カテゴリ:Night
形式張った卒業式は、粛々と、だけど壇の上でだけで進んでいった。
定時制の卒業生のことも軽く触れてはくれてるけど的はずれな来賓の祝辞や在校生の送辞、卒業生の答辞が続き、最後に「仰げば尊し」が歌われて卒業式は終わった。 司会の先生が「卒業生退場」と言いかけると、突然卒業生の一人が立ち上がった。 「ちょっと待ってください!!」 一人の生徒が立ち上がり、体育館の中にさざ波のようなざわめきが起こる中、壇上へと駆け上っていく。 「えっと……、最後なんで、お世話になった人たちのことを思いながら1曲歌わせてもらいます」 その言葉が合図だったかのように全日制の卒業生が立ち上がり、保護者席の方を向き、いつの間にスタンバイしたのか、ピアノのイントロが聞こえてきた。 SMAPの「オレンジ」 校歌よりも、そして仰げば尊しよりも大きな歌声が体育館に満ち、歌が進むにつれて歌声の周りから控えめな手拍子がそっと添えられる。 歌う彼らの横を見ると、定時制の卒業生たちは座ったまま。 そっぽを向いたり、何やってんだという顔で全日制の卒業生を見ているのもいたけれど、ちらりと羨ましそうな視線を送っては顔を伏せるのや、かすかに口元を動かして一緒に歌っているのもいた。 そうだよな。一緒に歌いたかったよな。 どうせなら一言声をかけてくれてもよかったのに。 一緒に歌えなくても、みんな似たような気持ちを持っているんだろ。 やがて歌声は終わり、割れんばかりの拍手が卒業生に降り注がれた。 『さよなら』今でも誰より 大切だと思えるひと そして 何より二人がここで 共に過ごしたこの日々を 隣に居てくれたことを 僕は忘れはしないだろう 『さよなら』 消えないように… ずっと色褪せぬように… 『ありがとう』 SMAP「オレンジ」より
お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
|
|