カテゴリ:連続小説1「マチビト」
彼女に話し掛けるチャンスは、突然やってきた。
ある日、いつものように雑貨店の中から広場の彼女を眺めている時、ガラの悪そうな男が彼女に絡みだしたのだった。今までもナンパ目的で彼女に話し掛ける男は数人いたようだが、彼女のそっけない態度に誰もがすぐに諦めて居なくなった。しかし、彼は彼女がどんなに拒絶しても、しつこく絡んでいた。 僕はいてもたっても居られなくなり、「ちょっと出てきます」と店長に告げて店を飛び出した。 「いいじゃん、遊びに行こうよー」 「何度言ったらわかるんですか。待ち合わせしてるんです。」 「そんなこと言って、さっきから誰もこないじゃないかよ・・」 彼女と男とのそんなやり取りが聞こえてきた。彼女に走り寄った僕は、彼女に声をかけた。 「遅れてごめん・・待った?」 男と彼女が、僕のほうを見た。 「ちっ、ほんとに待ち合わせしてたのかよ・・」 僕の出現にそれまで彼女に言い寄っていた男は、そんなセリフを言い残して簡単に去っていった。 ・・この時僕は、今時こんな奴がまだ居たのかと、驚いた。女の子にしつこく絡んだ挙句、捨て台詞を残して去っていく・・旧時代の典型的な悪者だ。実は根はいいヤツだったりするタイプだ。 そんな種が実在しているのを見るのは初めてのことだった。 ・・・僕は、そんなくだらない想像を振り払い、彼女に声をかけた。 「大丈夫ですか?」 「・・・あ、ありがとうございます。」 助けられたとわかった彼女は、僕にお礼を言った。 「いや、なんだか凄くしつこかったみたいだから・・」 「ありがとう、ほんとにしつこい男で困っていたの。・・それにしても・・」 彼女は僕の姿をマジマジと見つめた。そして、急にクスクスと笑い出した。 「何がおかしいんですか?」 「だって、あなたあそこの雑貨屋の店員でしょ?・・エプロン付けたままで待ち合わせに来るなんておかしいじゃないの・・。よくあの男は納得して居なくなったなぁって思って・・。」 たしかに、言われてみればおかしなことである。楽しそうに笑う彼女を見て、僕もなんだかおかしくなってきた。 「確かに、おかしいですよね。あいつがそこまで考えてなくて良かったです。」 「ほんとよね・・。」 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2004年10月06日 12時28分44秒
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