中野の立てこもり事件は精神科受診で防げたか?
中野の立てこもり事件についてさらに書く。この事件についてのコメントを見ると、精神科医療を受けさせていれば予防できたというものが多くみられる。盗聴されているといって大学を中退したり、悪口を言われていると言って重大事件を起こしたりするのは、精神疾患を疑うに十分で、高校生の頃に性格が変わったというのも病気の好発年齢を考えると納得がいく。ただ、どうも世の中には精神科という医療領域についての過大評価があるのではないか。つまり精神科医の診断とか医療というものを絶対視する見方である。一般の内科治療などでも、問診だけでは原因がわからず、精緻な画像診断や検査数値で分かるということがよくある。ところが、患者に対する問診だけで判断を下す領域があり、それが精神科である。精神医療の領域では診断基準というものがあり、患者に対する質問により、それにあてはまるかどうかを医師が判断する。その診断基準も実際には曖昧なもので、それだけ現実の精神疾患というものは症状が多様なのだろう。中野の事件でも、悪口を言われているというのは被害妄想の一症状のようでもあるが、電波や神様が命令しているというのに比べるとまだしも妄想性は薄い。そしてまた中野の事件の場合、犯人には幻聴とか幻覚とかといった症状もないようだ。おそらく精神鑑定にはかけるだろうけど、どういう結果がでるのだろうか。普通に考えれば、悪口を言われたから殺害するということ自体がそもそも異常なのであるが。患者の側の受け答えでも、視力や聴力、それに知能検査や認知症の検査のように正誤があきらかになるものなら客観性があるが、問診の中で妄想とか不調の原因を探るというと医師の方も誤る可能性もあるし、患者の方も正直に語るとも思えない。一方で診断が欲しければ、それらしい答えをすればよいと思う人もいるようで、休職するための鬱病の診断などとるのは簡単だという話も聞いたことがある。もちろん真偽のほどはわからない。むかしはよく神経衰弱という病名が流行しており、この診断名が乱発されたという話も聞く。中野の事件についても精神科受診で防げたとは思えない。