風向き
電車に遅れそうだったから走った。右手には持っているのもやっとのくらいの参考書やらがぎっしり入ったカバン。急いで乗り込んだものの、どうやら反対側の電車が遅れているそうで余裕だった。何のために急いだのか・・・そう思った瞬間にどっと疲れがきた。近頃全く感じていなかった、筋肉が強張る感覚。静かな電車の中で息切れの声を抑えるのに苦労した。しばらくして電車が出た。疲労感はだんだん吐き気に変わってきた。胃がひっくり返るような感覚がした。目的地に着き、電車を降りた。こんな気分でどうしたらいいんだろう・・・そんなことを考えながら、座っているよりは立っている方が気分がいいのでそこらを歩いていた。今日は少し暖かい。他のことに気をとられていたせいか、楽しみにしていたことにも気づかないでいた。午後からは雨らしいけれど、今は空は晴れている。風も心地よいってほどの強さで吹いている。取り出した音楽プレイヤーからは少し懐かしい曲が流れてきた。ここのところ聞いていなかったけれど、高校の入学直前の頃、春によく聴いていた曲。体の調子が少しずつ良くなるのを感じながら、またいつものように昔を振り返っていた。通勤ラッシュは過ぎて、ちょうど人通りも少ない時間。ちょっと誰もいないところに行って、そこで一人遊びをしたくなった。そんなあたりまで考えたところで正気に戻った。お前は今何するんだ!一人遊びはやめた。その代わり予備校までの道、人のいないところで少しだけ跳ねたりしてみた。こんな図体のでかい男が何を・・・自分をたしなめるような余裕を感じながら、気づくと少し上機嫌で私は歩いていた。