◆◆ 引用 ◆◆
いちょうの思い出 風邪が長引き、一週間ぶりに買い物に出た スーパーの角の、すっかり葉を落としたいちょうの木を見て、ハッとした 先週は建物の土台だけだった上に外壁が建ち、 いちょうのアパート側の枝が切られていた けれど、見上げるほどの高さの木までは倒されず、本当によかった 15年前、中学三年で病死した娘が三歳の頃、 この木の下でひらひら落ちるいちょうの葉を受けとめようと 黄色く包まれた木の下で手を上げてジャンプし、飽きない時間の中にいた 娘が死んでからも秋になり、黄金色に包まれて、 果てなく舞い落ちるいちょうの葉を見るたびに、 かわいらしかったあの頃の娘を思い出して、 心が悲しさでいっぱいになってしまう 同性だから、娘にかける思いや願いは、たくさんあった 私にできなかったことも娘にしてほしかった 友だちの娘さんの朗報を聞くたびに、死んだ娘の止まった時を思う けれど、思い出があるだけ、ありがたいのだと思いたい 私が死に、娘との思い出が消えてしまっても いちょうの大木はずっと残ってほしい 56歳 小学校教諭 --- 引用 -------------------