カテゴリ:ドイツ事情
昨年日本ではクマやイノシシ出没や被害のニュースが相次いだが、ドイツでもある動物の被害が深刻になっているらしい。そんなニュースの紹介。
昨年の夏だったか、マールブルク大学の学食の前を流れているラーン川(幅20mくらい?)に掛かる橋を渡っていると、川岸に何やら獣がいるのを見つけた。結構大きくて、頭を川のほうに向けていて尻尾も藪に隠れており、胴体しか見えなかった。 この川にガチョウやカモが住んでいるのは知っているが、獣がいるのはじめて見た。よく犬を遊ばせて泳がせている人が居るが、この獣はどう見ても犬ではない。茶色っぽくて丸っこい体をしている。全体にぬるっとした感じがしたのでカワウソかイタチの類かと思った。 僕の故郷にはヌートリアという野生化した獣が田んぼとかに住んでいて(うちの近所に田んぼはありませんが)、そいつを捕まえて売ると毛皮が一万円くらいになるというので小遣い欲しさの高校生とかが探しているという話を聞いたことがあった。その噂を教えてくれた友達(彼は田舎の高校に通っていた)は間違えて「ヌートラス」と言っていたので一瞬変な怪獣を連想したものだった。ヌートリアは無論日本の在来種ではなく、元々南米原産のものがフランス経由で毛皮目的で輸入され、養殖されていたものが逃げ出して野生化したのである。 それはともかく、そのときは川辺のその獣をじっくり見ることも無かったのでヌートリアだろうと思って通り過ぎたのだが、その後しばらくして新聞(フランクフルター・ルントシャウ)を読んでいると、地元ニュース欄に「アライグマ出現」のニュースが報じられていた。またハノーファーの博物館に行ったときにアライグマの剥製を見て、こいつがドイツで野生化していることが解説されていた。 ドイツ人の友達に「川辺で変な動物を見た」と言うと、「そりゃーアライグマだよ」と言われた。あの時見たのは形状や色からしてアライグマではなくヌートリアだと思うが。 そこで冒頭のニュースだが、ドイツ、特に東部のブランデンブルク州でアライグマが猛烈に増えているという。東西ドイツが統一された頃の15年前はまだ珍しい動物だったのに、同州では昨年の1シーズンで5712頭のアライグマを射殺したという。5年前は1シーズンで1265頭だったのと比べると大幅な増加である。ドイツ全体では昨年一年で3万頭が「駆除」されたが、これは6年前の3倍になるという。 「あんな愛らしい動物を駆除なんて」と思うむきもあるだろうが、アライグマというのはむしろ害獣に属するという。雑食性で鳥や動物から畑の作物(トウモロコシが好物らしい)から貪欲に何でも食べる。しかもきわめて頭が良く、閂程度の仕掛けならすぐに覚えて開けてしまうほどだという。体長が50cmにもなるので力も強い。アニメで有名な「あらいぐまラスカル」の「ラスカル」というのは「やんちゃ坊主」という意味だそうだが、そういえばいがらしみきおの漫画「ぼのぼの」でもアライグマはいじめっ子として登場する。 アライグマの増加によって、この未知の利口な動物への対処法を知らない他の動物(特に鳥類)が危機にさらされているが、逆にドイツのアライグマには天敵が居ない。原産地の北米ではピューマが天敵だったが、ドイツに住んでいる数少ないクマやオオカミはこの新参者を食べようとはしないそうだ。まさに我が物顔で増え続けている訳である。またアライグマが問題なのは畑を荒らし他の動物への脅威になるというだけではなく、狂犬病などの伝染病やさまざまな寄生虫(回虫など)の運び屋にもなるということもある。 アライグマはナチス政権下の1934年に毛皮(軍用外套などに使用)目的でドイツに輸入され養殖されていたが(最初はヘッセン州カッセル近郊のエーダー湖に放された)、逃げ出したものが野生化した。エーダー湖のダムは1943年にイギリス空軍の爆撃で破壊され、その結果起きた洪水でドイツ人数十人と強制労働に従事していたウクライナ人捕虜700余人が溺死したというが、その時にアライグマも逃げ出したのだろうか。またブランデンブルクでも、シュトラウスベルク近郊のアライグマ養殖場が爆撃を受けて逃げ出したらしい。ドイツ全体で1956年に285匹だったものが1970年に2万匹に増加、現在は数十万匹に上ると見られる。 最近はドイツ全土で、夜間に道路を歩いたり民家の屋根に上ったり、ゴミ捨て場を荒らしたりする姿が都市部でも見かけられるようになっているそうだ。 ちょっと気になったので「ウィキペディア」を見ると、なんとアライグマは日本でも野生化と急激な増加が問題になっていると知り驚いた。既に40都道府県に分布しているといい、対策・駆除が問題になっているが、動物愛護団体の反対圧力を受けているという(本来いないはずのアライグマに食われる動物は可哀想ではないんだろうか?)。日本に居ても、タヌキと見間違えてアライグマと気付かないことがあるそうだが。 もっと驚きがアライグマが日本に広まった理由だが、やはりアニメの影響でアライグマをペットとして飼う事が流行った結果、野生化するものが多くなったという(最初の野外繁殖は岐阜の動物園から脱走したアライグマだそうだが)。「ラスカル」の話って、大きくなったアライグマが手に負えなくなって森に放すって話だったよな。飼いたくなるもんかねえ。実際のところ臆病な割に凶暴で、あまりペット向きではないようだ。 アライグマの原産地は上述のようにメキシコからカナダ南部にかけての北米大陸全域だが、毛皮目的で各地に輸出され養殖された結果、現在はドイツ全土やフランス北部、ベラルーシ、コーカサス諸国などに拡散している。本家のアメリカでは乱獲や生息域減少のためむしろ減少しているというから皮肉なものだ。 (↓アライグマ帽がトレードマークのデイヴィ・クロケットが主人公の西部劇映画「アラモ」) アライグマは手でカニを捕らえる利口な動物ということで、インディアンの神話によく登場するそうで、英語名のRaccoonは、カナダ辺りに居たアルゴンキン族のアライグマの名称Ahrah-koon-em(手で引っ掻く者)が訛ったものだそうだ。ドイツ語では「アライグマ」そのままの「Waschbär」、中国語では「浣熊」とのこと。 ちなみに、野生のアライグマ(食肉目イヌ亜目アライグマ科)は名前の由来となった「洗い」をしないんだそうである。僕が川辺で見たのはやはりアライグマではなくヌートリアだったようだ。ビーバーではなさそうだし。 ヌートリア(ドイツ語ではBiberratte)は川辺に巣穴を作って住んでいる。連中も田んぼの畦(ドイツには無いが)を壊したりする害獣だそうだ。アライグマもビーバー(カナダビーバーがフィンランドやオーストリアに放流された)もヌートリアも、人間の都合(毛皮採取)であちこちに連れて行かれ、増えてしまった今は害獣で駆除対象だから哀れといえば哀れである。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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