎いのでよく知らないのですが、今、ワールドカップというサッカーの大会が開催されているようですね。努力だけでも賞賛されるというのなら、日本はそのワールドカップで優勝しているはずです。　　*---*---*---*　　「泣き乍ら帳尻合わせるばかりが人の道じゃねえ。騙して賺して謀って、夢ェ　　みさせてやることだって出来るじゃねェか。神や仏ってな、その夢なんだろが。　　神も仏もねェ世なら、化け物でもなんでも構いやしねェ。所詮この世は嘘ッ八だ。　　嘘と承知で――」　　　収められねェものかよゥと又市は言った。角川文庫…「かみなり」P.395上記の小右衛門さんの台詞に対する又市さんの返事です。所詮この世は嘘ッ八。だから、人生は夢みたいなもの。ならば、悪い夢ばかりを見ることはない。これが、又市さんの考え方。あちらを立てればこちらが立たず、そんな八方塞がりな状況を、化け物の仕業に仕立て上げて、八方丸く収める。これが、又市さんのやり方。まだ駆け出しの又市さんのこの台詞を聞いて、江戸の裏世界の元締である御燈の小右衛門さんが、「目が覚めた気がする」と言い、その考え方、やり方に共感する。このシリーズにおける重要なシーンだと思いました。　　*---*---*---*　　「雷を落とせば現の嘘を夢の真に変えられるか」角川文庫…「かみなり」P.403御燈の小右衛門さんの台詞です。又市さんの「かみなりでも落ちてくれなくっちゃ無理だ」という台詞に対して、余裕で「雷を落とせばいいのか」と言い切るところが凄いです。そして、この決め台詞。現実の嘘を夢の本当にする。又市さんと小右衛門さんが組んでこその大掛かりな狂言芝居。読んでいて痺れました。　　*---*---*---*　　「惚れたとか腫れたとか、浮ついてるンじゃねぇよ林蔵。惚れられて、　　ああそうですかとくっ付いてそれであの女ァ如何なるよ。惚れてりゃ何でも　　いいのかよ。お前は」　　　お前はおちかを倖せに出来ンのか――。角川文庫…「旧鼠」P.592又市さんの台詞です。彼の言う通り、好きなだけではダメですよね。相手のことを考え、自分とパートナーとの将来を考え、責任を果たせる自分になってからこその「結婚」だと思うんです。又市さんは、その辺をきっちり弁えているんですね。この台詞を言った、又市さんという男は本当に「いい男」だなぁと再認識しました。今、僕は家庭の中で自分の責任を果たせていないので、耳に痛い台詞でもありました。では、今日はこの辺で。今日も読んでくださってありがとうございました。「御行奉為（おんぎょうしたてまつる）――」charm 楽天市場店ドリームシアター楽天市場店

のほほんこいたろう･sp,楽天

[NO BOOKS, NO LIFE] カテゴリの記事

『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』/鴨志田穣

『前巷説百物語』/京極夏彦