昨晩、何気なくTVのチャンネルを回していましたら、「 美の巨人 」とい
う番組で、日本画家・版画家の加山又造を紹介していました。
加山又造は日展の三山(東山魁夷・高山辰雄)の一人として有名ですが、彼は
生涯に渡って、その画風が紆余曲折をしながらも、晩年には水墨画に落ち着
き、見事な作品を残しています。
彼の作品の中で、私が好きな作品は、≪凍れる月光≫と≪月光波濤≫です。
加山 又造 ≪凍れる月光≫(1981)
加山 又造 ≪月光波濤≫ (1979)
上記の絵はもちろん縮小されていますので、実物の迫力はなかなか伝わらない
と思いますが、とても素晴らしい絵です。
しかし、昨晩の「 美の巨人 」では、彼の作品の中から≪冬≫をクローズア
ップして紹介していました。
加山 又造 ≪冬≫
≪冬≫という作品の何が面白いかと言いますと、この絵の真ん中を、縦の線で
左右に分けた時に、左と右の絵が、まったく違う絵になることに気付きます。
この絵の構図は、フランドルの画家ブリューゲル(1528頃~1569)の
影響を受けたものであるようですが、私はそういった画法よりも、真ん中より
も少し左寄りに描かれている、一本の木に止まっている一羽のカラスに視点が
いきました。
画面右側の絵には、複数のカラスが飛び交っていますが、左側に描かれたカラ
スは群れから離れて、佇(たたず)んでいます。
加山又造を研究している人の話では、この絵に描かれているカラスは盲目で、
飛び立つことが出来ない―――と説明をしていました。そのためにこのカラス
は、内面を見つめている―――とのことです。
つまり、この盲目で飛び立つことが出来ないカラスに、画家(加山又造)の心
が反映されている―――ということですが、私はその解釈の奥深さに、この絵
の素晴らしさを見出したのです。
と言いますも私は最近、“盲目”について、少し考えていたのです…。この
世の世界を見るには“視力”が必要ですが、私は世界を見渡すことよりも、人
の心にある内面の世界を見つめることの方が、どんなにも大切であるかを、つ
くづく感じているからです…。
視力があることはもちろん必要なことですが、目が見えることによって、かえ
って心の世界の大切さを見失っている―――という逆説が生まれているのは皮
肉なことです…。
加山又造の≪冬≫は、一羽のカラスが、人に内面の世界を誘う―――点におい
て、私はこの絵に興味が湧いたのです…。