カテゴリ:Night
もう半年以上も経つのに、その場所は変わらない佇まいを見せていた。
駅前に通じる道を車が行き交い、歩道では子供の手を引いた母親が笑顔を見せながらスーパーへの道を歩く。 多分ずっと前から変わらない風景で、建物や行き交う車、歩く人たちの服装や顔ぶれが変わってはいるんだろうけど、その通りの雰囲気はそのままなのだろう。 だから、この通りを歩く人たちも、こうしたのどかな風景が当たり前と思いこんでいるんだろう。 去年の夏、ここで何があったのか憶えている人もほとんどいないんだろう。 去年の夏、この通りの片隅にたくさんの花束やジュースのペットボトル、お菓子が置かれていたことを憶えている人は少ないんだろう。 僕はその場所に立つと、さっきコンビニで買ったペットボトルを置く。 たった一度だけ、彼女が飲んでいるのを見たことがあるというだけのジュース。 彼女が好きだったのか、単なる気まぐれでたった一度手にしたのを僕がたまたま目にしたのか分からないけど、そこに行く時まず頭に浮かんだのがこのジュースだった。 キャップを緩めてからペットボトルを置き、その前にさっき卒業生からもらったチューリップの1本を添える。 (さっき、卒業式が終わっったよ。キミの同級生も1年早く卒業していったぞ。 ……来年はキミだよな) 手を合わせながらそう語りかけると、もう一度通りを見回し、その場を離れた。 夕方、ちょっと遠回りしてもう一度そこに足を向ける。 その場所には、僕のとは違ったペットボトル、お菓子、そしてチューリップが2本、供えられていた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2005.03.16 01:16:28
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