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カテゴリ:SFフアンタジー中篇
「なみだ石の伝説」
(飛鳥京香・山田企画事務所・1975年作品) 作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所 http://www.yamada-kikaku.com/ 第5回 バスのとびちった部品の影に、滝が倒れていた。 「滝,しっかりしろ」 滝は目をあけた。 服がやぶれ、血がにじんでいた。すこし焼けこげてもいた。 一、二度、頭を振って、滝は上体をおこした。 不思議そうな顔をして、滝は僕をみつめていたが、ポケットに手をつっこんでから、ゆっ くりといった。 「日待、君はケガをしなかったのか」 「ああ、そうさ、運転手は?」 あたりをしばらく見渡してみた。 「どうやら、ダメなようだな」 ポツリといった。 滝は、僕の目をじっとみつめ、口を開いた。 「日待、どうだ、ここらでもうはっきりさせないか。」 その表情は、これまでの饒舌な滝のものではなかった。別人のようだった。 「何のことだ。何のことを言っているのだ」 僕は体をこわばらせる。 「まだ、しらばくれる気か。君と君の仲間のことさ」 「僕の仲間?」 滝は立ちあがり、少しよろけたが、僕の肩に手をかけた。 「はっきりいえよ、日待。それとも」 「まってくれ、滝、一体お前、どうしたんだ」 隣のバスの残骸が爆発した。 おもわず僕達は体をふせた。 「滝,、はやく頭屋村へいこう。むこうで君のケガをみてもらおう」 「ふっつ、どうやら、頭屋村までは、君が、案内してくれるつもりらしいな」 と皮肉っぽく言う。 いったい、この滝の変心は、なんだ。 僕はバヌの転落、体を包み込んだ緑色の光、滝の豹変、わずかの間に起こった事で混乱し ていた。 それにしても、あの緑色の光は、涙岩の色に似ている。と僕は思った。 頭屋村までは、まだかなりの距離があった。 僕はもう話をする気がしなかった。 冷たい沈黙が僕達の間にあった。 が、二人は村へ向って歩きだす。 滝に肩をかしていた。バスの通りへあがり、夕ぐれの中を歩きだした。 村までの風景は僕が出かける前と、少しも変わっていなかった。 おぼろげな記憶だった けれども、はっきりと一致していた。 ようやく村へたどりついた時、来てはいけないところへ来た、そんな気がした。僕をよ よつけない何物かがあった。体がそくっとした。 最初に滝の傷をみてもらもらおうと思った。 しかし急に「彼女」のことも思いだし、どうしても会いたいと思った。 彼女の姿を浮べ、不安を振り払おうとした。 手近かの家からは光がもれている。 「ごめんください。」 答えはない。 「誰もいないんですか」 無断で家にはいっていく。人の気配がない。 隣の家家にも、走っていって声をかける。 やはり誰もいない。 不思議だが、村じゅう、物音一つしない。 滝はポケットからタバコ箱くらいの小さな機械をとりだし操作していた。 さっきから触っていたのは、これだったのか。 「滝、村には一人もいない。おかしい」 「やっぱりな、思った通りだ。」 滝は、傷のせいか、疲れた顔をしていたが、不思議に目眼だけは、 力があった。獲物を前にしたハンターの眼だ。 「いいか、もう、はっきりしたらどうなんだ、日待よ」 「何のことをいっていろんだ。滝、君はバスが転落した時から、何をいいたいんだ。.人が変っ たみたいだよ」 「ふう、簡単な話じゃないか。最近、この頭屋村へ来る人々が増えていたこと。 パスの中で老人が言ったこと。そして、今、この頭屋村に人っ子一人いないこと。すなわちご、.今日が。涙岩のくずれる日だ。今日は涙岩伝説の日だ」 僕ぼ打ちのめされる。 そうか。今日が、涙岩がこわれる日に違いない。 数百年に一度の日なのだ。 (続く) 作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所 http://www.yamada-kikaku.com/ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007.03.04 21:00:58
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