いざこざの外

第５回公判からは弁護側が申請した、各分野の有識者達が意見証人として
出廷され、それぞれの立場からの見解を述べられました。ここからは
本当に証言内容の密度が濃くなる為に、当然、全てを理解出来ず、話しに
ついていけなくなった事も度々ありました。なのでここに書く事はあくまで
私と旦那の中で印象に残っている言葉になります。詳細に興味のある方は
それぞれのホームページをご覧になって下さい。

弁護側意見証人１人目は、東京都立大学人文学部助教授で社会学者である
宮台真二先生です。TBSラジオ「荒川恭啓デイキャッチ」の金曜日に
ゲストとして出演されていらっしゃるので、ご存知の方も多いと思います。
旦那いわく「俳優山本耕史を少し丸くして、崩した感じ」の容姿です。
この日の証言は、証拠として提出したけれど不採用になった先生作成の
意見書があって、それを元にしての話しが多く出ました。意見書の内容に
ついては「習俗としてのわいせつ観念・法的規制としてのわいせつ観念」
「法と道徳」「学説転換の社会的背景」「わいせつ三法」「暴力的メディア
性的メディアについての効果研究」等々、見るからに密度の濃いタイトルが
連なっています。宮台先生のホームページに全文が掲載されていますが、
慣れない分野というのもあって読むのに一苦労でした。

証言の中で分かりやすく、自分達の生活レベルで考えられたのは
「空間分割（ゾーニング）」をして、性的メディアの分離を目指すことの
有効性でした。つまり見たくない人が、見たく無いものを見ないですむ
権利というのを守り、かつ見たい人への配慮、表現の自由を守る方法として
有効ということになる、大雑把すぎますが、そういう主張がありました。
そもそも「わいせつ」というのは習俗によって変遷するものであって
それを越えての取締というのは、おかしい話しになります。
わいせつとされるものは、一般に期待されない空間内にあるかどうかで
（例えば学校や教会の隣にストリップ小屋が立地することは、明らかに
わいせつだとみなされると言う様に書かれていますが）法的規制が習俗を
上回るべき理由が見出せない以上「空間分割の規制」を優先させるべきと
いう事を言われていました。

青少年に対しての影響について話されていた事も印象強かったです。
証言の際には人間をピストルに例えての話しがありました。
性的あるいは暴力的な刺激を受けることを「トリガーを引くこと」に例え
刺激を受けても犯罪に走る因子としての「銃弾」が無ければ、弾が発車され
人を傷つける事はありません。逆に言えば、因子を備える人は性的・暴力的
でなくても、何らかの外的刺激でトリガーを引いて、人を傷つけてしまう
可能性があるという事になります。結局わいせつ本に関しても、青少年に
好ましくない事は確かであるけれども、それがイコール性的犯罪を助長する
とは限らないという事です。

結局、どの様な法的措置が取られようとも、見たくない人が自らが望まない
情報に出会してしまう可能性というのは、ゼロにはならない訳です。むしろ
性についてのメリット・デメリットを家庭内で話す時には、何らかの情報が
あることの有用性もあるのではないかと話されていた様に思います。
これに少し関連する内容のことを、２００３年５月８日に開かれている
「衆議院青少年問題に関する特別委員会」で参考人としてお話をされた
宮台先生が、オランダの研究を挙げていました。この裁判の証言とは直接の
関係は無いのですが、青少年への影響というのを考えると興味深いので
こちらにも概要を書いておきます。これは麻薬が社会に広まって来た時に
子供達に麻薬はいけないと教えたグループ、麻薬のいけない理由を説明した
グループ、麻薬の是非を議論させたグループとに分けて、その後を調査する
ロングスパン研究です。経年調査の結果、最も麻薬に手を出したのは麻薬を
禁止されたグループで、最も割合が低かったのは子供達自身が討論をした
グループだったそうです。臭い物には蓋をしろの理論で、悪い事に接しない
もしくは接触を許されない人間が、善悪の判断を自分で出来るのかどうか。
そういう話しにも繋がりそうです。勿論、誤解の無いように言えば、だから
悪い物へ積極的に関わって考えさせた方がいいとは思いません。大人の娯楽
として存在するものを、子供への悪影響を配慮して安易に政治的規制が介入
する事に関して、慎重であるべきだと私も思うのです。

さて。宮台先生が証言をされた後、裁判長横に控えている裁判官がそれぞれ
質問をしました。裁判長の左隣に座っているのが左陪席裁判官というらしい
のですが、その方が性的メディアの定義と、法規制されている物を解禁する
という主旨に受け取れた発言について確認の質問をされました。
さらにその後、裁判長右隣の右陪席裁判官が怒った様に質問をしました。
密室という本を規制することに対して、法理が正当化出来ないだろうという
言葉を受けてか、ゾーニングを行政措置で行なうと言うならそれが守れない
場合は一体どうするのか。又、ゾーニング規制を受ける物かどうかの判断は
誰がすればいいのかという様な事を、端から見ていても裁判官とは思えない
「キレ具合」で語気荒く質問します。一体、何をそんなに怒っているのか。
この人は少しおかしいのではないかと、本気で思いました。後から考えて
法を司る裁判官の前で、わいせつ図画頒布を扱う刑法の不備を理論的に
説明された事に対してが、自分達へのあからさまな批判に思えたのかも
しれません。自分達の守る法が否定された為に怒ったのか。ゾーニングが
必要な物に関してを決定するのに法の介入が必要と言うならば、今の法で
何が悪いのかと言いたかったのか。

裁判官の熱い口調とは対照的に、宮台先生が淡々と冷静に説明する様子は
少し滑稽に見えました。大変失礼な表現になりますが、出来の悪い学生が
教授にイチャモンを付けている姿に重なります。
キレた右陪席裁判官も忘れられない出来事として、最後に書いておきます。