カテゴリ:展覧会
このあいだ、オーストラリア大使館で隣の席に座っていた人と知り合いになった。
60代だと言うその上品な女性は、シルバーのボブに眼鏡というスタイルが、 ちょっと委員長っぽい女学生がそのまま年輪を重ねた風情、 通訳の日本語を聞く前に、うなずいたり笑ったりされているので、 「オーストラリアにいらしてたのですか?」 と尋ねると、 「いえ、主人の仕事でアメリカにいたことがあるんですよ。でも、英語はどんどん忘れます」 とご謙遜。 そうか、駐在員の奥様だったんだな・・・かごを作っているとおっしゃったので、 てっきり、手芸が趣味なのかと思って、 「そうなんですか~いいですねー。そう言えば、今、工芸館で30年展やってますよね」 と軽く話題にしたら、 「そうそう。私のかごも3つぐらい出てますよ」 というお返事。 えええーーっ!! そんなすごい芸術家の方だとは知らずに大変失礼いたしました。 とても感じのよい方で、大使館にもお知り合いがいるらしく、 おかげさまで、一人で来ていた私も、 今日は所在無い思いをしないで過ごすことができた。 今日、仕事を昼過ぎに終えて、工芸館に足を運んでみた。 竹橋の駅から、皇居の堀端の道を行く。 国立近代美術館の前を通り過ぎて、さらに坂道を登って400メートルほど行くと、 北の丸公園の中に、赤いレンガの建物が見えてくる。 明治43年(1910)に建てられた旧近衛師団司令部庁舎である。 戦後、取り壊しとなるところ、明治洋風レンガ造り建築の一典型として 昭和47年(1972)に重要文化財に指定され、 昭和52年(1977)に国立近代美術館の分館としてオープンした。 「軍国主義の象徴が、美の殿堂として生まれ変わる」 という見出しの当時の新聞も展示されている。 明治以降、とくに戦後の工芸作品を収蔵、展示してきた その30年の歴史を振り返る展覧会を開催中である。 陶磁、ガラス、漆工、木工、竹工、染織、人形、金工、工業デザイン、グラフィック・デザインなどなど、約2,600点の中から、セレクトされた優品が並ぶ。 松田権六の鷺の図柄の蒔絵の箱。 富本憲吉の色鮮やかな器。 そのほか、寡聞にして、あまり作家名を知らないのだが、 日本の伝統技術を踏まえた上で、新しい時代のデザインを模索する 職人かつアーティスト達が、精魂込めて作り出した 「世界に一つだけ」のモノ達である。 かご、かご…と思いながら、順々に見ていったら、あった!! 1994年の「素材の領分」展のコーナーに、 「関島寿子」という名前を発見した。いただいた名刺の通りだ! 素材と形の異なる三つのかごである。 柳とヨーロッパのシナノキを用いた背の高いかごは大きな幾何学的な網目。 風が吹き抜けて行くような軽やかさだ。 手前左の桑の木で編んだかごは小ぶりで、四角っぽい中に ぎゅっと目の詰んだ襞がたたみ込まれたユニークな形。 その右隣には、榎、欅、柳でびっしりと編みこまれた丸いかごがある。 鳥かごに入れる小鳥の巣のようなしっかりと整った丸い形。 これらを一心不乱に編んでいる関島さんの姿を思い浮かべた。 これまで、工芸品の展覧会では、つい、出来上がりの作品の美しさに見とれるだけだった。 この前に行ったティファニー展のジュエリーにしてもそうだった。 この全てのものが、生きた人の手によって作られたのだという、 至極当然のことに今さら気づかされる。 このかごを作ったのは、このあいだ実際にお会いしたあの素敵な女性なのだ。 そう思うと、ほかの作品を見るときにも、 どんな人が、どんな思いを込めて、これを作ったのであろうかと想像して、 器一つにも親近感が増すのである。 「開館30周年記念展 I 工芸館30年のあゆみ」 東京国立近代美術館 工芸館にて、12月2日まで お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2007年10月21日 00時22分00秒
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