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ここからは死骸もますます多く転がっていた。少し行くと禿げ山のような所があって岩ばかりである。そこには白骨が雪のふったように、あたりが白くなるほど転がっていて、下ばかり見て歩いている辰平は白骨をよけて歩こうとしても目がちらちらしてしまい、つまずき転びそうになってしまった。辰平は「この白骨の下には生前、知っていた人もあるはずだ」と思った。
おりんは筵の上にすっくと立った。両手を握って胸にあてて、両手の肘を左右に開いて、じっと下を見つめていた。口を結んで不動の形である。帯の代りに縄をしめていた。辰平は身動きもしないでいるおりんの顔を眺めた。おりんの顔は家にいる時とは違った顔つきになっているのに気がついた。その顔には死人の相が現れていたのである。 (略) おりんは辰平の手を堅く握りしめた。それから辰平の背をどーんと押した。 辰平は歩み出したのである。うしろを振り向いてはならない山の誓いに従って歩き出したのである。 (新潮) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2008.04.12 01:55:15
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