となりの脳世界
村田沙耶香さんのエッセイ集。 私はこれまで、 「エッセイと言えばノンフィクションの世界」と思い込んでいたのですが、 本著を読み進めていく中で、 「エッセイにもフィクションの世界があり得るのか?」と、 大いに困惑してしまうことになりました。 *** ある道を歩いていても、一人はそこが新宿方面に繋がっていると言って疑わず、 もう一人はこの先は公園になって行き止まりになっていると主張する。 たとえ現実には その道は二年前かに工事されて渋谷方面に繋がるようになっていたとしても、 二人は違う現実の中を歩いている。 そんな風に考えると、今、同じ場所を歩いている隣の人も、その隣の人も、 自分の作り上げた異世界で暮らしているんだと思えてくる。 同じ場所を歩いていても、脳が違う限り、私たちは違う光景の中にいるのだ。(p.75)本著のタイトルに繋がっている部分でしょうが、「なるほどな」と頷けるものではあります。しかしながら、本著の中で明かされていく村田さんの脳世界は、凡人である私などからすると、そのぶっ飛び具合はなかなかのもので、同じ世界を生きているとは、とても思えないように感じるところも少なくありませんでした。そんな感覚から、「これはノンフィクションの世界ではなく、フィクションの世界を描いたものなのか?」と、思ってしまった次第です。しかしながら、この感性こそが、独特の世界観を小説の中に紡ぎ出していける理由なのでしょうね。