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2005年03月06日
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カテゴリ:短編


『最近風邪が流行ってるみたいだけど、大丈夫かな?仕事忙しいだろうけど、体には気をつけてね。』

 良子からメールが送られてきた。なんてことない文章だけど、彼女が自分からメールを送ってくる時は、仕事でこんなことがあったとか、たいてい自分の近況を報告してくる時が多い。
 彼女が僕のことを心配する短いメールを送ってくる時は、僕に会いたくて寂しい時だ。

 遠距離恋愛を始めてからこういうメールがよく届くようになった。彼女と会うのは、せいぜい3ヶ月に1度くらい。
 こっちから行くこともあれば、向こうが来ることもある。会えない時間は寂しくて当然だ。しかし時間的にも金銭的にも、それより頻繁に会いにいくことは大変だった。

 けれど、明日は久しぶりの休みで、なんだか僕も彼女に会いたくなってしまったのだ。空港に着いた僕は、彼女に電話した。

「もしもし。明日って暇?」
「え・・、買い物行こうかと思ってたけど、他には特に・・。」
「じゃあ、僕も買い物付き合うよ。」
「え?」
「今、空港なんだ。4時間後・・・22時頃にそっち着くから。暇なら迎えに来て。」
「・・あ、うん。わかった迎えに行く。22時ね」
「それじゃ、搭乗手続き始まってるから。また後で。」

 電話を切って、僕は搭乗ゲートに向かった。

 飛行機の中で窓の外を眺めながら、彼女のことを思った。さっきの電話では呆気に取られていたけれど、今ごろ自分を迎えに行くための準備をしているはずだ。
 急に来るなんて言わないでよ、私にも予定があるんだから。そんなことをぶつぶつ言いながらも楽しそうに部屋を片付けたりしている彼女の姿が目に浮かんだ。

 太陽はすっかり沈んで、西の空がかすかに明るい程度だった。時間とともに暗くなっていく空には、徐々に鮮明になっていく月が浮かんでいた。やや西に傾きかけた半月。その月のクレーターを眺めながら、僕はうとうとし始めた。


 久しぶりに会う良子のことを考えている僕の目に、月がどんどん大きくなっていくのが映った。僕の乗った宇宙船は、月の着陸基地めがけて降りていく。
 無重力の宇宙から月に近づけば近づくほど、体が重くなっていくのを感じる。空港に降り立った瞬間には、僕は完全に月の重力の中に居た。しかし、地球にいたときよりははるかに体が軽くなったのを感じる。6分の1。それが月の重力だ。ベルトをはずして席から降り立つ時も、思わず体がはずんでしまう。比喩ではなく、本当にはずむのだ。

 僕は、月の空港に降り立った。外観的には地球の空港と何ら変わりは無い。
 荷物を受け取ってゲートを出ると、迎えの人々の中に彼女の姿をみつけた。彼女はまだ僕の姿には気がついていない。僕は気づかれないように他の乗客に隠れながら彼女に近づいて、そして後ろから声をかけた。

「こんにちは。迎えに来てくれたんだね。」
 驚いて振り向いた彼女は、次の瞬間には満面の笑顔を見せた。
「いらっしゃい!長旅お疲れ様。」
「ホント、疲れたよ。でも地球から月までたった一日半で着けるなんて、便利になったよな。」
「でも、まだお金はけっこうかかるよね。・・ありがとう、来てくれて嬉しい。」
「僕の方こそ、良子に会えて嬉しいよ。」

 そして僕達は抱き合った。月の空港、ロビーの真中で、周りの人の目も気にせずに。
 ロビーのガラス張りになった屋根の向こうには、青い地球が信じられないほどの美しさで浮かんでいた・・・。



 僕が夢から覚めると、ちょうど飛行機が空港に降り立つところだった。普段とほとんど変わらない重力で地上に降り立つ。ベルトをはずし席から降り立つとき、思わず体が弾んでしまう。それは、もちろんはずむような気分だという比喩である。
 荷物を受け取ってからゲートを出ると、そこに彼女の姿を見つけた。ほとんど同時くらいに僕の姿を見つけた彼女が手を振る。

 彼女に近づきながら、僕は彼女と同じ地球上にある日本という国の中で暮らして良かったと思った。
 もしも彼女が住むのが日本じゃなく海外だったら、会いに行くにはビザが必要だし、時差もある。もしも彼女が月に住んでいたら、それはもう、想像も出来ないほど困難な恋愛になるだろう。

 彼女に何かあった時、彼女とどうしても会いたくなった時、僕達はほんの数時間の移動で、ほんの数万円のお金で会うことができる。そんな今の状況を、少し嬉しく思った。
 そんなことを言ったら、きっと彼女は今だって遠いと言って怒るだろうけど・・。

「どうしても会いたくなって、来ちゃった。」

 そう言った僕に、彼女は最高の笑顔で応えた。


終わり





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最終更新日  2005年03月06日 10時06分34秒
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