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カテゴリ:心理学 メンタル 悩み、読書
読レポ第2046 カール・ロジャーズ ~カウセリングの原点~ 著:諸富祥彦 第6章 1955年ロジャーズとジャンドリン 1955年のロジャーズとジャンドリン(2/6) ②ジャンドリン 心理療法におけるクライアントの変化の鍵として「体験過程(experiencing:(エクスピング: 経験する))」概念を提示(1955年) そんななか、同じ1955年に出された二つめの刺激的な論文が、ジャンドリンが「体験過程(experiencing(エクスピング: 経験する))という概念を(哲学のディルタイ研究の文脈においてでなく)心理療法におけるクライアントの「変化」を説明する概念として、はじめて用いていたexperiencing(エクスピング: 経験する)という概念をはじめて心理学の概念として世に出したのである。 ところで、ロジャーズから臨床実習生になることを許可され、トレーニングを積んだジェンドリンは、なかなか優秀だったようである。「ある時、ロジャーズは、自分の門下生たちに、『私がカウンセリングを受けるなら○○さんに受けます』『友人がカウンセリングを受けるとすれば、○○さんを推薦します』という質問紙調査をおこなった。相談相手のカウンセラーを、セミナー出席メンバーから選ぶ想定でおこないました。ジェンドリンがトップになりました」(Rogers & Russell,2002)。今これをしたらハラスメントになるのではないか、とちょっと心配になるエピソードである。実際、この時の雰囲気についてロジャーズは次のように語っている。「反撃のような雰囲気が生じました。「ちくしょう!仲間を評価されるなんて!僕たちは平等主義で、力を合わせているんだ。それなのに、あなたは私たちをランクづけさせた』というわけです。全体の空気が険悪になり、二度とやりませんでした」(Rogers & Russell,2002)。ロジャーズにはこうした「いたずら心」が旺盛であったようだ。この時、仲間からの投票で一位に選ばれたのが、ジェンドリンであった。大学の仲間たちからも「あいつは、心理学出身ではないけども、臨床が一番できる」と一目置かれた存在であったようだ。 1952年からは、ロジャーズのもとで仕事をさせてもらえるようになった。そんななか、先に述べたように、みずから「クライアント体験」をするなかで生まれたテーマ―カウンセリングは、クライアントは自分の「感情」「気持ち」を語りセラピストがそこに応答することが大事だとれているが、正確に言えば、そうではないのではないか。実際に起こっていることは、そうではなく、怒りや悲しみといった気持ちの背景にある、まだ言葉にならない、生々しい、微細で複雑な暗黙の何かに触れながら、そこから語るということであり、セラピストはそこから何かがうまれてくるのを持っている。するとそこから「もっと深い何か」が生まれるのではないか、という疑問―に、修士論文の哲学論文で使っていたexperiencing(エクスピング: 経験する)という概念を使って取り組み始めたのである。ロジャーズのもとでカウンセリングの実践をしているうちに、ジャンドリンは「その場で起こっていることに哲学の考え方を適用できる」(Gendlin & Lietaer,1983)のではないか、と考え始めたのである。 まず、1954にジャンドリンは、フレッド・ツィムリングとともに、ロジャーズが主宰する「グレイジー・アイディア」という研究会において、experiencing(エクスピング: 経験する)概念について、心理療法研究の鍵概念として最初に発表している(田中 2018)。「グレイジー・アイディア」とロジャーズ主宰の研究会の名前からは、一見奇妙なもののように思えても、自分の中から生まれてきた考えであればどんどん発表してみよう、という、実に自由でチャレンジングな雰囲気が伝わってくる。この研究会で、おそらく1954年に発表がなされ、1955年にカウンセリングセンターのディスカッション・ペーパーに寄稿されている(田中 2018) 40代からの研究成果を1955年、53歳の時に「自己理論」としていったん体系化してまとめてロジャーズであったが、ジャンドリンのこのexperiencing(Gendiin & Zimring, 1955(エクスピング: 経験する))という独創的な概念に刺激を受けて、一段と新たなステージにみずからの理論を展開させていくことになる。ロジャーズのそれまでの理論は、「自己理論」を主軸としたものであった。「自己概念」や「自己構造」に焦点を当て、その変化を研究するものであった。しかしそれは、いくら細分化して細かに研究しても、変化の「前」と「後」を比較する研究しかできない。自己概念がこのように変わった、という研究しかできない。いくら単位を細分化し、たとえば50分の面接中に5分ごとの変化を追っていったとしても、それは「5分前」と「5分後」の「結果」の比較であって、「変化するということ自体」に焦点を当てたものではない。ジャンドリンのexperiencing(エクスピング: 経験する)概念は、ロジャーズの研究を(とうようより、チーム・ロジャーズの研究の方向性を)「まさにこの瞬間にクライアントが変化している、その瞬間に起きていること」に焦点を当てる方向へと転換させたのである。 1956年にジャンドリンらが「患者たちが何を話すかという点に違いはない。違いは患者たちがいかに話すかという点にある」という報告をした学会発表(Gendlin,Jenney & Shlien,1960)をおこなったことで、話の「内容」にではなく、どのような体験し、どのように話しているか。という「体験の様式」に焦点を当てる方向性が加速化していく。本書第2章でみたような、クライアントの変容過程についての生々しい記述、そしてそれを柱としたロジャーズの代表作『オン・ピカミング・ア・パーソン』も、ロジャースとジェンドリンの出会い、そして二人を要とした展開していくチーム・ロジャーズの協働作業なくしてはとうてい不可能であったように思われる。つまり、ロジャーズのセラピィ論の到達点である1950年代後半から1960年前半の論文や著作そのものが、ロジャーズ一人がなした仕事、というよりも、ロジャーズとジェンドリン、そして二人を要としたチーム・ロジャーズの「合作」としてはじめて可能になったところがある。その元も大きな原動力となったのが、ほんの数年前まで若き哲学の大学院生であったジェンドリンであった. ジェンドリンによって提示されたexperiencing(エクスピング: 経験する)という概念だったのである。
私流に言うと、ひたすら、クライアントに心のベクトルを向けてクライアントの変化に焦点を当てることだと思う。クライアントの言葉にならないことを感じるには、心のベクトルをクライアントに注ぎつづけることだと思う。そうすると、クライアントの暗黙の世界を感じることができるようになると思う。その暗黙の世界に寄り添うことができると思う。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2024.04.17 21:06:25
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