カテゴリ:何とも言えない話
黒 です。
子供の頃の話を前回したのでもう一本。 私が母のお腹の中にいたときの話である。 母は、その頃には珍しく仕事しながら私を出産した。 当時はそんなに「出産に対して」の社会基盤が整備されていなかったので、さぞかし大変だっただろうと思うが、特殊な技術職だったのでかろうじて首にはならなかったらしい。 けれど、母のストレスというのは、並大抵なものでは無かったのだろうと想像する。 そんな母は、私がお腹にいるとき、つわりがあまりに酷くて、なにも食べられなくなってしまったんだそうだ。 どんどん痩せてしまう母をみていて、父とじいさまは焦りに焦っていたらしい。 そんな彼女が唯一好んだのが、なんと歯磨き粉! 食べてしまいそうな勢いで、歯磨き粉をなめてる母をみて、これはイカンと二人は思ったそうだ。そして、協定を結び、歯磨き粉の様な味のミントキャンディーを探す事にした。 実は、母は、ミントにのみ、異常な嗜好を示したのだ。 二人は、なにも食べないよりはいいと考え、それこそありとあらゆるミントキャンディーを集めに集め母に与えたのだそうだ。 父は心得たもので、母が好みそうな歯磨き粉っぽいキャンディーをどこかから探し当ててくる。多分、自身も食してから与えていたのだろう。じいさまは、時に大当たりで母がすごく喜ぶものを引き当て、時に大ハズレなものを引き当てていたんだそうだ。彼は、そんなにミントをお好みにならないので、仕方が無かったのだろう。 それは、私が生まれるまで続いたのだそうだ。 ミントキャンディーだけで、子供が胎内で育つのか?と言えば大いなる疑問で、おそらく私は申し訳ないことに母の体を食って生まれてきた。 未熟児の定義に100g至らないだけの小さな鶏ガラみたいな赤ちゃんだったそうだ。 父とじいさまは、生まれてきたばかりの私に面会したとき、絶句したのだそうだ。 二人は、ミントキャンディーをいくらそれだけ好むからと言え食べさせすぎた事を死ぬほど後悔していたらしい。ミントにはある、特殊な効果が在るのだと二人は瞬時に思ったらしい。 何故なら、私の頭には、「毛が3本」くらいしか無かったからだと父が言う。 父の目からは、私は「お化けの久太郎」以下の大変気の毒な生き物に写ったらしい。 ・・・女の子なのに、毛がないなんて!!目の前が真っ暗になった瞬間だったそうだ。 しかし、彼は偉かった。彼は、その時誓ったのだそうだ。 「俺は、必ず出世して、金儲けて、不憫なこの子にカツラを買ってやる!」 後に、我が家で「三本毛の誓い」と呼ばれる彼の決意である。 そして、彼は仕事の虫となり、誓い通りそこそこ出世した。 じいさまは、近所の神社で、「あの子に毛が生えますように」とお百度を踏んだという。 ・・・私は、と言うと、あまり毛髪が多いわけでは無いが、父が心配したほど「お化けの久太郎」状態のままにもならなかった。 まあ、そこそこには毛が生えた、と言う事である。 父の誓いが効いたのか、じいさまのお百度がかなえられたのか、それは不明であるけれど。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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