カテゴリ:連続小説1「マチビト」
「マチビト」
1.悲しみ 周りをきょろきょろと見回しながら備え付けの灰皿の前でタバコを吸っている男性に、手を振りながら小走りに女性が近づいてくる。2人は手をつなぎ楽しそうに話をしながら歩いていった・・。 ベンチで本を読んでいた女性は、友達らしき女の子に声をかけられて顔をあげた。本に集中していたために、少し前からそこに友達が立っていたことに気が付かなかったようだ。彼女は照れたように笑いながら立ち上がった・・。 時計を見てはイライラしたように足を揺すっている男性。待っている相手が来たら怒鳴りだしそうな表情さえしている。彼は来てからまだ5分くらいなのに・・きっと、少しの時間でも自分が待たされるのは嫌なのだろう。ああいう人に限って平気で人を待たせたりするのだ・・。 さっきから談笑していた数人の男の子たちのグループに一人の男の子が駆け寄っていき、手を合わせて謝っている。寝坊でもして遅れたのだろう、急いできた様子が伝わってくる。彼も談笑の輪の中に混じり、そして男の子たちは歩き出した・・。 駅前の、大きな時計がある広場。 毎日たくさんの人が待ち合わせの場所としてこの広場を利用している。私もそんな人々と同じように、大時計の下のベンチに腰掛けて彼を待っている。 しかし、私と、他の待ち合わせの人々との間には決定的な違いがあった。待ち合わせをしている人々は、いつか目的地に向かって歩き出す。しかし、もう私が歩き出すことは無いのだ。 私は、ここで、もう来ない彼をいつまでも待ちつづけている・・。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2004年10月01日 12時11分13秒
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