小説読解について、ひとつの観方を紹介した。
「ウチ」と「ソト」をそれぞれのヒントとして、
より理解を深める方法である。
その流れで、
映像作品における、音楽の効果にまで言及した。
つまり、明るいシーンでは長調の曲を、
悲しいシーンでは短調の曲を流すことで、
人物の心情を表現する助けとすることができる。
実に、音楽のこの効果について言及した人として、
哲学者・ショーペンハウアーがいる。
また、理論的な音楽家であったR・ワーグナーは、
「楽劇」と称されるオペラ作品において
「示導動機(ライトモチーフ)」という手法を前面に押し出した。
ただ、キャラクターそれぞれに、フレーズをあて、
そのフレーズを形を変えて演奏することで、
人物の登場やその人物の心情を表現するというこの手法は、
別にワーグナーの専売特許ではなく、
僕の愛するプッチーニでは当たり前に使われる。
現代のアニメ文化でもそれはあって、
例えば、
ドラえもんにおけるジャイアンのテーマ曲が相当する。
しかし、明るいシーンには長調の曲、
悲しいシーンでは短調の曲、
さらには、男性キャラや「大地」のテーマには低い音域をあてるという
ショーペンハウアーの解釈は、非常に薄っぺらである。
とおり一辺倒なこのやり方では
作品は、分かり易くはなるものの、
逆に深みという点に欠けてしまう。
そこで、現代では
あえて内容と音楽とのギャップで、深みを表現するという手法がある。
簡単にいえば、
悲しいシーンで、明るい曲をかける。
こうすることで、短調を流すよりも
より殺伐した、非情な悲しみを表現することができるのである。
個人の悲しみとは無関係に、楽しく過ぎていく周囲の生、
それが、より悲しみを増幅させる。
だがしかし、
こうした「ギャップ」を含む場合、
それを観る視聴者には、ある程度の読解力が必要となる。
(これを僕は、「ドラマの読解力」と呼んでいる)
極端に読解力が不足している場合、
その人には内容が正しく伝わらない。
例えば、
「フランダースの犬」。
ラストシーンは、多くの日本人が涙する、悲しいものだ。
が、
パトラッシュとネロが天に召されるあのシーンを
純粋に「楽しく、明るいシーン」と観る人がいる。
「そんなバカな」と言わないでほしい。
事実である。
おそらく、あのシーンでかかる音楽が
「明るい曲調」であるということと無縁ではなかろう。
「フランダースの犬」は
圧倒的多数の人が「悲しいシーン」として認識するだろう。
それは、読解の難易度がさほど低くないからだ。
しかし、ここに、
非常な難易度の高さを誇るアニメが存在する。
おそらく、日本人のほとんどが
その音楽によって
正しい評価を見失っている作品。
それが
「アルプスの少女 ハイジ」である。
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この先、ふざけてます。
いや、ここまでもふざけてますが...。
ハイジでふざけたくない方は、ご遠慮ください。
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ハイジの内容については、ここでは一切、書かない。
「ハイジが、クララ以上にわがままで、引きこもりだ」とか、
「アルムおんじは、人殺しだ」とか、
「デーテおばさんは忍耐力がない」とか、
そういう話題なら、他の方がいくらでも書いている。
公式ページまであるから、そちらでご覧いただけばよい。
僕が話題にするのは、
ただ一点。
主題歌と内容のギャップ。
正確にいえば、
オープニングアニメ(以下、OPとする)の正確な解釈。
それだけである。
ありきたりの話であって、
僕自身、よく生徒たちにも話しており、
新しい観点でもなんでもないが、改めて書くのである。
早い話がですね、
「♪よーろよーろよっほっほー、
やっほっほーのやっほっほいっ!」
って感じのあの主題歌のせいで、
アニメの解釈がごまかされているということだ。
みんな、音楽の力にだまされているのだ。
OPが記憶にない方は、
Youtubeあたりで検索してみてほしい。
すぐにみつかるから。
もっといえば、僕自身が
OPの真実を伝える動画をこしらえて
ここで公開できればよいのだが、
