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あの気の弱い静江がこんなに変わってしまったのは変である。病気は治ったと聞いていたが、この様子では普通じゃないじゃないか、それとも全快したからこんなに元気になったのであろうか? 気味の悪いほどの変わりようである。あの演説ぶりはいつか杉村さんの奥さん相手に政治を論じたときと一脈通じているかもしれない。私はドアを隙間のように開けてその間から、遠い天体を眺めるように、月の光の中のアペニン山脈を見つめるように見る。あの女には愛も抱いていないけれど憎しみもないのである。生きている静江を前にして死んだ人の写真でも見るような冷たい目で私は眺めているのだ。
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Last updated
2008.04.12 01:54:36
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