カテゴリ:ニュース雑記
昨日はマールブルクで、トルコでの発掘から帰ってきた先生に会った。僕も参加した今年の調査では、その後(僕がドイツに戻った後)フルリ語(ミタンニ王国の言語)の粘土板文書が出たり、青銅の鏃や槍先が大量に出土したようだ。浮き彫りの刻まれた石(オルトスタット)はクレーン車なども動員して無事に博物館に搬入されたらしい。
トルコに行っていた連中も無事に帰ってきた。彼らは木曜の朝にトルコを出て、運転手を交代しながらぶっ通しで走り続け、ドイツのフルダまで来た所でエンジンが力尽きてしまったらしい。二日間休まずに走り続けたら車も壊れるだろう。しかし毎年このルートを行き来しているとはいえ、車で三日でトルコ東部からドイツ中部まで来るというのは新記録だ。 今はハイデルベルクにいる。ドイツにドイツ語を学びに来ているThucydidesさんの紹介で、学食でアメリカ人(ユダヤ系)の研究者と昼食を共にした。 ・・・・・・・・・・・ ドイツでは大連立の組閣で合意、シュレーダー首相退陣とドイツ最初の女性首相となるメルケル首相誕生がほぼ確実となった。組閣人事も進んでおり、文部大臣はばりばりのカトリック保守派で知られるアンネッテ・シャーヴァン氏(CDU、バーデン・ヴュルテンベルク州文部大臣)、経済・科学・ヨーロッパ担当大臣にエドムント・シュトイバーCSU党首(バイエルン州首相)の就任が確実視されている。また法務・厚生など一部のSPD閣僚の留任も言われている。その他取りざたされている人事は、 ・財務 ペール・シュタインブルック(SPD・前ノルトライン・ヴェストファーレン州首相) ・内務 ヴォルフガング・ショイブレ(前CDU党首) ・国防 ミヒャエル・グロス(CSU) と言ったところか。外相人事は難航しているようで、オットー・シリー内相やペーター・シュトルック国防相の名前が出ている。 副首相就任も噂されていたシュレーダー現首相やミュンテフェリングSPD党首は入閣しない模様。シュレーダー首相はここ数日沈黙を続けている。 ・・・・・・・・・・・ 昨日久しぶりにフランクフルト駅で日本の新聞を買った。ドイツでは大都市の駅などで朝日、日経、読売の各紙が買えるが、一番多く売っているのは朝日新聞衛星版で、3.5ユーロ(約500円)もする。 さて朝日新聞を読んでいると、死者四万以上と言うパキスタンでの大地震の記事が出ている。イスラマバードではアパートが倒壊し日本人技術者とその子どもが犠牲になったと言う。その記事を読んでいて驚いた。 (以下引用) 地震で犠牲の楢原さん「阪神被災で人生観変わった」 2005年10月10日 (月) 17:11(Asahi.com) 国際協力機構(JICA)からパキスタンに派遣され、地震で犠牲となった楢原覚さん(36)は、神戸で過ごした会社員時代、阪神大震災を体験していた。その後、会社を辞めて、国際協力の舞台に転じた楢原さんは、大学時代の友人に「震災で人生観が変わった」と語っていた。 筑波大学や同大学院で工学を専攻した楢原さんは94年春、神戸製鋼所に就職。ごみ処理施設の設計などにかかわっていた就職1年目の冬、震災に遭った。友人らによると、その後「自分の技術を現場で生かしたい」と青年海外協力隊に志願。周囲に「震災を体験して、人生観が変わった」と漏らしていたという。(中略) 福岡県立城南高校の同級生で、同じ筑波大学に進んだ赤松学さん(35)は「自分でこれと決めたら、信念を突き通すタイプ。向こうで頑張っていたのに……」と声を詰まらせた。 楢原さんのパキスタンへの派遣期間は今月19日まで。大学時代の同級生の有馬秀樹さん(36)は「先日、『みんなで東京で飲もうよ』と電子メールを交換したばかりだった」と突然の悲報に驚き、「今は残された奥さんのことが心配。帰ってきたら、みんなで支えていきたい」と気遣っていた。 (引用終了) 実はこの楢原さんを僕は知っている。なんのことはない、大学の先輩である(ただし学部も学年も違う)。「知っている」と言っても何度か口をきいた程度で向こうは覚えていなかっただろうが。この記事に出てくるインタビューされている同窓の人も、みんな名前を覚えている。 人生の中でほんの何度かすれ違っただけの人、しかもこういうニュースに出ることもなければその消息さえ知ることが無かったとはいえ、こういう記事に知り合いの名前が出てくると言うのは妙な(もちろん悲しい)気分である。 僕は彼のことを多く知らないし(新聞に出ていた写真は、髪が薄くなっていたとはいえ僕の記憶する彼の面影があった)、新聞に書いてあることもすべて初耳だったが、こういう新聞やニュースにかかるとまるで劇的な人生のようになってしまうのが不思議である。しかも亡くなったのがパキスタンで、甚大な地震だったというのがマスコミの注目を集めているわけだが、来年になってこの人のことを覚えている人は何人くらい居るのだろうか。 翻って、もし例えば僕がトルコとかドイツでテロや大規模な災害に巻き込まれて死んだりしたら、どういうふうに新聞記事に載るのだろうか。記事になるほどのこともしていないようにも思えるし(変なところにはよく行っているとはいえ)、胸を張って「これが俺の人生だ」と人に言えるようなものがあるだろうか。 同じ車両に誰も居ないハイデルベルクに向かう列車の中で、新聞を手にひとしきり考え込んでしまった。 組閣をめぐって醜い政争を続ける政治家と、パキスタンの地震で亡くなった「ただの人」のどちらが誇れる人生だろうか。記録に残るのは間違いなく政治家のほうだろうけど。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[ニュース雑記] カテゴリの最新記事
|
|