カテゴリ:音楽
このところ聴いているCDの一つ。
ブルッフとブラームスのバイオリン協奏曲。 バイオリンソロはイタリアの名バイオリニスト ウート・ウーギである。 話は少しさかのぼるが、5月末にあった東京交響楽団のコンサート会場で このCDを買って帰った。 せっかく来たし、ブルッフもブラームスも大好きなコンチェルトなので、 このカップリングは買い!だと思ったのだ。いや、買って正解だった。 その日のソリストは世界的巨匠ウート・ウーギ。 「ミラノの名門貴族の血を引き、幼少時から神童と讃えられ、15歳からコンサートデビュー。 本国イタリアでは、今世紀の最も著名なバイオリニストであり、 イタリアに生まれ開花した偉大なバイオリン流派の正当な後継者とみなされる」 へええ、なんか家柄も才能も(若いころはルックスも)あってすごい感じ。 興味津々で出かけ、当初のプログラムの順序が変更になって(!) ブラームスのバイオリン協奏曲がメインだと言うので、大いに期待が高まったのだが・・・ 正直言ってがっかりだった。 もちろん、ゆったり歌う部分は音色の良さが際立ち、 あらためてプログラムを見ると、 「演奏楽器は1744年製のグァルネリ・デル・ジュス『カリプロ』と 1701年製のストラディヴァリウス『クロイツェル』」 うわ~1台でも億がつきそうなものを2台も持ってるなんて、さすがは貴族だ。 しかし、音程が悪すぎる。とくに高音に跳躍するところ。 速いパッセージでは指が空回りしている感じ。 (えええ~?これが巨匠なの…?) 翌日のとあるブログにも酷評があり、 やっぱり私だけがだそう思ったわけではないのだと納得。 そのブログの主は「若い頃はすごかったんだろうか?そうは思えない」 とかなり厳しいことを書いていたが、それは誤りである。 いくらなんでも音楽の世界で、そんな下手な演奏家が「世界的巨匠」と呼ばれることはありえない。 果たして、帰宅後CDをかけてみると・・・ 一言で言って見事な演奏だった。 どっちの名器だかわからないが、素晴らしい音色。 あらゆる難しいパッセージを弾きこなす完璧なテクニック。 内から溢れるような音楽のうねりは、その曲の持つ「イデア」を示すように確信に満ちている。 いや~、このあいだの生演奏と全然違うじゃない! 録音年代を見ると、1982年と1983年となっていた。今から25年前か・・・ 1944年生まれの彼が30代後半の最も脂が乗り切っていた時期なのだろう。 四半世紀前だが名盤だからコンサート会場で販売していたのかな。。 全部イタリア語で書いてあるので、解説がさっぱりわからないが、 とにかく、録音というものの価値を今回は強く感じた。 現在、彼は64歳だからイマドキの尺度ではまだそんなに高齢ではないが、 バイオリンみたいに細かいテクニックが要求される楽器は ある程度若くないと難しいのだろうか? 確かに鍵盤をたたけばその音程の音が出るピアノと違って 弦楽器は正確な音程自体に耳と技術がいるわけだから。 彼本人は、自分の演奏をどのように聴いているのだろう? 今日は調子悪かったーとか、だんだん弾けなくなってきたなぁ…とか思うのだろうか? いたたまれなくなって演奏中に逃げ出したくならないだろうか。 バイオリニストは大変だ。出番中ずっと立ち詰めで、一挙手一投足が丸見えだから。 ピアニストは椅子に座ってピアノの陰で休憩できるのにね。 驚いたことに、演奏が終わると「ブラボー」の声が挙がり、 拍手喝采の中、巨匠は舞台に戻ってきてアンコール曲を弾いた。 (え?アンコールやるの!?) アンコールのパガニーニのほうが、コンチェルトより良かったとは、なんたること。 自分の演奏の音程がひどかったことがわからないのだとしたら、よっぽどの衰えである。 わかってはいるけれど、どんな場合でも決して顔には出さずあくまでもにこやかに、 お客が喜ぶのならアンコールだって弾きます、ということなら、 よっぽどのサービス精神ということになる。 どっちだったんだろう。。 さらに不思議だったのは、終演後、楽屋の前に長蛇の列ができていたこと。 バイオリンを習っているらしい小学生もいれば、インタビューのアポ取りに懸命なマスコミもいる。 巨匠は誰に対しても笑顔でサインに応じ、人々に囲まれるのが嬉しいようだった。 一瞬、「裸の王様」という言葉が心に浮かんでしまった。 子どもではないので、さすがに「あ、王さま、はだかだ~」と言うことはできなかったけれど、 なんとも言えない居心地の悪さとカタルシスのなさを抱えて帰途についたのだった。 だから、家でCDの名演を聴いて心底ホッとした。 これは本当にうまい。世界的巨匠はウソではなかった。 彼は、来年の1月にまた来るらしい。今度は都響との共演でチャイコフスキーの由。 今度こそ、このCDのような名演を聴かせてもらえるのか、 (今日だけちょっと調子が悪かったということ) あるいは、これは二度と帰らぬ全盛期の記念すべき名演なのか、 (人間は誰でも年をとる) こうなったら、もう一度確かめに行こうと決めた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2008年06月14日 01時52分36秒
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