残念ながら、そんな技術もヒマもないので、
むしろ誰かに作ってほしいのである。
真実の姿を観るためには、
ただひとつ。
アニメはそのままで、
曲を別のものにさしかえればよい。
そうですねぇ~、
僕だったら、
「女子十二楽坊」の「自由」って曲。
アレにしますね。
もう、ばっちりです。
あるいは、ブルーマングループの曲でもいいかな。
だからお読みのみなさんは、
OPを音声ミュートでご覧になりながら、
「女子十二楽坊」をアタマの中で鳴らしてほしい。
OPは、期待感をもたせるアルプスの山々の光景からはじまる。
主人公、ハイジ、スキップしながら、現る。
すぐ後ろには、
歩調を完璧に合わせた天才ヤギのユキちゃんが、
普通のヤギでは絶対にあり得ない、
摩訶不思議な足の動かし方で、ついてくる。
この時点で、
ハイジが動物使いであることは確定する。
そして、大本命だ。
ブランコ。
巨大なブランコ。
これについては、
これまで無数の人が話題にしてきたことだろう。
ハイジの身長から推定するに、
長さ20メートルのブランコだという説もあるが、
それは、カーブの半径からの推測で、
もっとも長く見えるときには、おそらく30~40メートルはあるのではないか。
そして、ここが肝心なのだが、
このブランコがどこからぶらさがっているかはわからない。
有名なアルムのもみの木では、到底低すぎる。
第一、ブランコをこぐハイジの足元は、
麓の村まで、何にもない。
周りに陸は、見当たらない。
数百メートルはあるであろう遠い下に、
村の民家が小さく見える。
この事実から推測するに、
ブランコは、巨大クレーンか
あるいはヘリコプターからつるされ、
文字通り、
全体が空中に浮いた状態である。
ハイジは、少なくとも地上数百メートルの中空で、
たった2本の細いロープでつるされたブランコに乗っている。
漕ぎ方もハンパない。
最も高く上がったときには、
すわっているイスがほぼ90度、
ハイジは真上を向く形になって、
その角度たるや、遊園地の海賊船なみである。
それを、満面の笑顔でこなしている。
ハイジは、間違いなく、
シルク・ド・ソレイユに入団できる。
ドラリオンでも、これは目玉の出し物になる。
東京ドームの最も高い地点から
ホームベースすれすれの長いブランコを吊るし、
外野席に飛び込みそうなくらいの勢いでぶんぶんこぐ。
そんなことができるのは
ハイジしか、いない。
しかも、驚くことに、
このブランコ・イリュージョンをしながらハイジは、
動物使いの能力を発揮、
鳥たちをてなづけている。
ブランコをこぐハイジの頭には、
4羽の鳥たちが一列に整列し、とまっている。
伊東温泉ハトヤのハトたちだって、
こんなに上手には演技できない。
ハイジのドラリオンは、さらにつづく。
次の瞬間、
ハイジは、
雲に飛び乗る。
この雲が、またえらく、速い
高速移動する雲の上で、
これまた平気な顔で寝そべるハイジ。
雲に乗れるのは
ノンちゃんか、孫悟空か、
百歩譲って、高木ブーくらいだと思ってた。
最後は、親友ペーターとのダンスである。
両手をとりあって、
その場でぐるぐる、スキップしながら回る。
それだけの簡単なダンスだが、
そこはハイジもシルク・ド・ソレイユの意地がある。
彼女たちが踊る周りには、
赤く色づいた紅葉が雪のように降り注ぐ。
「雪のようだ」と思ってたら、
ホントに雪が降りだす。
足元には結構な深さの雪も積もっている。
その雪は、やがて花びらに変わる。
…春になった。
足元の草色からすれば、初夏であろう。
半年以上、踊ってたよ、この子たち。
これはすごい。
完全にギネス記録だ。
半年以上、踊り続けるコンビ。
しかも、ハイジは、
雪の上でも、
ずっとハダシであった。
並みの忍耐力ではない。
実際、ハイジはもう少し
靴をはいた方がよいと、誰もが思うと思うのだが、
仕方がない。
サーカスの団員が、靴をはいて演技するわけが、ない。
というわけで、
ハイジはシルク・ド・ソレイユの代表演者であったと。
しかも、同サーカスには珍しい、動物使いでもある。
そう考えると、ヨーデルの主題歌は
ミスマッチでしょう?
やっぱりここは、
「女子十二楽坊」でないと。
なんなら、中国つながりで、
上海雑技団にゲスト出演するという手もある。
Kama